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第三卷 第三章 涿鹿棋局

 一)青銅の地下道

 三星堆(さんせいたい)の第3号坑は、底の見えない深い穴へと崩れ落ちていた。諸葛青が腰に巻いていた安全ロープは肋骨に食い込み、呼吸するたびに錆びた鉄のような痛みが走った。探照灯の光が暗闇を切り裂き、壁一面にびっしり並んだ青銅製の歯車を照らし出す。それらは五千年前の機械装置で、


「カチッ、カチッ」


 と乾いた音を立てながら回転し、空気を銅臭さの混じった渦へとかき乱していた。赤い錆の粉が雪のように舞い、諸葛青の汗で濡れた鼻先に張りつく。


「教授!下……光ってる何かがあります!」


 助手の叫びが狭い空間で響き、ひずんだ音になる。若者が指差した先には、門のような大きさの青銅板が浮かんでいた。表面には雷のような文様が刻まれ、中央のくぼみには魚の形をした玉の半分がはめ込まれていた。その欠けた形状は、彼女が肌身離さず持っているもう半分と完全に一致していた。


 ——戻しなさい。


 脳内に聞こえた声は、電気的な雑音を含んでいたが、祖父が昔、懐中時計の修理を教えてくれたときの優しい声にそっくりだった。諸葛青は無意識に胸元に手をやった。玉をしまっている布袋は汗でぐっしょりだ。その玉に触れた瞬間、地下道がまるで巨大な獣が目覚めたように唸り始めた!

 天井から青銅の歯車が土砂降りのように落ちてきて、そのうちの一つが助手の太ももを「ガチッ」と噛んだ!


「うわぁあ!」


 叫び声に血の飛び散りはなかった。傷口からは青銅色の粘液があふれ、すぐに錆の塊となって固まった。若者は恐怖に駆られ、自分の脚を掻きむしると、爪に金属のかけらが引っかかって剥がれた。


「しっかりつかまって!」


 諸葛青はロープを必死に引いたが、その手のひらには血が滲んだ。助手の瞳に機械のような光が宿り、口元がぎこちなく動いた。


「管理者……は実験に干渉してはならない……」


 その言葉が終わるやいなや、青銅の錆が首元まで広がり、若者は助けを求める姿のまま、像のように動かなくなった。指先が諸葛青の手首に届くまで、あとわずか3センチだった。


 二)父と子の戦い

 月面戦艦の残骸が真空の中を音もなく漂っていた。まるで腹を裂かれた巨大な獣のようだ。夏侯烬(かこうじん)は機甲の破片に埋もれながらもがき、酸素マスクの警告灯が彼の顔に浮かぶ血の玉を照らしていた。

 突然、機械の腕が「ガン!」と音を立てて漂っていた座席を押しのけ、彼を球体の脱出ポッドへと引きずり込んだ。窓越しに見た火星の冷凍基地が、爆発とともに「死の花」を咲かせていた。三千のクローンたちが一斉に蒸発し、その胸には「七殺星」の模様が浮かび上がった。その星々がつなぎ合わさり、真空の中で血のような光文字を描いた——


「真実を探せ」


 脱出ポッドは火星のオリンポス山の北斜面に激突し、黄砂の嵐が機体を包んだ。ドアがこじ開けられ、風と砂が顔に叩きつけられた。そこに現れたのは北洋軍服を着た男——血に染まった肩章の龍の紋は、夏侯烬が持っていた父の写真とまったく同じだった。


「燎原……?」


 夏侯烬の量子刀が「ヴン」と音を立てて起動するが、刃先は震えていた。男の首元には「SN-1901-XHL」の焼印——初代クローンにだけ付けられる識別番号だった。


「やつらは俺を“初代バッテリー”と呼んだ。」


 男は胸元をはだけ、碗のような大きさの古傷を見せた。


九鼎(きゅうてい)を三百年動かし続けた“生きた燃料”さ。」


 その言葉と同時に、彼の腰の量子刀が閃いた。二つの刃がぶつかり合った瞬間、夏侯烬のヘルメットに映像が流れる——赤ん坊の背に焼きごてを押し当てる司馬昭の姿。その模様は、彼自身の後ろ首にある“七殺星”の痣と全く同じだった。


「お前は……俺の……」


 夏侯烬の言葉は鋭い痛みによって遮られる。男の刃が彼の右肩を貫き、冷たい金属が肉をえぐる。男は血に濡れた歯を食いしばり、怒りに震えながら言った。


「違う。俺は、お前が自らの手で殺した一番最初の“自分”だ。」


 三)月面の記録室

 諸葛青がコントロールパネルに残した血痕は、茶色く乾いて花びらのような形になっていた。司馬空(しばくう)は機械の指でその血をすくい、ひび割れたメインスクリーンに甲骨文字で「啓」と書いた。その瞬間、月面戦艦がまるで眠っていた青銅の巨獣のように目を覚まし、通路の照明が次々と緑色に点灯していった。アーカイブ室の防爆ドアが音を立てて開き、そこには重力を失って漂う青銅の簡牘(かんとく)——まるで眠る金属の魚群が浮かんでいた。


