表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

3人の食卓

風呂から上がった魔束は、髪をタオルで軽く拭きながらリビングに戻ってきた。


「ふう……。いいお湯だったわ。あなたの家、意外と居心地いいのね」


「勝手に馴染むなよ……」


俺は呆れながらも、食卓に並ぶ料理を見る。テーブルの中央には、母さんが作ってくれた煮込みハンバーグと彩り豊かなサラダ。それを囲んで、三人分の箸とお茶が揃っていた。


「さ、ごはんにしましょ。冷めちゃうわよ〜」


母さんが笑顔でそう言って、自分の席に腰を下ろす。


……こうして、銀髪の魔法使いと俺と、そして母さんという妙な組み合わせでの夕食が始まった。


「いただきます」


三人そろって手を合わせる。


箸を動かしながら、母さんがにこにこと言った。


「楓真が女の子とごはんを食べるの、久しぶりに見たわ〜。最近さくらちゃんも来ないし、お母さん、ちょっと寂しかったのよ。あ、彩菜さん、好き嫌いとかない?」


「ありません。どれもとても美味しいです。ありがとうございます」


魔束が丁寧に答える。その様子は、まるで“完璧な優等生”を演じているかのようだった。


「ふふっ、よかったわ〜。気を遣わずに、いっぱい食べてね」


「はい。いただきます」


……まったく、なんなんだこの自然なやり取りは。


俺は黙ってごはんを口に運んだ。母さんのハンバーグは、昔から変わらず美味い。


しばらくして──母さんが席を立ち、台所に行ったタイミングで、魔束がふと口を開いた。


「ねえ、少し聞いていい?」


「ん?」


「あなたの……お父さんって、今は?」


「……っ」


箸を持つ手が止まる。


「ごめん。聞いちゃいけなかった?」


「……いや、いいよ。隠してるわけじゃないし」


そう言って、少しだけ声を落とす。


「父さんは……俺が小さい頃に、どこかへ行った。母さんは“仕事の関係で帰れないだけ”って言ってるけど、もうずっと会ってないんだ」


魔束は静かに俺の顔を見つめていた。


「……母さんは強い人だよ。俺をひとりで育ててくれてさ。だから俺、せめて心配させたくなくて」


「……そう」


魔束はそれ以上なにも言わなかった。


ただ、そっと視線を落とし──静かに、食事の続きを始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