鍵の可能性
「……本当に、住み着く気なんだな、あいつ」
部屋に戻り、エスフェリアと二人きりになった俺は、念のためもう一度確認する。
『結城楓真。おぬしを監視するとなると、それが一番効率がよかろう。それに、またいつ襲われるとも限らん』
現実離れした状況に、俺は思わず頭をかく。
「俺は、“鍵の可能性”ってやつなんだろ? ……まだ確定じゃないってことか?」
『いかにも。おぬしはあくまで、“鍵の可能性”を持つ者。確定ではない。だが、その魂に微かに宿る“因子”が、確かに反応している』
「因子って……。じゃあ……俺が原因で、あんな化け物が現れてるってのかよ……?」
『原因というより、“引力”だ。……無意識に放たれる“鍵の波動”を嗅ぎつけて、魔獣たちはおぬしのもとへと引き寄せられてきておるのだろう』
「……俺が襲われるのは、この“鍵の可能性”のせいってことか?」
『そうだ。ノクタニアの者たちは、“鍵”の力を手に入れようとしている。ゆえに、おぬしの存在が確認された時点で、利用の対象となった』
言葉に詰まり、俺はベッドに倒れ込んだ。天井を見つめる。
「……俺には、そんな力、ないんだぞ。クラスでも目立たない、ごく普通の俺が……どうして」
『今は、な』
エスフェリアの声は、どこか優しかった。だけどその奥に、確信のような硬さがあった。
『アヤナ──魔束彩菜は、その“可能性”を見届けるためにここにいる。彼女の使命は、おぬしが“扉を開く者”なのかどうか、監視し、見極めることにある』
「……監視、か」
『“鍵を継ぐ者”が目覚めれば、扉が開く。だが、もしおぬしが違うと判明したなら、そのときは彩菜もこの世界を去ることになるだろう』
「……それで全部終わりってわけか」
胸の奥が、少しだけ重くなった気がした。
自分が“特別”かもしれない。
でも、そうじゃない可能性もある。
もしそうなら、今の生活に戻れる──
だけど、心のどこかで、それだけじゃ済まないとわかっていた。
「……なんで俺なんだよ」
呟いたその言葉に、返事はなかった。




