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第7話

翌日、リアムはセレスティアを伴い、再び王城へと向かった。

国王臨席の場で、正式な婚約の許可を求めるため。そして、すべての偽りを暴き出すために。


玉座の間には、アルフォンス王子と聖女エリス、そしてセレスティアの両親であるヴァインベルク伯爵夫妻も呼び出されていた。彼らは皆、セレスティアを侮蔑と嘲笑の目で見ていた。


「シュヴァルツフェルド公。わざわざご足労だが、このような出来損ないとの婚約など、我が国として認めるわけにはいかんな」


国王が、さも当然といった口ぶりで言う。

しかし、リアムは表情一つ変えずに、携えてきた分厚い書類の束を侍従に渡した。


「まずは、こちらの証言録を。聖女エリスがセレスティア嬢に罪をなすりつけた一部始終を見ていた侍女たちのものです」


ざわ、と場がどよめく。

エリスの顔から、さっと血の気が引いた。


「そ、そんなの嘘です! この女が、侍女を買収したに決まってます!」

「では、こちらは? 貴女が壊されたと主張する『聖具』の鑑定結果です。ただのガラスと真鍮で作られた、安物のガラクタだと出ていますが」


次々と突きつけられる証拠に、エリスは言葉を失う。

リアムは、憐れむような目で彼女を見つめた。


「貴女は、聖女ではない。異世界から迷い込んだ、ただの孤独な少女だ。その微弱な魔力を、国の魔力増幅装置で誇張し、人々を騙していたに過ぎない」


「ちがう……ちがう……!」


エリスは首を振り、ついにその場に泣き崩れた。

「だって、仕方がなかった! 元の世界に帰りたかったの! そのためには、聖女として大きな功績を上げるしかなかった!」


堰を切ったように、彼女の口から本音が溢れ出す。

「誰も私を見てくれなかった! ここでも、元の世界でも、ずっと一人だった! ちやほやされて、愛されてみたかっただけなのに! 何が悪いのよ!」


その叫びは、悲痛だった。

特別な力を持たない少女が、必死に自分の居場所を求めて足掻いた結果が、この歪んだ悲劇だった。

同情の余地はない。しかし、彼女の魂が抱える深い孤独と渇望は、あまりにも哀れだった。


「……偽聖女を捕らえよ。地下牢へ投獄し、二度と日の目を見せるな」


国王の冷たい声が響き、エリスは騎士たちに両腕を掴まれ、泣き叫びながら引きずられていった。

その姿に、もはや聖女の面影はどこにもなかった。


「……父上! 俺は騙されていたのです! あの女狐に!」


エリスが連れ去られると、アルフォンス王子は待ってましたとばかりに叫んだ。すべての責任を彼女になすりつけ、自分だけは助かろうと必死だった。


だが、国王の視線は氷のように冷たい。

そして、リアムが最後の一撃を放った。


「貴殿は、人の本質を見抜く力がない。聖女が偽物であることすら見抜けず、そして何より――」

リアムはセレスティアの肩を優しく抱き寄せた。

「――隣にあったはずの『本物』の価値に、最後まで気づくことができなかった」


(本物……?)

セレスティアが戸惑っていると、その言葉に激昂した国王が、玉座から立ち上がろうとして、ぐらりと身体を傾かせた。


「ぐっ……!」

「陛下!?」


国王は胸を押さえ、苦痛に顔を歪ませる。持病の心臓の病が、この激しい心労で悪化したのだ。

侍医が駆け寄ろうとするより早く、セレスティアは動いていた。


(助けたい……!)


ただ、その一心で。

彼女は国王のそばに駆け寄ると、震える手をおそるおそる、その胸にかざした。


次の瞬間。

セレスティアの手のひらから、淡い、しかし誰もが見惚れるほどに美しい白銀の光が溢れ出した。

それは、かつて暴走した破壊の光ではない。

温かく、穏やかで、すべてを浄化するような、慈愛に満ちた輝き。


光が国王の身体を包み込むと、その苦しげだった表情が、みるみるうちに和らいでいく。


「こ、これは……」


その場にいた誰もが、目の前の奇跡に息を呑んだ。

ヴァインベルク伯爵夫妻は、自分たちの娘が持つ本当の力に、今さらながら気づいて愕然としている。


そして、アルフォンス王子は。

自分が「出来損ない」「無価値」と罵り、捨てた女が、国宝級の癒しの力を持つ『本物の聖女』であったという事実を突きつけられ、膝から崩れ落ちた。


「あ……あ……」


彼のプライドは、粉々に砕け散った。

彼が信じていた価値は、すべてが見当違いだった。血筋という借り物の上にあぐらをかいていただけの、空っぽな自分を、彼はこの瞬間に思い知ったのだ。その顔には、絶望と、あまりにも惨めな悲哀が浮かんでいた。


やがて光が収まると、国王は穏やかな呼吸を取り戻していた。

セレスティアは、自分の手のひらを見つめる。これが、私の、本当の力……。


リアムが、そっとその手を握りしめた。

その温もりに顔を上げると、彼は心からの優しい笑みを浮かべていた。


「ほら、言っただろう。君は化け物じゃない」

その金の瞳が、愛おしそうにセレスティアを映す。


「世界で最も尊い力を持つ、私の至宝だ」


セレスティアの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

それは、過去の悲しみを洗い流し、新しい未来への希望を告げる、温かい涙だった。

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