表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

魔束彩菜はホームステイの女の子

 帰り道、俺たちは並んで歩いていた。


「なあ、魔束は“魔法使い”でいいのか?」


 ずっと心の奥で引っかかっていた言葉が、口をついて出た。

 魔法使い──そんなのはもう、わかってる。

 あの戦いを目の前で見せられたら、否定のしようなんてない。


 それでも。

 本人の口から、その言葉を聞きたかったんだと思う。


「そうよ」


『我々の世界では“メイジ”と呼ばれておる』


 喋る指輪、エスフェリアが淡々と補足する。


「……本当に、魔法使いがいるんだな……」


 しばらく沈黙が続いたあと、ふと思い出したように口を開く。


「……そういえば、魔束の家ってどこなんだ?」


「こっちの世界に家なんてないわ」


「は? じゃあどうやって生活するんだよ!」


「それなら大丈夫。今日から、あなたの家に泊めてもらうから」


「はあ!? なんだよそれ! 銀髪の魔法使いが急に家に来たら、母さんが驚くだろ!」


「それなら大丈夫」


 魔束は当然のように言った。


「……大丈夫って、何がだよ」


「とりあえず、あなたの家に行けばわかるわ」


 そう言って、彼女はそれ以上何も語らず、歩き出す。

 俺は思わず、ため息をついた。


「……なんだよ、大丈夫って……」



 家の玄関を開けて中に入る。


「母さん、ただいまー」


「楓真おかえり〜」


キッチンの奥から顔を出したのは、ふわっとした柔らかい雰囲気の女性──俺の母さんだ。

 栗色の髪をゆるく結び、エプロンの上からも伝わる落ち着いた雰囲気。

 優しげな目元はいつも穏やかで、どこか天然っぽさもあるけど、俺が小さい頃からずっと支えてくれた。


「えっと……そちらの方は?」


 母さんがそう言った瞬間、空気がふっと浮いたような違和感を覚えた。


 次の瞬間──


「あら、あなたが今日からうちにホームステイに来る魔束彩菜さんね!

 どうぞどうぞ、遠慮しないで。自分の家だと思ってゆっくりしてね!」


 母さんはあたかも最初からすべてを知っているかのように、にこやかに彼女を迎え入れた。


「ありがとうございます。お邪魔します」


 魔束もそれが当然であるかのように、すっと玄関を上がる。



「……なんだよ、さっきの」


 母さんが別室に行った後、俺は玄関の靴を見ながらつぶやいた。


「《エスフェリア》があなたのお母さんの記憶を調整した。“海外からのホームステイの子が来る”と思い込むように」


「記憶を……書き換えた……?」


 背筋がぞくりと冷えた。


「ちょっと待てよ。それって……いいのかよ? 勝手に人の記憶をいじるなんて……」


「やむを得ない処置よ。私の存在は、“この世界の常識”の外にあるものだから」


 魔束は、まるでそれが当然だと言わんばかりの目で、俺を見た。


 ──そうか。魔法使いにとって、これが“当たり前”なんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