第三巻 第一章 星艦鉅子
(一)青銅の王座
月球裏面のクレーター内部、青銅製の巨艦のコントロールセンターには低温休眠室特有のオゾン臭が漂っている。諸葛青は青銅王座で目を開けた瞬間、金属の拘束帯が壁に自動的に引っ込む。彼女は防塵カバーに映る自分の姿を目にした――肌は冷たく硬い青銅色の光沢を放ち、右目は機械義眼に置き換えられ、虹彩の中で流れるデータが秦篆を現代中国語に翻訳している。
「ようこそ『龍淵』号文明観測艦へ」
指先がコントロールパネルを掠めると、その冷たい感触が驪山地宮の水晶棺を思い出させる。舷窓の向こうに見える青白い星――地球を見た瞬間、胃部が突然痙攣する。太平洋上空には巨大な三星堆縦目仮面の投影が浮かび上がり、それはまさに昨日潼関で起動させた文明火種プログラムによるものだった。
「第97番実験場の状態は安定しています」
冷たいAIの女性の声が船内で響き渡る。全息星図が突然展開され、太陽系第三惑星が「実験区97」としてマークされる一方、火星基地は「廃棄培養皿」と表記されている。諸葛青の機械の指関節が真っ白になるほど握り締められる。譚嗣同の処刑場での血霧の記憶が神経を刺すように痛みを与える。
「これは逃亡船ではなく……観測所なのか?」
コントロールパネルから突然電火花が迸る。彼女は本能的に後ろに仰け反り、吐き出す白い息が空中で初代巨子の顔となる。
「子どもよ、やっと君がこの席に座ったのだな〜」
老人の虚像が星図の端にある闇を指しながら言う。
「今こそ、観察者を見る時だ」
(二)データの洪水
上海量子実験室の廃墟の中で、青銅化した司馬空が再構成されていた。彼の金縁メガネは顔の金属部分に埋め込まれており、レンズのヒビの間には秦始皇陵の星図データが流れている。ナノバグ群が最後の頭蓋骨修復を終えた瞬間、1898年の頤和園での極秘会議の音声が聴覚センサーに突入する。
「光緒は死ななければならない!」
袁世凱の機械指が《定国是詔》を叩く。
「彼の遺伝子配列はあまりにも似すぎている……」
「観察者の原型に近いと?」
若い司馬鏡の冷笑がデータ流の中で際立って鮮明だ。この記憶は再構成中の司馬空を突然激怒させ、彼の機械腕が残存するホストキャビネットに叩きつけられる。飛び散る部品の中、半分焦げた写真が彼の金属脚首に張り付く。それは三星堆発掘現場の写真であり、裏面には血で書かれたメッセージがある。
「管理者キーは青の体内にある」
「なるほど……」
金属に侵食された声帯がサンドペーパーのような擦れる音を出す。彼は左胸の装甲を引き裂き、中に蠢く量子心臓を露わにする。血管の一本一本が異なる時空間の映像と繋がっている:安禄山の陌刀が潼関城門を斬り裂いた際に飛び散った機械部品、夏侯紅玉が蒸気鉄艦上で焼却する維新党の血書、火星基地で諸葛青のクローン体が太陽に溶け込む最後の瞬間……
心臓が突然強烈な光を放ち、実験室の残骸がその光の中で量子化され、再構成されて青銅巨艦の艦橋モデルとなる。司馬空がその模型の中に踏み込んだ瞬間、月球裏面の本物の艦橋では彼のコントロール台が突如として血色の警告灯を点滅させる。
(三)火種の真相
火星オリンパス山の祭壇跡地で、夏侯烬の軍靴が結晶化した砂地に沈んでいる。彼の背中の七殺星図から血が滲み出し、ナノレベルの血珠が環状に浮遊する。それぞれの一滴一滴が地球同期軌道上の青銅巨艦を映し出している。
「出てこい!」
彼の量子刀が祭壇中央の亀裂に向かって振り下ろされる。プラズマ刃が岩層を貫通する刹那、譚嗣同の脳波が聴覚神経に突然侵入する。
「……死得其所、快哉快哉!」
この百年を超える絶叫が夏侯烬をよろめかせ、膝をつく。刀柄のSNコードが手の平を灼くように熱を持つ。
亀裂の中から初代巨子の全息映像が昇ってくる。老人の手には微小な太陽系モデルがあり、
「子どもよ、七殺星は決して呪いではない」と語る。
モデル内の地球が突然透明化し、地核に回転する九鼎の虚影が現れる。
「それは文明選別器のエネルギー源なのだ」
夏侯烬の機械義眼が狂ったように点滅する。彼は九鼎の内部に収納されているのが青銅器ではなく、人類史上すべての戦争死者の意識データであることを目撃する――長平の戦いで死んだ趙兵、安史の乱における唐軍、庚子事変の義和団……これらのデータ流が彼の七殺星図を介して月球巨艦に注入されている。
「あなたたちは人類をバッテリーとして扱っているのか?」
彼は咆哮しながら映像を斬り裂く。結晶化した地面が突然崩壊し、地下基地が露わになる。そこには三千基の冷凍ポッドが整然と並べられている。最も近くのポッドの中には北洋軍服を着た男が横たわり、胸板の名前欄には「夏侯燎原」と刻まれている。
(四)権限戦争
月球艦橋に突然警報が轟鳴する。諸葛青は司馬空のコントロール台から迸る血光を見つめる。秦篆で書かれた警告が舷窓に燃え上がる。
「管理者02号が強制的に接管」
すべてのスクリーンが同時に上海実験室の廃墟の映像に切り替わる――司馬空が量子化状態から再構成され、その金属の顔には例の金縁メガネが埋め込まれている。
「久しぶりだな、巨子大人」
司馬空の声は艦載システムによって拡大され、機械摩擦の質感を帯びている。彼の指が虚空で軽くタップすると、諸葛青の王座から突然青銅の手錠が伸びる。
「97番実験場運営規定第3条:管理者は文明の進程に干渉してはならない」
諸葛青の機械義眼からナノ液体が滲み出す。彼女は相手が呼び出した監視映像を見る――光緒二十四年、菜市口、自分自身が意識を乗っ取った譚嗣同が「我自横刀向天笑」を書き上げる様子。このデータ流は「重大な規則違反操作」として赤くマークされている。
「じゃあ、君はどうなんだ?」
彼女は突然痛覚神経を切断し、手錠が皮膚を引き裂いていくのも意に介さない。
「SN-2049-SSJZ系列のクローン体が、何の資格があって規範を語る?」
両手がコントロール台に入力する。初代巨子から教わったパスワードにより、艦体が突然激しく震える。
舷窓の外、太平洋上空の縦目の仮面が突然目を閉じる。すべての観測スクリーンに同一の解密ファイルが表示される――それは甲骨文で刻まれた九鼎の暗号である。
「実験目的:絶滅危機の中で文明が“逆神者”を生むことができるかどうかをテストする」
司馬空のコントロール台はこのファイルが出現した瞬間に爆発し、飛び散る破片の中で、諸葛青は彼の金属の顔に初めて類似した驚愕の表情を見た。




