第二卷 第三章 血色維新(西暦756〜1898年)
(一)漢陽の驚雷
光緒二十四年六月初八、漢陽兵工廠の地下試験場は蒸気で満ちていた。諸葛臨淵の白衣には機油が飛び散り、彼は狂ったかのように跳ねる圧力計の針を睨んでいた。彼の機械義手の歯車は過負荷で耳障りな摩擦音を立てている。
「総弁!『龍淵歩槍』の第六回試射が始まります!」
弟子の声は蒸気機関の轟音の中でほとんど聞こえない。臨淵は振り返らず、その網膜には父が臨終時に送ってきた全息映像が投影されている――それは光緒十六年に白帝城の遺跡から発掘された青銅製の亀甲であり、そこに刻まれた「甲午の変、血が維新に飛び散る」という予言が浮かび上がっていた。
「反物質弾芯を装填せよ」
彼の命令に試験場は瞬間的に静寂に包まれる。
弟子の唇が震える。
「しかし前回の試射では武昌の半分が吹き飛んだのですが……」
「あの時は倭寇の捕虜を使ったテストだった」
臨淵の義手が突然弟子の喉元を掴み、指の隙間から青白い光が漏れる。
「今回はお前を使おう」
轟音と共に、歩槍から噴き出したのは弾丸ではなく、空間を歪める量子流であった。標的があった領域が突然ブラックホールに崩壊し、三名の観測員が原子状に引き裂かれる。壁に掛かる光緒帝の肖像画が突如自燃し、灰の中から三星堆の縦目仮面の模様が浮かび上がる。
「成功したか……」
臨淵の機械眼からナノ血液の滴が流れ出し、彼は幻影の中で2049年の火星基地に立っている自分を見た――同じ武器を诸葛青の背中に向けている姿が。
(二)漕帮の血浪
長江十八連環塢の夜泊地、夏侯紅玉の鉄甲艦「七殺号」は蒸気魚雷を装填中だった。彼女の背中の七殺星図は月光の下で幽玄な青い輝きを放ち、それは庚子年の犠牲者の魂魄を練り込んだ量子タトゥーであった。
「幫主!北洋水師の探子が侵入してきました!」
独眼の大輔が血まみれの布包みを提げて船室の扉を蹴破る。
紅玉の機械義眼が赤い光を放ち、布包みが自動的に開く――中にはナノワイヤーで切断された半身の死体があり、心臓の位置には「翰林院」という文字が刻まれた青銅製のチップが埋め込まれていた。
「司馬家の番犬め」
彼女は冷笑し、丹蔻で染めた爪でチップを滑らせ、全息投影を活性化させる:
若き司馬鏡が頤和園の密室で《海国図志》を蒸気コンピュータのカードスロットに挿入している光景が映し出される。書頁の間から落ちてきたのは、なんと諸葛家「天機閣」の星斗陣の設計図だった!
「各舵に命じよ」
紅玉の旗袍から六本の機械腕が伸び、それぞれが異なる型式の未来兵器を握っている。
「寅の刻(午前3時頃)に大沽口を砲撃する。一発の砲弾も残すな」
彼女が部下に話さなかったのは、その砲弾には火薬ではなく、潼関地脈から抽出された量子状態の怨霊が詰められていることだった――それはかつて夏侯燎原が龍淵エンジンに飲み込まれた際の残留意識の断片である。
(三)講武堂の怪しい影
天津のとある小さい駅の練兵場の地下第三階、司馬鏡の蒸気コンピュータが不気味な唸りを発している。画面に表示されるのはドイツ式の操典ではなく、秦始皇陵の地宮のリアルタイムスキャン画像だった。
「上様、康有為を連れてまいりました」衛兵が鎖につながれた書生を押してくる。
司馬鏡の青銅仮面はガス灯の下で冷たい光を放つ。彼がキーボードを叩くと、コンピュータが一枚の写真を吐き出す:光緒帝の枕元には三星堆の玉琮が置かれ、それに刻まれた二進法コードの《定国是詔》が浮かび上がる。
「康先生、あなたの学生が書いたこの詔書……」
鏡の声は変声器を通し、未来AIのような電子的な響きを持つ。
「第三十七条『漕運を廃止』は、龍淵星艦の発射軌道をクリアにするためではないですか?」
康有為が突然狂ったように笑い、鎖が崩れる部分からは機械の関節が露わになる。
「司馬大人、自分の後頸を見てみるといいでしょう?」
鏡の反物質拳銃が即座に康の額に押し当てられるが、引き金を引いた瞬間硬直する――全息投影には彼の後頸の皮膚下にSN-2049-SSJZという発光する番号が現れ、それは安禄山の機械脊椎と完全に一致していた。
「つまり私もクローン体か……」
鏡の機械義眼が激しく点滅し、突然解錠された遺伝子記憶を読み取る:火星基地の培養槽で、三千体の司馬鏡クローンが同時に目覚めている。
(四)戊戌の血夜
頤和園、玉瀾堂の檀香が突然血腥い臭気に変わる。光緒帝の手に持つ《定国是詔》から黒い血が滲み出し、絹帛上で星間座標に再構成される。
「愛卿……これ……」
若い皇帝が譚嗣同から受け取った万年筆に触れると、そのペン先が微小な量子発射器であることがわかる。
「陛下、ご覧ください」
嗣同のスーツ袖口から全息投影が滑り出し、それには潼関地脈の三次元スキャン画像が映し出される。
「夏侯紅玉の砲弾には龍淵エンジンの破片が詰められています。ただ……」
殿外から突然機関銃の掃射音が響く。袁世凱の新軍が朱漆の門を突き破り、彼らが装備するドイツ式の歩槍からプラズマ光線が噴き出す!
「袁公!あなたは……」
光緒の叫びが量子爆発に飲み込まれる。嗣同が皇帝を倒した瞬間、彼の懐に抱えていた《仁学》の草稿が強烈な光を放つ――それは諸葛臨淵が初代巨子の脊髄液を使って特製したエネルギー盾だった!
炎の中で袁世凱の顔皮が溶け、その下から司馬家特製の機械顔が現れる。
「陛下、死ぬ準備をしていただきます。これは甲午年に既に決まった……」
彼の声が突然司馬昭の口調に変わる。
「……星間条約です」
(五)青銅の覚醒
譚嗣同の血が菜市口処刑場に飛び散った瞬間、西安郊外の秦始皇陵が突然崩壊する。直径千丈(約3000メートル)の青銅巨人が地中から現れ、その胸にあるコアキャビンの中には光緒帝そっくりの人間が横たわっていた。
諸葛臨淵の龍淵歩槍が巨人の眉間に狙いを定めるが、発砲の瞬間に見えない力場によって弾道が歪む。網膜上に父が残した最後のメッセージが閃く。
「非攻コードは実際には休眠指令、青銅巨人こそが真の龍淵……」
夏侯紅玉の鉄甲艦群が長江の上で集団的に自爆し、量子嵐が沿岸都市を結晶化させる。彼女は燃え盛る甲板の上で狂ったように笑い、七殺星図が皮膚から離れて空に舞い上がり、火星戦場のリアルタイム映像を形作る――そこには三百隻の星艦が上昇している。
司馬鏡の目の前の蒸気コンピューターがついにキャバオーバーになり、最後にスクリーンをよぎったのは三星台の考古現場だった。楊貴妃の金色に輝く簪が青銅神樹に刺さり、つけてあるペンダントが風に揺られながら、神樹の下に放射能感知機を手にする諸葛青が、ふっと何かを感じたかのように、空に突如と出現しったもう一輪の月を見上げた。




