3人の食卓
風呂から上がった魔束は、髪をタオルで軽く拭きながらリビングに戻ってきた。
「ふう……。いいお湯だったわ。あなたの家、意外と居心地いいのね」
「勝手に馴染むなよ……」
俺は呆れながらも、食卓に並ぶ料理を見る。テーブルの中央には、母さんが作ってくれた煮込みハンバーグと彩り豊かなサラダ。それを囲んで、三人分の箸とお茶が揃っていた。
「さ、ごはんにしましょ。冷めちゃうわよ〜」
母さんが笑顔でそう言って、自分の席に腰を下ろす。
……こうして、銀髪の魔法使いと俺と、そして母さんという妙な組み合わせでの夕食が始まった。
「いただきます」
三人そろって手を合わせる。
箸を動かしながら、母さんがにこにこと言った。
「楓真が女の子とごはんを食べるの、久しぶりに見たわ〜。最近さくらちゃんも来ないし、お母さん、ちょっと寂しかったのよ。あ、彩菜さん、好き嫌いとかない?」
「ありません。どれもとても美味しいです。ありがとうございます」
魔束が丁寧に答える。その様子は、まるで“完璧な優等生”を演じているかのようだった。
「ふふっ、よかったわ〜。気を遣わずに、いっぱい食べてね」
「はい。いただきます」
……まったく、なんなんだこの自然なやり取りは。
俺は黙ってごはんを口に運んだ。母さんのハンバーグは、昔から変わらず美味い。
しばらくして──母さんが席を立ち、台所に行ったタイミングで、魔束がふと口を開いた。
「ねえ、少し聞いていい?」
「ん?」
「あなたの……お父さんって、今は?」
「……っ」
箸を持つ手が止まる。
「ごめん。聞いちゃいけなかった?」
「……いや、いいよ。隠してるわけじゃないし」
そう言って、少しだけ声を落とす。
「父さんは……俺が小さい頃に、どこかへ行った。母さんは“仕事の関係で帰れないだけ”って言ってるけど、もうずっと会ってないんだ」
魔束は静かに俺の顔を見つめていた。
「……母さんは強い人だよ。俺をひとりで育ててくれてさ。だから俺、せめて心配させたくなくて」
「……そう」
魔束はそれ以上なにも言わなかった。
ただ、そっと視線を落とし──静かに、食事の続きを始めた。




