○が滅んだ日
掲載日:2026/03/08
(以前140字小説として発表したものに加筆修正を行ったものです)
今日の朝早く、一匹の獣が死んだ。
惜しみなく予算と労力を注ぎ込んだ、可能な限りの手厚い延命措置を施された上で、どうか目を開けてくれ、死なないでくれと、皆に惜しまれ、涙で見送られて、都内の動物園で息を引き取った。
……もう随分高齢であったので、しばらく前から檻の隅でうずくまって一日の大半を過ごしていた。
以前は、檻の外から観客たちからの歓声を浴びると、返事をするように痩せた尻尾の先を小さく振る仕草がかわいらしいと人気を集めていたが、暮れに体調を崩してからはそんな姿もほとんどみられなくなっていた。
獣が死んだことが大々的に報じられ、昼までには店舗の店先にぬいぐるみや往時の姿を収めた写真集が並び、人気俳優が飼育係を演じる感動のドラマが特番として組まれ、多大な経済効果を上げるだろう。
近代化による開発で生息に適した湖や泉を失い。
美しい角や鱗や、珍味として持て囃される肉、不老の妙薬と言われる内臓を目当てにした人間に狩り尽くされて数を減らして。
つがいの片割れが病死した後、なお五十年生きたその末に、この世で最後の一匹が今日死んだ。
今日、竜は絶滅した。




