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2017年7月18日(火)曇り

 2017年7月18日(火)曇り


 この夏は、少しずつ、俺に味方しはじめていた。

 二回戦、三回戦と、嘘のようにスムーズに勝ち進んでいく。

 マウンドの上でボールを握るたび、肩から腕へと流れ込んでくる力が確かに感じられた。

 ピッチャーとして、チームの一員として、その一球に声援が集まる。

 歓声に背中を押されながら、俺は今、たしかに「ここにいる」と実感していた。

 前の学校では感じられなかった、何か特別な感情が心に広がる。

 放課後の教室でも、何となく空気が違ってきた気がした。

 クラスメイトの挨拶がよりフランクになり、冗談の数も増えた。

「光、お前また今日も投げるのかよ」とか「試合後にアイス買ってこいよ」とか、そんな会話ひとつで、肩の力がふっと抜ける。

 誰かの期待を背負って、グラウンドに立つ自分が、少し誇らしくて、でもどこか照れくさかった。

 家に帰れば、母が夕飯をつくりながら笑っている。

 湯気の向こうで、「昔の光に戻ったみたい」とつぶやく声が聞こえた。

 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 少年野球のころ。

 都大会を目指して、朝も夜もグラウンドで泥まみれになっていたあの日々。

 あのころの自分が、今ここにもう一度戻ってきているような気がした。

 勝ちたいと思えることの幸せを、ようやくまた感じられている。

 ――とはいえ、現実は甘くない。

 学園祭の熱狂がようやく落ち着いたかと思えば、今度は期末テストが待ち構えていた。

 クラス全員がクタクタになっている中、まるで追い打ちをかけるように試験がやってくる。

 ――なぜこのタイミングなんだ……。

 誰にぶつけることもできない苛立ちを抱えながら、俺たちは再び机に向かわされた。

 そんな中で、ひとつだけ救いがあった。

 それが、日本史。

 小学生の頃、新宿の本屋で母が買ってくれた、日本史の漫画。

 戦国武将の名言や、幕末の熱狂を、何度も何度もページが擦り切れるほどに読み返した。

 物語のように頭に染み込んでいたその知識が、今になって思わぬ形で力を貸してくれる。

 答案を返されると、思わず目を疑った。

 まさかの、学年トップクラスの点数。

 そのせいで、日本史の担当の高橋監督が眉をひそめて言った。

「お前、……カンニングしてねぇよな?」

 冗談半分、本気半分。

 でもその目つきは、試合中のサイン確認より鋭かった。

「いえ、してません!」と答えながらも、俺は思わず笑ってしまった。

 監督もクスリと笑い返し、空気がほぐれる。

 そんなひと悶着さえ、今となっては、ひと夏の鮮やかなスパイスだ。


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