VSノクタニアの魔獣 後編
魔束の足取りは軽やかで、鋭かった。
剣を振るうたびに光の刃が奔り、獣の肉体を容赦なく切り裂いていく。
ズバッ、ズバッ──
空間に魔力の残光が残り、再生しかけた部位も瞬時に分断される。
「しぶといわね……でも、終わらせる」
魔束は指輪にそっと視線を落とし、静かに告げた。
「エスフェリア。構成パターンB、斬撃強化。少し急ぎで」
『了解した。魔力の流れは整ってる。負荷は上がるがやむを得ん』
「お願い。制御は問題ない」
『いいだろう。じゃあ、いくぞアヤナ。動きはいつも通りでな』
そのやりとりと同時に、魔束の身体が疾走した。
跳躍、斬撃、回転。空気を裂くような連続攻撃が獣の巨体を斬り刻む。
ズバッ、ズバッ──!
再生しかけた肉体も、刻まれるたびに魔力が焼き尽くしていく。
『剣の軌道、ちょっと甘いぞ。踏み込みを意識するんだ』
「修正した。次、右側面から入る」
『よし、そのまま──押し切れ』
「《ヴァリアス・フィルス》!」
五つの光の軌跡が連続で走り、獣の体を完全に切断する。
爆ぜる魔力。四肢が弾け飛び、再生の隙すら与えず──
巨体は、悲鳴を上げる間もなく消滅した。
……沈黙。
魔束は静かに着地し、光の剣をそっと地面に突き立てると、それも蒸気のように霧散していった。
「……片付いたわ」
小さく、静かに呟き、魔法陣も音もなく消えていく。
結界空間が解かれ、空気が戻る。
重たかった空が、ゆっくりと元の青に戻っていった。
俺は、ただ立ち尽くしていた。
いや、立っているというより──圧倒されて、動けなかった。
魔束彩菜。
その存在は、もはやただの“転校生”なんかじゃない。
あの剣、魔法、空間そのものを塗り替える力。
そしてそれを当然のように使いこなす、彼女の強さ。
次元が違う──そう思うしかなかった。