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第三巻 第二章 逆神の血

(一)(いばら)の王座


 青銅製の茨が諸葛青(しょかおう)の鎖骨を貫いた瞬間、彼女は自身の血液が蒸発する鉄臭い匂いを嗅ぎ取る。司馬空(しばくう)の爆発による気浪で吹き飛ばされた身体が主制御画面に叩きつけられ、その亀裂は蜘蛛の巣のように広がり、彼の金属製の仮面の下から歪んだ冷笑が覗える。艦橋の床の非常灯が二人の影を巨大な猛獣のように引き延ばし、王座から伸びる青銅製の茨はまるで生きている蛇のように蠢き、先端の逆刺が彼女の機械義肢の関節に突き刺さっている。


「貴様は……権限を得たからといって規則を変えられると思っているのか?」


 司馬空の声には金属が擦れる音が混ざり、肋骨に刺さった操縦桿(そうじゅうかん)を折ると、その断面からは血ではなくナノバグ群が滴り落ちる。


九嵕山(きゅうそうざん)血鼎(けってい)から龍淵星艦(りゅうえんせいかん)まで、我ら司馬氏こそが……」


 諸葛青は突然肩甲骨の茨を引きちぎり、飛び散った肉片と血がコントロール台に染み込む。血塗られた五指が秦篆(しんてん)のキーボードを叩くと、太平洋上空の縦目仮面が突然目を開ける!強烈な光が舷窓(げんそう)を突き抜け、司馬空の仮面が即座に溶け、その下には司馬昭(しばしょう)と完全に一致した顔が露わになる――ただ右目に三星堆玉琮(ぎょくそう)の破片が埋め込まれている。


「管理者02号の規則違反証拠確実」


 AIの判決は冷たく鉄のような響きを持つ。すべての茨が突然方向を変え、司馬空を空中に釘付けにする。諸葛青は茨が彼の胸を貫くのを見届けた瞬間、そこから飛び散るのは光緒二十四年菜市口(さいしこう)の黄土であり、それは譚嗣同(たんじつどう)の乾ききらない血が混ざっていた。


(二)クローンの黎明


 火星の冷凍基地で三千基のポッド蓋が同時に弾けた瞬間、夏侯烬(かこうじん)量子刀(りょうしとう)が月球の防護罩(ぼうごしゃ)を斬り裂いている。機甲の操縦席では、彼の機械義眼が警報の赤い光に飲み込まれていた。


「警告!本体遺伝子源を検出!」


 刃が切開した裂け目の向こう、蒸発する冷凍液の霧の中に人影が浮かび上がる。最初にポッドから踏み出した男は北洋軍服を着ており、肩章に刻まれた饕餮(とうてつ)模様は夏侯烬の背中の七殺星図(しちさつせいず)と同一の起源を持つ。男が襟を引き裂き首筋のSN-1901-XHL番号を露わにすると、夏侯烬のこめかみが激しく脈打つ――それは彼のファイルに記載された「父」夏侯燎原(かこうりょうげん)のクローン番号だった。


「逆神者序列起動」


 三千の声が通信チャンネルで重なり合う。夏侯燎原のクローン体が手を上げるや否や、基地の砲台が一斉に月球へ向けられる。さらに恐ろしいのは彼らの露出した皮膚に、夏侯烬とまったく同じ七殺星図が浮かび上がることだ。


「君たちは……全員バッテリーなのか?」


 夏侯烬の問いは初代巨子(きょし)の声によって脳内で炸裂する。


「子どもよ、九鼎(きゅうてい)の内部を見よ!」


 彼の機甲スクリーンが突然地核視点に切り替わり――沸騰するマグマの中で、九つの巨大な鼎がクローン体たちの神経信号を吸収しており、鼎身の饕餮模様は溶接火のように輝いている。


(三)文明の火種


 太平洋上空の縦目仮面が涙を流し始める。黒い雨滴が大気圏を突き抜け、上海の廃墟で青銅化した司馬空の身体に降り注ぐ。それぞれの一滴には膨大なデータが宿っている:ポンペイ城の滅亡直前の湿壁画、アレクサンドリア図書館の羊皮紙、円明園が焼かれた際の琉璃瓦(るりがわ)の光景……これらの文明の破片が彼の体表を這い回り、発光する甲骨文(こうこつぶん)に凝結していく。


「管理者01号規則違反操作」


 AIの警告音の中、司馬空が突然胸元の茨を引き抜く。流れ出す液状金属の中に光緒帝の恐怖に満ちた顔が浮かび上がる。


「朕の大清……」


「お前の清朝など実験ログの脚注(きゃくちゅう)に過ぎなかったのだ!」


 司馬空の手が自らの胸腔に突き刺さり、跳ねる量子心臓を掴み出す。それに刻まれた秦篆「兼愛」が突然二進法指令に再構成され、太平洋上の涙が急に逆流し、近地軌道上で青銅製の巨剣となる。


 巨剣が月球艦橋に向かって振り下ろされる刹那、諸葛青はコントロール台で衝撃的な真実を目にする――巨剣の内部には無数の胎児が丸まっており、最前列の胎児の頸部にはSN-2049-SSJZの微弱な光が点滅している。


(四)逆神協定


 艦橋が巨剣の衝撃で45度傾く。諸葛青は王座の肘掛けを掴みながら、司馬空が剣気に半分の金属体を削ぎ落とされる様子を見る。露出した脊椎には三星堆玉琮の破片が妖しい緑色の光を放っている。


「観察者が実験場をリセットしようとしている!」


 初代巨子の虚像が割れた画面で点滅する。諸葛青の機械義眼が船体を突き抜け、宇宙の深奥で開かれる巨大な眼――ブラックホールで形成された瞳孔が地球の燃え盛る姿を映し出している――を見据える。


 彼女は血塗られた指をコントロール台の核心に挿入する。激痛の中で、譚嗣同の脳波と秦始皇陵(しんのおおみささぎ)のデータが神経内で衝突する。そして冷たい玉製のスイッチに触れた瞬間、九嵕山の血鼎の光景が突如鮮明になる――司馬昭が腕を裂き、「逆神」と刻まれた亀甲(きっこう)に血を注いでいる。


「プロトコル起動!」


 諸葛青が叫びながらスイッチを引く。月球の巨艦が瞬時に分解し、その破片が数万の青銅製編鐘(へんしょう)に凝縮される。九鼎が地核から地表に突き出し、そこから噴き出す文明データ流が編鐘と共鳴する。宇宙の巨大な眼が突然出血し、ブラックホールの瞳孔の中に初代巨子と司馬昭が肩を並べて立つ幻影が浮かび上がる。


 夏侯烬の機甲は音波の中で溶融する。彼が落下する際に見届けたのは、冷凍基地の三千体のクローンが集団的に蒸発し、彼らの七殺星図が天空に秦篆で「文明はテストに合格」と形作ることだった。







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