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2017年5月21日(日)晴れ

 2017年5月21日(日)晴れ


 今日も、りんややはじめたちとは会話できなかった。

 それ以上に、信二が千紗先輩と付き合っていることを知り、胸の奥がぐらりと揺れた。頭の中は混乱し、ただ無意識に帰宅した。

 風呂から上がり、まだ熱の残る頬を冷ましながら居間に降りると、祖母がテレビの前に腰かけていた。古い映画を夢中で見ている。今日は『ルパン三世 カリオストロの城』らしい。

「一緒に見る?」と振り返って笑顔を見せられたが、正直、布団に潜り込みたかった。けれど、胸のざわめきから逃げるように結局最後まで隣に座った。

 ラストシーン。

 ヒロインがルパンに「泥棒の仲間にして」と懇願する。真剣な眼差しに、こちらの胸まで震える。

 ルパンも彼女を大切に想っていたに違いない。けれど、ほんのわずかに迷った後、笑みを残して言う――「ばかなこと言うんじゃないよ、また闇の中に戻りたいのか?」と。

 ヒロインが振り返ったまま見送る後ろ姿が切なく、胸に鋭いものが走った。

 映画が終わり、静けさが戻った居間で、祖母がポツリと呟いた。

「ルパンって……かっこいいね」

「なんで?」と聞くと、祖母は少しだけ目尻を細めて微笑んだ。

「本当に大事な人なら、その子の未来を考えてあげるのよ。自分の気持ちじゃなくて、相手の幸せを一番にね」

 その言葉が、心臓に直接突き刺さった。

 俺は、本当に千紗先輩の幸せを願えていたのだろうか。

 短絡的に、また会いに行けば喜んでくれる――そう信じて疑わなかった。でもそれは「会いたい」「触れたい」「話したい」、そんな独りよがりの気持ちだったのかもしれない。

 いや、それだけじゃない。

 先輩への想いは、もっと深い。けれど――もし先輩が信二と一緒に笑っていられるなら、その未来を壊す権利なんて、俺にはない。

 俺がいなくても先輩が幸せなら、それでいい。そう思うと、少し安心して……同時に、どうしようもなく悲しかった。

 まるで胸の奥に、あたたかさと冷たさが同時に流れ込んできて、混ざり合わないまま重なっていくようだった。

 でも答えは一つ。

 俺にできることは、甲子園に連れて行くことだけだ。

 あの日、台風の朝に先輩が言った言葉――

『来年の甲子園で活躍を見せてほしい』

 ただの呟きだったかもしれない。けれど、あの時先輩が見たかった景色があるなら、それを俺が見せたい。

 信二のために。千紗先輩のために。

 そして、自分のために。

 その覚悟だけが、今の俺……輿水大気ではなく、工藤光として生きる理由だ。

 だから俺は、工藤光に徹する。

 本気で、そう決めた。

 そして、気が付いたら――不思議と意識が遠くなっていた。

 まるで、誰かに手を引かれるように、現実と記憶の境界が溶けていく。

 ――でも、この感覚は、決して怖くなかった。


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