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第一卷:龍淵遗誓(220〜280年) 第1章·機関鳶墜 第一回·火鳶焚林 四、残巻燃

(上)墨血(すみち)で書を焼く


 葦原(あしわら)に落ちた瞬間、諸葛瞻の背中が氷を割った。臘月(ろうげつ)の川の水が鋭い氷片を含みながら鎧の中に入り込んできたが、『魯班(ろはん)の書』に触れた瞬間に沸騰して蒸発した。少年は羊皮の表紙が蒸気の中で膨らむ様子を見つめ、背表紙から無数の青銅(せいどう)の糸が這い出し、まるでムカデの毒足のように左腕の血管に食い込むのを見た。


「少主…受け取れ…」王勉の切り落とされた腕が空から降ってきた。


 機械の鎖が三本の葦につながっている。老将の半身は十丈(じゅうじょう)の高さにある崖の枝に逆さ吊りになり、腸が血の旗のように垂れ下がっていたが、手にはまだ亀甲の破片が握られていた。


丞相(じょうしょう)は…この本には人血が必要だと…」


 諸葛瞻が咳き込みながら氷片を吐き出すと、周りの葦が不気味な形で成長していることに気づいた。暗紅色(あんこうしょく)の葦の花が蒲公英(たんぽぽ)ほどの大きさに爆発し、それぞれの綿毛の中に小さな機械獣(きかいじゅう)が隠れている。それらは『魯班の書』の表紙をかじり、羊皮が裂けると金属製のページが現れた――それは時代を超えた合金(ごうきん)の薄板だった!


非攻(ひこう)止殺(しさつ)…」ページが突然自動的にめくり、少年の指先を切った。


 血の滴が36ページ目の「朱雀(すざく)焚天陣(ふんてんじん)」に落ちると、墨翟(ぼくてき)の声が脳髄(のうずい)に直接刺さった。


「愚か者!お前の父は両手を壊してもこの陣を使わなかったのに、お前は敢えて…」


 幻影(げんえい)が一気に爆発した。五丈原の秋雨の中で、諸葛亮(しょかつりょう)が墨家祖師の像の前にひざまずいている。十本の指は玄鉄の鎖で貫かれ、机の上に広げられた『魯班の書』は幽霊のような青い炎で燃えている。火の舌が舐める場所には現代都市の輪郭(りんかく)が浮かび上がった。


巨子(きょし)よ、後世がこの術を見たとき、華夏(かか)の大災害を知るだろう…」


 現実の氷が突然割れた。諸葛瞻は(しょかつせん)自分の姿が歪んでいくのを見た――左目が歯車で動く機械の瞳になり、右目からはレーザーが飛び出して氷を焼き払う。懐の亀甲の破片が高周波(こうしゅうは)の音を発し、川の水をプリズムのような結晶に変え、その切断面には別々の時空(じくう)の光景が映し出されていた:


 ナノアーマーを着た夏侯家の末裔(まつえい)が火星の戦場で光剣を振り回す。 司馬氏の人工知能が量子コンピュータの中で三国志の戦場を再構築する。 自分自身のクローンが宇宙ステーションで七星龍淵(しちせいりゅうえん)の剣を組み立てる…


(中)江の逆流と星の墜落


「少主、気をつけろ!」 王勉の残骸が突然鎖から抜け出し、肉の盾となって司馬昭の冷たい矢を防いだ。


 矢が彼の最後の片目を貫通したが、落下は止まらない。老将の頭蓋骨が氷の上に激しく打ち付けられ、頭蓋の割れ目から七つの玉の算盤珠(そろばんじゅ)が転がり出た――それは諸葛亮が三十年近く身に着けていた占星(せんせい)用の道具だった!


