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第6話

大使館の薔薇が咲き誇る庭園で、セレスティアはリアムと二人、静かな時間を過ごしていた。

甘い花の香りが風に乗って運ばれてくる。昨日までの喧騒が嘘のようだ。


「……公爵様。単刀直入にお伺いします」


セレスティアは、意を決して向かいに座るリアムの瞳をまっすぐに見つめた。

「なぜ、私なのですか? 出来損ないで、魔力もまともに扱えない私を、これほどまでに気にかけてくださる理由が分かりません」


政略。同情。気まぐれ。

どんな答えが返ってきても、受け入れる覚悟はできていた。

しかし、リアムの口から紡がれたのは、想像を絶する言葉だった。


「君を初めて見たのは、10年前。雪の降る寒い夜だった」


(10年前……?)


「私は父の使いで、この国を秘密裏に訪れていた。その時、強い魂の輝きを感じて、導かれるようにある屋敷へ辿り着いた。――ヴァインベルク伯爵邸だ」


リアムの金の瞳が、遠い過去を見つめている。

「輝きは、地下から漏れていた。窓から中を覗くと、小さな女の子が一人、膝を抱えて泣いていた」


セレスティアは、息を呑んだ。

全身の血が、さあっと引いていく感覚。

あの、孤独で冷たい地下室。誰にも知られるはずのない、記憶の底に封印した場所。


「君は『化け物』だと自分を責めていた。だが、私には視えた。君から溢れていたのは、破壊の力ではない。あまりにも純粋で強大すぎる、聖なる癒しの光だった」


リアムの一族は、代々、人の魂が放つ根源的な輝きを視る特殊な力を持つという。

そして彼自身もまた、幼い頃、その強大すぎる魔力ゆえに周囲から「化け物」と恐れられ、孤独を抱えて生きてきたのだと、静かに語った。


「君は、私と同じだった。だから、放っておけなかった」


彼は懐から、古びた小さな匂い袋を取り出した。中には、乾燥したカモミールとラベンダーが入っている。セレスティアが驚きに目を見開く。


「あの時の……!」

「ああ。君が少しでも安らげるようにと願って、窓から差し入れた。いつか必ず君を迎えに来ると、心に誓って」


あの夜、顔も知らぬ少年にかけられた優しい言葉。

『大丈夫。君は、化け物なんかじゃない』

不安な夜を幾度も支えてくれた、あの声。あの温もり。

すべてが、目の前の男性に繋がった。


「ずっと、探していました。私の唯一の光。ようやく、見つけた」


リアムはセレスティアの前に跪くと、彼女の震える手を、両手で優しく包み込んだ。

「君の力を恐れるな、セレスティア。それは誰かを傷つけるためのものではない。君の優しい心と同じ、人々を癒し、救うための力だ。私が必ず、それを証明してみせる」


真摯な金の瞳に見つめられ、セレスティアの頬を、熱い涙が伝った。

10年もの間、孤独な闇の中にいた自分を、ずっと探し続けてくれた人がいた。

信じ続けてくれた人が、いた。

その事実が、凍りついていた心を、ゆっくりと溶かしていくのだった。

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