第一卷:龍淵遗誓(220〜280年) 第1章·機関鳶墜 第二回·刀劈密匣 ②魔刀初醒
(一)月蝕と心の魔物
夜中の12時、紫檀の箱が月光を吸収し、惨めな緑色に染まっていた。それは腐った蛍のように川岸の上空に浮かんでいる。夏侯覇は屍の山の中で一人座り、九連の金背刀を血塗られた泥の中に突き刺していた。刀身の饕餮模様には細かい歯が生え、蜀軍の指を咀嚼しているようだった。三丈(約9メートル)離れた葦の茂みでは、曹獰が縮こまっていた。彼の持っていた五帝銭は既に溶け、銅の液体に変わっていた――それはかつて広陵王の墓から盗んだ陪葬品だったが、地煞の気で侵食され、司馬家の渾天儀紋に歪んでいた。
「将軍…川の水が引いてる…」曹獰の声は砂紙で擦られたようにかすれていた。
彼の右手薬指は先端が欠けており、これは三日前に夏侯覇のために毒を試して自ら切り落としたものだった。その切断面からは三匹の屍虫が這い出し、甲羅には蚊の足ほどの細さで「甲子」の文字が刻まれていた。
夏侯覇はまるで聞こえていないかのように振る舞っていた。彼の指先は羊皮紙の地図上の咸陽古道を撫でており、インクが蛇のように動き、黒い鱗を持つ大蛇と父・夏侯惇の片目との間で形を変えた。
「元讓、我が息子よ…」
突然、地図が夏侯惇の声を発し、彼は驚いて皮の巻物を握り潰しそうになった。
「あの時、父はお前の弟の胎児を裂いた。それは夏侯家の万世にわたる覇業のためだったのだ…」
「黙れ!」
刀光が幻想を打ち砕くが、さらに深い記憶の渦に引き込まれた。建安七年の豪雨の夜が眼前に蘇る:母が首吊りに使った白い布、暗室のろうそくの光の下で父が胎児を切開く狼牙刀、そして金色の星図が浮かぶ胎盤――それが今、紫檀の箱から伸びた蒼白な腕と重なった!
「将軍、匣底を見ろ!」曹獰が突然叫んだ。
夏侯覇が見下ろすと、紫檀の箱の内側には処女の経血で書かれた二行の篆書があった。
「七殺親を喰らい、魔刀開刃す;龍淵現世し、天地熔かる」。
彼は突如、父が臨終時に自分の手首を死に物狂いで掴んでいた理由を理解した――それは父子の情ではなく、血を地煞令に注ぎ込むためだったのだ!
(二)指を断ち、心を問う
「曹獰、お前は何年俺についてきた?」
夏侯覇が突然口を開いた。その声は恐ろしいほど平静だった。彼は血塗られた魔刀を引き抜き、刀背の血管状の模様がぐつぐつと動き、地面に散らばる屍の血を啜っているようだった。
「十…十七年だ」副将の喉仏が上下に動く。
独眼は川面に浮かぶ亀甲の破片に向けられていた。そこから編鐘の音が微かに響き、その度に彼の機械義肢が震えた――それは去年、梁孝王の墓を荒らした際に青銅の獣に左腕を噛み千切られ、入れ替えたものだった。
「十七年か…」夏侯覇の刀先が曹獰の顎を持ち上げる。
「それで十分だ。司馬昭がお前の脊椎に傀儡虫を仕込んだのだな」
突然、刀気が爆発し、副将の皮甲を引き裂き、背中にはびっしりと針穴が露わになった――それぞれの孔から半分だけ出た青銅の糸が、小さな渾天儀の形に織り込まれている!
曹獰の瞳孔が瞬く間に墨色に広がる。
「将軍が既に看破したなら…」
彼の声が突然、司馬昭の陰柔な調子に変わる。
「何故共にこの九嵕山の血鼎を掌らない?!」
機械義肢が突然飛び出し、五本の指が毒付き鉄の爪となり、夏侯覇の喉元に絡みつく。
魔刀が火花を散らし、夏侯覇の顔を照らし出す――彼の左目はすでに血のように赤い縦の瞳孔になり、それは七殺星の反逆の兆候だった!
