絶望(2)
一目惚れだった。
中学卒業以来恋をしていなかった僕は久しぶりに高鳴る鼓動を感じていた。
"かわいい"
同い年くらいの年齢だろうか?
彼氏はいるのだろうか?
そんなことばかり考えてしまっていた僕の頭の中は完全にお花畑だった。だが、話しかける勇気はないのでこの気持ちは心にしまっておこうと考えていたその時だった。
「年齢はおいくつですか?」
お酒を買っているわけではないのに年齢を確認されたのは一瞬不思議に思ったがすぐに腑に落ちた。
今の時刻は午前3時すぎだったからだ。
背も170㎝くらいでガタイも良くなく昔から幼く見られていた僕は今回もそうなのだろうと分かったので、
「19歳です。」
正直そんなことより一目惚れした人から話しかけられて一言でも会話できたことの方が嬉しかった。
「あ、同い年でしたか!
失礼しました。高校生くらいに見えたので補導されないように注意しようかと思いまして」
本当に失礼された。コンビニでバイトしている方がそんなことで注意するなどだいぶお節介な方なんだなと思った。
いや、そんなことより同い年なのか!!
店内に客は自分1人なのでここで口説き落としたいくらい僕の中で気持ちは昂っていた。
「いえいえ、よく言われるので。
ありがとうございました。」
先ほども言ったが、口説き落とすなどもっての外な程そんな勇気はないので、そのまま店を出た。ネームプレートに書いてあった"堀井"という名前を頭に刻み込んで。
◇◆
コンビニを出て目の前はもう川の土手だった。
少し夜風に当たりながら歩いて、本当に面白くない人生だったと自分の人生を振り返っていた。
こんなことをこの歳でする人はいないだろう。
するとしたら就活生くらいだろうなぁなんてくだらないことを考えながら1キロくらい歩いたあたりのベンチに腰を下ろした。
「プシュッ!」
先ほど買ったメロンソーダを体の中に流し込んだ。
そしてアイスを口の中に頬張った。
メロンソーダは小さい時から大好きな飲み物だった。それを死ぬ間際に飲めるのは幸せなことなのかなぁと考えてふと時計を見るともう午前4時を過ぎていた。
「そろそろ頃合いかなぁ」
リュックの中から持ってきていた包丁を取り出して、首を切りひとおもいにグサリとやってしまおうかと考えていたその時だった。
「ちょっと待ってください!!!」
後ろの茂みから甲高い声が響いて聞こえた。
正直全く気づいていなかったので本当に驚いて、
包丁を草むらに落としてしまった。
声からわかっていたが、振り向くとそこには真っ暗闇の中月に照らされた、先程自分が一目惚れした相手がとてつもなく強張った表情でこちらを見つめ、恐る恐る近づいてきていた。まるで殺人犯を追い詰める時のように。
もう一度見れると思っていなかった顔が見れたことを喜ぶと共に悲しい表情をさせていることがこちらも悲しくてどうすれば良いのかを考え、両手を上げた。まるで殺人犯が拳銃を向けられている時のように。
すると、なんということだろう。
彼女は包丁を川へ蹴飛ばして、僕の頬を思いっきり叩いた。
「私はあなたに何があったのかは知らない。死にたいほど辛いことがあったのかもしれないけど、まだこんなに若いのに、これからいくらでも人生を変えていけるのにここで死ぬのだけは絶対に違う。」
泣きながらこんなことを言われて響かない人はいないだろう。自分の今の状況はなおさらだ。
僕の両方の目からも涙が溢れてきた。
そして彼女はそっと僕のことを抱きしめた。
人の温もりを久しぶりに感じた僕は感極まってさらに涙が溢れた。
"もう自殺なんて考えるのを止めよう。"
正直な気持ちを言うと、最後の最後まで怖さはあった。でもこれから生きていくことの方が怖いと少しだけ思っていたし、自分の中で言い聞かせている部分もあった。
それを止めてくれたのは本当に嬉しかったのかもしれない。
◇◆
数分してお互いに落ち着いてから堀井さんはベンチの僕の隣に座った。
そして僕は話し始めた。
「止めてくれてありがとうございます。そして、怖い思いをさせてすみません。」
僕はまず感謝と謝罪を述べた。
すると堀井さんは、
「コンビニから出ていった後、少し不安に思ったのでつけてきてよかったです。」
「つけてたんですか?!」
「はい、ちょうどバイトが終わる時間だったので
急いで追いかけてメロンソーダをがぶ飲みしているところも見ていました。」
なんと恥ずかしい。
あんな姿を好きな人に見られていたなんて。
「あなたは大学生ですか?同い年みたいですけど」
「いえ、浪人生でして、2浪目なんです。」
「なるほど、それで受験が嫌になって逃げ出したというわけですかー。」
「それもあるんですが、家庭環境も悪くて
僕は予備校とか行ってなくて宅浪なのでそこの大変さがでかくて、」
そしてひと通り今日の自殺の過程と今の自分の家庭環境、今までの受験の状況を説明した。
どうやら堀井さんは大学生らしく、しかも東京の大学生みたいだ。羨ましい。
「これからどうするんですか?」
堀井さんからそう言われた時とても返答に困った。
なぜなら全く考えていなかったから。
「どうすればいいんでしょうね」
少なくとも僕だけでは絶対に答えは出せない問題だと思った。
どうも、作者のりっちーです。
8月になるとここ数年思うのですが、夏休みの宿題って懐かしいなぁと感じるのです。
自由研究とか今ならいろんなことを思いつくなぁとか考えちゃうんですよねぇ。当時は夏休み最後の日まで苦しんでいたのに。
というわけで暑さに気をつけて夏楽しみましょう。