「王叔…あなたは…」


 諸葛瞻が這い寄ろうとするが、北斗七星の形に並べられた算盤珠に閉じ込められた。玉の珠が溶け、氷の上に星図が刻まれた。


甲子年(きのえねどし)の九月、火星が太微(たび)に入る、三聖(さんせい)が消える…」


 川の中心からドラゴンのような金属の擦れる音が響いた。十二体の青銅棺が氷を突き破って現れ、棺の蓋の族章(ぞくしょう)からレーザーが噴射され、空中に三次元の星図を作り出した。諸葛瞻の機械の左目が自動的に焦点を合わせ、それが太陽系のモデルであることを確認した。火星の軌道には血の色で「龍淵(りゅうえん)」と書かれていた。


「つまり龍淵は剣ではないのか…」


 少年は突然狂ったように笑い、涙が頬で凍りついた。


「それは星艦(せいかん)だ!父上はすでに知っていたんだ…」


 言葉が終わる前に、亀甲の真ん中から重力の渦が発生した。川の水が逆巻いて空に昇り、直径百里の巨大な竜巻となった。その中に半機械化された蛟龍(こうりゅう)の胎児が泳いでいる。

 司馬昭の声が嵐を突き抜けて響いた。


「お前の父は星艦の設計図を燃やしたが、墨家の初代巨子は既にデータを亀甲に刻んでいた!」


 魏の将軍の青銅の仮面が強風で吹き飛ばされ、顔には回路(かいろ)模様が浮き出ていた。


「諸葛公子、共にこの星間覇業(せいかんはぎょう)を握りませんか?」


 諸葛瞻は血をインクとして使い、氷の上に父から教わった「八陣図」を描いた。陣が完成した瞬間、十二の青銅棺が砲口を一斉に向け、量子ビームが竜巻を氷の虹に変換した。


「我が父が守ったのは人間の正道であり、決して…」


「愚か者!」夏侯覇(かこうは)の魔刀が氷原を切り裂いた。


 全身に骨の棘を持つ魔将が死体の山を踏み越えて進み、背後の七殺星図(しちさつせいず)はブラックホールのモデルに進化していた。


弱肉(じゃくにく)強食(きょうしょく)の世界は二千年前と何一つ変わらない!」


 刀の気配が王勉の残骸を持ち上げ、空中で血肉がDNA鎖のように再構成された。


(下)火の継承(けいしょう)


『魯班の書』が完全に燃え尽きたとき、長江の流れが九秒間止まった。諸葛瞻は完全な静寂の中で父の遺言を聞いた。それは白帝城での遺言ではなく、2049年からのホログラフィックメッセージだった:


(せん)よ、このメッセージを聞いているということは、人類が存亡の危機に瀕しているということだ。亀甲に記録されたものは予言ではなく、祖先たちが異星文明から受け取った警告だ――九鼎(きゅうてい)は惑星エンジン、龍淵は逃亡用の星艦だ…」


 幻影の中で、諸葛亮が亀甲(きっこう)を押すと胸から量子チップが飛び出した。


「墨家は古いものを守るのではない、心を守るのだ。今こそ、火種計画を始動するかどうかはお前の選択次第だ…」


 現実世界では重力場(じゅうりょくば)が崩壊し始めた。夏侯覇の魔刀と司馬昭の量子弩が同時に少年に向けられたが、川底から王勉の最後の仕掛けが発動した――老人の残骸が突然爆発し、張角の陵墓(りょうぼ)から沼気(しょうき)が放出され、戦場全体が炎に包まれた。


「王叔!!」


 諸葛瞻の機械の目からレーザーが放たれ、炎の幕に穴を開けた。彼が青銅棺に飛び込む瞬間、棺の内側に初代巨子のメッセージが刻まれているのを見た。


「後世の巨子へ、もし二進法(にしんほう)で書かれた亀甲を見ることがあれば、墨守とは古いものを守ることではなく、心を守ることだと知れ。」


 川の流れが戻ったとき、戦場には焦土(しょうど)だけが残った。陸遜(りくそん)が半分燃え残った『魯班の書』を拾い上げると、金属のページに諸葛亮の手書きのコメントが浮かび上がった。


「私の一生の追求は星艦や機甲ではなく、ただ衆生(しゅじょう)兼愛(けんあい)を知ることを願うのみ…」


 千里離れた五丈原で、諸葛亮の衣冠塚(いかんちゅう)が突然崩壊し、地下の格納庫(こくのうこ)に眠っていた朱雀機甲が露わになった。キャビンのドアがゆっくり開き、スクリーンにカウントダウンが点灯した。


「甲子年に滅びの災害が来るまで、あと九百年。」

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