第二卷 第一章 天機烽煙
(一)馬嵬の驚変
矢のように降り注ぐ豪雨が、貴妃の金釵に残る乾ききらない血痕を打っていた。諸葛青玄は機関鴛の先端に立ち、黒色の大氅が狂風の中で激しく揺れ、内側に仕込まれた無数の歯車群が露わになっている。彼の機械左目が、駕籠の前に跪く禁軍たちをスキャンすると、虹彩には高力士の袖口から震える金糸の甲虫が映し出されていた。
「閣主……反乱軍が玄武門を突破しました!」
同行していた墨者が声を潜め、手にした連弩の機括が湿気で鈍い摩擦音を立てていた。青玄は答えず、指先で焦げた|《魯班書》《ろはんしょ》の断片に刻まれた「地」字巻を撫でながら冷やかに笑った。
「右相の袖中の亀甲、まさか貴妃様の命よりも価値があると?」
高力士が突然顔を上げ、濁った眼球が飛び出さんばかりに大きく見開いた。
「天機閣が皇室のことに干渉するつもりか?」
老宦官の痩せこけた指が懐の中の突起物を握り締めるが、青玄の目に触れた瞬間、まるで電撃を受けたかのように硬直した――その瞳孔の奥には青銅色のデータ流が泳ぎ、それはまさに驪山地下宮殿の壁画に描かれる縦目の神人に似ていた。
「ドホンホン!」
安禄山の玄鉄重甲が宮壁を打ち破ると、陌刀の血溝から蒸気が立ち上った。青玄の機関鴛群が突如として空に舞い上がり、銅銭のように散開。それぞれから刺目な電弧が放たれる。
「安将軍、あなたの脊椎第三節のボルトが緩んでいますよ」
彼の声は豪雨に混じりながらも、重甲の隙間に明瞭に届いた。
「諸葛の小僧!」
金属の擦れる音が重甲の中から爆発的に響き渡り、安禄山が面甲を跳ね上げると、半分機械化された顔が露わになった――右目は回転する歯車、左顔にはミミズ状の回路模様が這っている。
「この身体に流れている血が誰のものかわかるか?」
陌刀が突如三寸伸び、刃から迸る量子振動波が雨滴を氷の針に凝固させる!
青玄の機械左目が突然過負荷となり、網膜に建中年間の火星戦場がフラッシュバックする。彼は素早く鴛首から飛び降り、袖から射出されたナノワイヤーで玄宗の手首を縛り付けた。
「陛下、武徳九年の玄武門のことを覚えておられますか?」
言葉が終わらぬうちに、氷の針雨が見えない力場によって歪められ、空中に「天機」という文字が形作られた。
(二)鉄鷂が月を喰らう
隴西の馬場に浮かぶ血塗られた月輪の下、夏侯燎原の魔刀が潼関の城門を切り裂いた。刃が地面に触れた瞬間、量子振動波が扇形に広がり、守備兵の鉄甲が紙切れのように引き裂かれる。
「将軍!地脈に異常があります!」
副将の叫び声が蒸気機関の轟音に混ざる。燎原の機械左目が煙塵を貫通し、潼関の地中から青銅の軌道が伸びているのを見た――それは夷陵江岸の始皇帝馳道と全く同じ形状だった!彼は昨夜見た奇妙な夢を思い出した――自分は九嵕山の血鼎の前で跪き、背後に浮かぶ七殺星図が量子炎で灼かれている光景だった。
「報!南東方に機関獣群出現!」
斥候の声が震える。燎原の魔刀が突然制御不能になり、唸りを上げ始めた。刀柄の饕餮吞口からは鋭い歯が生え出す。
「諸葛家の木牛流馬か?」
彼は残忍に笑いながら斥候の首を斬り落とす。噴き出した血が軌道に飛び散る。
「ちょうど子供たちに血の食事を与えるところだ!」