「貴様如きが九嵕山の話をできるか!」
刀光が鉄の爪を粉砕する瞬間、夏侯覇は曹獰の胸腔内で鼓動しているのが心臓ではなく、「龍淵」と刻まれた歯車群であることを見た!
(三)馳道の恐怖
地下から歯車が嚙み合う轟音が響き渡り、川の水が逆流するほど揺れた。夏侯覇の「覇」の刺青は火傷のような熱さで、背中の七殺星の図案をパチパチと焼いている。紫檀の箱が突然分解し、半分の亀甲が秦の始皇帝の馳道の饕餮模様に嵌め込まれた。青銅の軌道が生き物のように動いて、二人を直径三丈(約9メートル)の祭壇に閉じ込めた。
「元讓兄、これを知っているか?」
曹獰(あるいは司馬昭の傀儡)が突然胸の皮を引き裂き、内蔵されていたガラス製の容器を露わにする――中には龍の角が額に生えた赤ん坊の頭蓋骨が漬けられており、それは建安七年に生き埋めにされた弟だった!
「お前の父上がこの子の天霊骨を抉り取ったのは…」
「死ね!」
魔刀が腥い風を巻き起こすが、突然現れた青銅の軌道にぶつかる。火花が飛び散る中、夏侯覇は軌道の隙間から黒い血が漏れ出し、空中で父親・夏侯惇の虚影を形成することを見た。
「覇よ、もし父が当時お前の母と弟を捧げなかったら、夏侯家は官渡で滅んでいただろう!」
「なぜ俺が生き残ったんだ?!」夏侯覇の叫びが雷を呼び起こす。
七殺星の図案が皮膚から離れ、夜空にブラックホールを形成し、十里四方(約40平方キロメートル)の葦を根こそぎ引き抜いた。曹獰の傀儡の体はブラックホールの縁に吸い込まれ、歯車の心臓が放射線で溶け、鉄の液体となった。「それは…張角の生まれ変わりだからだ…」
(四)星図と親を喰らう者
夜明けの最初の光が雲を貫いたとき、夏侯覇はついに真実を見た。ブラックホールの中心には九嵕山の血鼎のホログラムが浮かび上がる:三百人の男の子と女の子が鼎の中で泣き叫び、司馬昭が諸葛亮の七星の衣を炉火に投げ込み、鼎の脇には若い頃の夏侯惇が跪いており、妊娠した女性の腹部を狼牙刀で切り裂いて取り出した胎盤には「七殺」という古代の篆書が刻まれていた!
「つまり、俺たち夏侯家は…代々祭品だったのか…」
魔刀がカランと地面に落ちる。夏侯覇の縦の瞳孔から血の涙が流れ、背中の七殺星の図案が突然分裂し、無数の毒蛇となって経脈に潜り込んでいく。彼は建安二十四年の白帝城の雨の夜を思い出した――病床で諸葛亮が司馬懿に囁いていた。
「…七殺星主は甲子年まで生き延びなければならない…」
曹獰の残骸が突然暴れ出し、最後の力を振り絞って叫んだ。
「将軍、早く亀甲を壊せ!それは龍淵星艦を起動するための…!」
言葉が終わらないうちに、司馬昭の傀儡虫が彼の頭蓋骨から飛び出し、夏侯覇がそれを噛みつぶす!機械と肉が歯の中で爆発し、滔々たる恨みと共に喉に飲み込まれた。
ブラックホールが完全に崩壊したとき、川岸には深さを測れない巨大な穴が残った。夏侯覇の魔刀は穴の底に突き刺さり、柄には半分の傀儡虫の残骸が絡みつき、紫檀の箱の灰の中には未来の星艦の設計図の一部分が見えるようだった…