 司馬空が掴んだ一枚には、黄帝の戦車からレーザー砲が突き出し、蚩尤の機械獣が青白い炎を吐く光景が刻まれていた。その横に添えられた注釈にはこう書かれていた:


 第1次文明実験:冷兵器時代の知的存在が宇宙的脅威にどう対応するかを検証する。


「ハハ……ハハハ!」


 金属が軋むような笑い声とともに、司馬空はその簡牘を握りつぶした。破片は真空中で集まり、初代の「巨子」の幻影を形作った。幻影は言った:


「最後の一片を見ろ、子よ。」


 そして目の前に浮かんだ最後の簡牘には、驚愕の真実が記されていた——


 黄帝と蚩尤は「管理者」が演じるキャラクターである

 涿鹿の戦争は「逆神(ぎゃくしん)遺伝子」を発現させるための儀式

 死者の意識は「九鼎」に吸収され、文明の初期エネルギーとなった

 勝者・黄帝の報酬は「記憶削除プログラム」


 司馬空は後退しながら舷壁にぶつかり、機械の眼に激痛が走った。脳内に、かつての記憶が爆発するようによみがえる。九嵕山(きゅうそうざん)の血鼎で、司馬昭が自らの手首を切り、その血を「逆神」と刻まれた亀甲に注いだ瞬間のこと。彼の狂ったような笑いが洞窟の天井を揺るがした。


「輪廻はもう終わりだ!今度こそ、俺たちが神になる番だ!」


 四)地心コード

 三星堆の地の奥深く、巨大な青銅の神樹がその根を絡ませて、まるで天然の祭壇のようになっていた。幹の表面には青白く輝く文様が流れ、まるで超高性能コンピュータの回路のように脈打っていた。


 諸葛青が、魚の形をした2つの玉を組み合わせて樹のくぼみに嵌めた瞬間——神樹がまるで大鐘のような轟音を鳴らし、洞窟の天井から青銅の歯車が熟れた果実のように崩れ落ちた。


 地面が裂け、地下には赤いマグマが煮えたぎる湖が現れた。その中から姿を見せたのは、9つの巨大な(かなえ)。その耳に結びつけられた青銅の鎖はピンと張り、鎖の先には奇妙な機械の残骸が繋がれていた——錆びた自動車のエンジンに秦代の歯車、さらに排気管には三星堆の玉器(ぎょくそう)、火花を散らすスパークプラグが赤い電流を放っていた。


「初期コードは……エンジンの中心にある。」


 頭の中で聞こえた声はノイズ混じりだった。


 諸葛青は唇を噛み、覚悟を決めてマグマの中へ飛び込んだ。青銅の鎖を掴んだ手は焼けて裂け、血がにじむ。


 そのとき、青銅の手が彼女の足首を掴んだ——

 なんとそれは、半分石化した助手だった。

 彼の頬には亀裂が走り、銅の粉が落ちる。彼の声は、途切れがちな古い無線のようだった。


「せん…せい……逃げて……コードの正体は……」


 その言葉の途中で、マグマが大きく盛り上がった!

 そこから飛び出したのは、巨大な青銅の爪。

 関節の部分から白い蒸気を吹き上げながら、彼女の額へと迫る。その爪に刻まれていた識別番号は——SSJZ-001。


 爪先が諸葛青の眉間まであと数センチというところで——

 月面脱出ポッドが岩盤を突き破って、まるで砲弾のように飛び込んできた!


 五)終局の幕開け

 脱出ポッドは青銅の巨爪を弾き飛ばし、変形したハッチを蹴り破って司馬空が現れた。彼の腕の中には、血の付いた青銅の簡牘。顔を上げると、夏侯烬の量子刀が初代クローン体の胸を貫く瞬間を目撃する。刀の柄に刻まれた番号と、相手の首の焼印が火星の嵐の中で輝いていた。


 そのとき、マグマの中央から人影がゆっくりと浮かび上がってきた。

 その顔には青銅の仮面があり、左半分は黄帝の穏やかな顔、右半分は蚩尤の怒れる面。その仮面が開いた瞬間、地底全体に重低音のような声が響いた:


「ようこそ。管理者の最終テストへ。」


 彼の背後では、マグマが巨大な光のスクリーンに変わり、涿鹿の戦場の映像が映し出される。そこでは、黄帝と蚩尤が武器を捨て、握手を交わしていた。彼らの足元には無数の死体が積み重なっており、それらはデータの流れに変わって天へと昇っていった。


 スクリーンの最上部に、赤く燃えるような文字が浮かび上がる:


「管理者が文明のために互いに殺し合うとき、実験体は“成熟”と見なされる。」


 夏侯烬は刀を取り落とす。

 その背中から、七殺星の模様が皮膚を剥がれて空中に舞い、初代巨子の幻影に吸い寄せられていった。


 そして——

 諸葛青がマグマから浮上した。

 その瞳はもはや人間のものではなく、純粋なデータの流れへと変わっていた。冷たい電子音のような声が、洞窟全体に響く。


「そうか……青銅の歯車から量子チップまで——」


 彼女はマグマの中の人影を指差した。


「私たちは、高度文明が“毒虫”のように飼っていた実験生物だったのね。」


(いよいよ最終章へ)

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