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丸誠商店

 丸誠商店。昔からO町では知らない人がいないぐらい認知されていた、日用品、食料品、雑貨、酒類、塩など、地元に密着したミニスーパーのような店だった。

O町は山と海に挟まれたとても自然豊かな、一人一人がどこの誰だかを知ってるような小さな港町だ。そこで長年、フミとフミの夫、誠助は、"丸誠商店" の看板を掲げ商売をしていた。その当時、酒類販売は地域範囲が決められている免許制で、この町ではこの丸誠商店のみ酒類を取り扱うことができたため、酒販売で繁盛していた。その為、ゴールデンウィークやお盆、年末年始と、特に酒の需要が多い時期は事前に仕入れを増やし、在庫で持っておく必要があったため、一時的に借入をすることもあったが、売り切れば何も問題なく利益になっていた。

 変化が表れたのは平成になってからだ。市町村合併が全国的に盛んに行われ、その波はこの地へもやってきて、現実となった。I市を取り巻く三つの郡がI市に合併されることが決まったのだ。すると、小さな町は、市に吸収される前に予算を使い果たそうと、新たに公民館やスポーツ施設、ふれあいセンター等、いわゆる "箱物" を次々建設した。

 山と海に挟まれたO町は、市街地へ出るには山をひとつ越えねばならなかった。山道は細く長く、右へ左へのカーブが続く。対向車でも来たものなら、道を踏み外して崖から落ちぬよう細心の注意をはらわねばならない。O町へ行くにも出るにも、曲がりくねった山道を車で越えるのに、一時間程かかっていた。

 そこでO町は、町の予算をトンネル建設に注ぎ込んだ。町にとっては画期的な出来事だった。トンネルが完成すると、山を越えるだけで一時間程かかっていたのが、I市の市街地まで三十分程で着くようになった。町は、外部から人がやって来ることを多いに期待した。

 しかし、現実はそう上手くはいかなかった。町民は車さえあれば市街地の大きなショッピングセンターで、今流行りのあらゆる物を手に取り買い物ができる。地元の商店街はどんどん賑わいを無くしていった。同時に若い人の流出も止められなくなり、O町は一気に過疎化へ進んでいった。


 時代の変化と "ある事情" が重なって、丸誠商店は没落したのである。


「八十八か。高齢ですね。心不全とかでしょうか?」

町の警察署。若い刑事が中年の刑事に問いかけた。

「さぁ、こんな田舎だからな。そんなとこだろうが、一応変死ってことで司法解剖だろうな」


 誠一が現在住んでいるのは、O町からトンネルを抜けてすぐのK町である。朝、志津が声をかけてもフミが起きてこないと言うので、誠一がフミを呼びに行くと、フミは昨夜のままの状態でコタツで横になっていた。日が昇り明るくなると、夜の暗闇では気付かなかったフミの異変が目に飛び込んできた。

「おい!母ちゃん!おい!」

誠一は急いで側に駆け付け、必死でフミの体を揺すったが、体は硬く、顔は血の気もなく冷たくなっている。誠一は変わり果てた母親の姿を確認するだけだった。

「何でだ....」



 緑は電話口で泣いていた。

「昨日会ったばかりなのよ。タエちゃん。今日誠一兄ちゃんの家に行ってきたけど、母ちゃんには解剖されるからって会えなかった。タエちゃん、何でこんなことになったんだろう。昨日からコタツで寝たままだったんだって。帰る時、もっとしっかり見ておくんだった...」

『でも最後に子供達皆と会えたんだね、母ちゃん。それだけでも良かったよ』

「うん。タエちゃん。ありがとうね。本当に今までお世話になって、ありがとうね」



「マジっすか!?矢野さん、青酸カリって!」

若い刑事が大声を上げた。

「大きな声を出すな、桜井!これから殺人と自殺の両面からの捜査になるだろうが、こんな田舎でどっからそんな薬が...とりあえず、俺達は捜査しなきゃないが、どこから調べるか…」

中年の刑事が険しい顔つきでそう言うと、若い刑事が答えた。

「そりゃこんな田舎ではそんな捜査したこと無いっすもんね」

 この桜井という若い刑事は、20代後半で上司から叱られないレベルの茶髪にしている細身の男性である。普段は明るく能天気に見えるが、正義感に厚い刑事であった。

「おえらいさんにかき混ぜられ無いようにかなり頑張らないとな」

 こちらは矢野という中年刑事である。中肉中背、髪は短髪で一見強面だが内面は温厚で、観察眼は鋭く頼れる先輩刑事である。

 この二人の刑事が事件を捜査し、解明することになる…?

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