表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/68

2017年6月30日(金)晴れのち雨

 2017年6月30日(金)晴れのち雨


 たまたまだった。学園祭二日目、プラネタリウムで橘先輩と一緒になった。

 最初は、なぜか息が止まるほど驚いたが、先輩の隣で過ごせることに抗えなかった。

 ごめんキャプテン。でも、どうして先輩と一緒にいたいと思ったのだろうか?

 最終的に橘先輩の提案に頷き、星空の下で肩を並べて座る。暗闇に浮かぶ先輩の横顔は、あの頃と変わらず……あの頃? でもなぜか、その表情が優しくて――思わず心が緩んだ。そのおかげか、こちらも意識がふわふわして、自分でも自分が何を話しているのか分からなかった。でも……本当にリラックスできたと思う。

 別れ際、先輩が「またね」と笑って手を振った瞬間、胸の奥で何かがきしんだ。もっと一緒にいたかった。けれど、そう思ってしまう自分が一番危ういのだとわかっている。キャプテンには迷惑をかけられない。

 ため息をつきながら、自分の係の展示へと足を運ぶ。雪に押しつけられた先生方の”自分の宝物”の展示。正直、こんな企画誰得だよ……と心の中で思いながらも、教室の扉を開ける。

 懐かしい……いや、なぜ懐かしいと思った? どこかで見たような既視感が胸をくすぐる。目に飛び込んできたのは、昨年の野球部の集合写真。高橋監督の展示物だろうか……。そこには、昨年亡くなった輿水大気君が笑って立っていた。

 そして、その写真の前に二人の後ろ姿。なぜか見覚えがある。それでも誰か思い出せない。二人の男女の大人が立っていた。

「あ……」

 なぜか思わず声が漏れそうになる。

 振り向いた女性が、少しはにかみながら言葉をかけてくる。

「あら……あなたも、野球部なの?」

「ええ……そうです。二年の工藤と言います」

 喉が詰まり、絞り出すように答える。

 男性が写真を見つめたまま、小さく呟いた。

「……大気も、あのとき、こうして笑ってたんだな」

 胸に鋭い痛みが走る。自分が大気であったことを忘れているのに、胸の奥が何かを思い出そうとしている。

「もしかして……輿水大気君のご両親ですか?」

 すると男性もこちらに振り返り、でも優しい目をしていた。

「ええ。もう息子はいないのですが……高橋監督からご招待いただいて。妻とお邪魔しております。そういえば、夏の大会、もうすぐですよね」

「はい……」

「どうか、頑張ってくださいね」

 その男性の声は優しかった。なのに、胸が締め付けられる。二人は静かに教室を後にした。

 ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。

 足がすくんで動けない。

 ふと窓の下から、聞き慣れた声が耳に届く。覗くと、一階の渡り廊下をキャプテンと橘先輩が並んで歩いていた。手には色鮮やかなタピオカのカップ。笑い合う二人の姿は、どこからどう見ても自然で、幸せそうだった。

 そして、外では夕立だろうか。遠くの雲が暗くなり、急に稲光が世界をかき消していく。

 雨の匂いと、雷の残響が、胸の奥に妙な余韻を残した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