地中からドラゴンのような金属の摩擦音が響く。三百体の機械兵馬俑が土中から現れ、それらの眼窩には幽かな青い火が揺れ動き、手中の戈矛のプラズマ刃が夜空を切り裂く。燎原の七殺星図が突然膨張し、背後から諸葛亮の声が聞こえた。
「燎原殿、夷陵江底での約束を果たす時が来たぞ…」
「老鬼!」
燎原は振り向きざまに声の方向に斬りかかるが、代わりに時空が粉砕される。彼は自分が陌刀を玄宗の胸に突き刺す光景を見た――龍椅の下では反物質反応炉が過負荷に陥っている。さらに遠く、火星の荒野ではクローン体が司馬家の末裔によって星図チップを埋め込まれている様子が見える……
(三)翰林の殺局
子の刻(午前0時頃)、翰林院の地下室で、司馬承禎の量子渾天儀は《霓裳羽衣曲》を転移コードに変換していた。彼の機械手指が楊国忠の喉を掠めたとき、空中に浮かんだ血珠が二進法の数列に凝縮する。
「右相、あなたが宮中に送り込んだあの胡姫たち……」
承禎の峨冠が突然爆裂し、頭蓋骨に埋め込まれた青銅製の縦目仮面が露わになる。
「全て龍淵計画の生きたセンサーだったのですよ」
「妖……妖怪!」
楊国忠の肥えた顔が恐怖で歪む。彼の抱いていた亀甲のネックレスが急に熱を持ち始める――それは前夜、貴妃から贈られた「護符」だった。承禎の瞳孔が突然収縮し、仮面の縦目模様が赤く光る。
「なるほど、玉璽は太真娘娘の手にあるのか……」
地下室の石門が轟音とともに吹き飛ぶと、玄宗がよろめきながら転がり込む。承禎のナノワイヤーが天子の手首を絡め取る。
「陛下、『三星堆』をご存知ですか?」
彼の声は突然司馬昭の口調に変わり、
「毎日弄ばれている伝国の玉璽、その裏面には星間座標が刻まれているのですよ」
貴妃の悲鳴が突然途切れる。彼女の胸元の亀甲ネックレスが強烈な光を放ち、翰林院全体が量子化され始める。承禎は急に仮面を押さえ、脳内で2049年の電磁ノイズが響き渡る。
「警告……不正な時空ジャンプを検出……」
(四)墨魂が再び燃え上がる
洛陽の天機閣遺跡、諸葛青玄は青銅鼎の前で膝をつき、血を吐いていた。彼の機関腕が鼎耳魚符に挿入されると、鼎身には全息星図が浮かび上がり、安禄山の機械脊椎が龍淵エンジンと共鳴しているのが見える。
「師父……本当に周天星斗陣を起動するのですか?」
少年墨者が薬液に浸した絹布を差し出す。青玄の機械左目が突然破裂し、ナノ粒子を含んだ血涙が流れ落ちる。
「この鼎紋を見て……」
彼は鼎腹の甲骨文を指しながら言う。「“非攻”という二文字は実はエネルギー制限器のコードなのだ」
暗がりから鉄鎖を引きずる音が響く。太子李亨が機関錠で縛られて影の中から引き出され、錦衣には血汚れが付着している。
「私は大唐の皇太子、お前たちのような輩が何を企もうと……」
言葉が終わらぬうちに、青玄のナノワイヤーが彼の首筋血管に突き刺さる。
「殿下の夏侯の血統は、玉璽の黄金よりも貴重です」
青玄の声は冷たく、凍りつくような寒気を放つ。血が鼎紋に沿って河図を形成すると、夜空の北斗七星が突然位置を変え、星々の光が粒子砲となって雲を貫く。潼関の方角から機械兵馬俑たちが一斉に哀号を上げ、AIコアが星光の照らしで自壊し始める。
この瞬間、驪山の地宮が蘇る。秦始皇の青銅棺が土中から現れ、巨大な機械の手が握る七星龍淵剣が竜の咆哮を放つ。
「DNA検証完了、使用者:天機閣第七代巨子諸葛青玄」




