7 ケインさん帰るそして鉄の船
王都から俺の住む町までは馬車で二週間はかかる、王様が何かの方法で使いを出したとしてそれからケインさんを返したとしても三日はかかるだろう、其の頃を見計らって帰り何も出来なかったと芝居をするつもりだ、王様と友達になったなどと信じてくれるわけは無いし、説明できない事が多いからそう言う事で押し通す事にした
魔物狩りをして時間を潰す、魔物は異世界物語では必ず出て来た異空間収納を創造して収めた、寝るのは異空間の家とかもう何でもありだ、神になった気分のつもりだが神様についての知識は皆無だこれで良いのだろうか、全てが理を無視した人には知られてはいけない事ばかりだ、この世界で俺の力を知る人は奇妙な縁でわずかに対話しただけの王様たった一人、縁とは不思議なものだ
俺と王様のつながりを知るものは本人の二人だけ、俺が王様に用事があるときは一度行った場所なら転移出来るので何時でも行けるが、王様が俺に何か用事がある時に連絡方法が無い、神力を使えばスマホも創造できそうだがこの世界にはあまりにもそぐわない、そこで念話石と言うものを創造して後日王様に渡して置いた、念話石に魔力を注げば俺と念話が可能になる優れものだが、秘密を知る王様だけにしか渡せない代物でもある、それともう一つケインさんに渡せと預かった鑑札だが、あの時俺も王様もどうかしていたらしい、つながりのない俺がケインさんに王様からと鑑札を渡すのはおかしいだろう、後でその事に気が付いたのだ、鑑札は返して後日王様からお詫びという形で贈る事にしてもらった
「そう言えばそうですな、うっかりしていた」
王様も苦笑いだった
「しかし、念話とはやはりハヤト殿は神の使いか何かなのだな」
そう呟いていたが聞こえないふりをして帰って来た
三日ほどして家に帰るとエレンさんが家に居て
「お陰様で帰って来たわよ、ハヤトは何をしたの」
「えっ、帰ってきたの、俺は何もしてないけど、よかったぁ~何とかしなきゃと魔物を狩りながら考えていたけど、方法が見つからなくて、ごめんなさい」
「そうなの、てっきり我が家の福の神ハヤトが何かしたのかと思っていたけど」
「嫌ぁ、どうすれば良いのか考えたんだけど、何も出来なくて申し訳ない」
「謝る事なんかないわよ、でもどうしてなのか王様から使者が来たらしいわ、そしたら返して貰えたって、何か手違いがあったらしいの」
「理由はどうあれ帰って来たなら良かったよ」
「ええ、良かったわ」
何とかこれで収まりそうなので一安心だ
その夜、ケインさんが仕事から帰ってくると
「心配かけて悪かったな、いろいろやってくれたようだがありがとう、冒険者と商人ギルドのギルド長たちも、ハヤトが心配して相談に来たと言っていたぞ、ありがとうな、流石に連中も王命とあっては逆らえないと嘆いていたよ」
最初から王様に直談判するつもりだったが、努力している風を装う為ギルド長達を訪ねて置いた事が功を奏したようで良かった
「いずれにしろ帰れてよかった」
「うん、それでだな、俺が意地を張った為今回のような事になってしまったが、トラブルは嫌だから馬車を一台献上しようと思うがハヤトはどう思う」
さすがに捕らえられた事は堪えたらしい、ケインさんにしては珍しく弱気になっている、あの王様なら今後そう言う事は無いと確信出来るので
「その必要はないと思うよ、まるでケインさんが悪かったみたいになてしまうじゃない、此処は本来ならおころ処なんだから、知らん顔して様子を見た方が良いと思う、許してやっているのはこっちなんだから、良識ある王様なら向こうから詫びを入れてくるはずだよ、献上するのはその後欲しいと望まれるか、ケインさんが献上したかったらすれば良いと思う」
「そうか、王様に対してそんな強気で大丈夫かな」
「偉く弱気になっているね」
「まぁ、権力と言うものの怖さを初めて体験したが、俺達平民には抗えない仕組みになっているとつくづく感じたからな」
「今回の事は何かの間違いだったようじゃない、国もそこまで理不尽じゃないと思うよ」
がしばらく様子を見るという事で落ち着いた、数週間後
「ハヤトの言った通りだったぞ、王様はやっぱり立派な人だった、詫びを入れて来たこんな俺に、そしてお詫びにと言って王室ご用達の鑑札をくれたよ、そして順番を待って馬車を三十台も注文をくれたよ」
「良かったね、王様も立派な人だったんだ」
「おう、使いの人の言うには王様自らお詫びを言付かったと言っていた」
「これで安心して商売ができますね」
「強がりを言っていたが、王室御用達の鑑札を貰って初めて一流の商会と言えるんだ、良かったよ」
「それはおめでとうございます」
「うん、ありがとう」
ケインさんの嬉しそうな顔を見て俺も幸せな気分だった、王様にありがとうを言わなければ
ある日ケインさんと雑談する中で
「もう少し大量の荷物を運ぶ事が出来ればいいのになぁ」
食料の輸送の事でケインさんがそう呟いた、国の北では野菜が余って腐らせているのに、南の方では野菜が足りなくて価格が暴騰しているというのだ、余ったものを足りない場所に運ぶにも馬車では限りがあるのだ
「海とか川を使って船で運べば大量に運べると思うけど」
「海も川も魔物がいてな船を襲って来るんだ、船は底に穴をあけられたら終わりだからな、鉄で出来た船でもなければ無理なんだよ」
「ええ~鉄でできた船って無いの」
「ある訳無いだろう鉄で作ったら沈んでしまうじゃないか、鉄は水に浮かばないだろう」
「ええっ、沈まないと思うけど」
「水に浮く鉄なんて聞いた事ないぞ」
「いや、普通の鉄で良いと思うけど」
「そんな馬鹿な事あるか、鉄は水には浮かばない沈んでしまう事は子供でも知っているぞ」
この世界では思い込みの強い人が多いからなのか
「じゃあ、鉄でできた船は無いの」
「そんなもの見た事も聞いた事もない、鉄が水に浮くなんてハヤト頭は大丈夫か」
そうか思い込みって怖いな、この世界何億の人間がいるか知らないが、誰もがそう思い込んでいるらしい
「エレンさん、鉄の鍋あるよね」
「ええ、あるけど」
「持ってきてもらえます」
エレンさんが鍋を持ってきた
「ケインさん、外に行こう」
「何だ、どうするんだ」
外に出て近くを流れる小川に行き
「ケインさん、これは鉄で出来ている鍋だけど」
「みりゃあ分る、馬鹿にするな」
鍋を水に浮かべて手を離すと鍋は流れに乗って流れていく
「其れがどうしたんだ」
思い込みとは事実を見ても理解していない
「ケインさん鉄の鍋が浮いているでしょう」
「ああ、そうだな」
「あの鍋の形を船にしても浮くと思わない」
ケインさんの顔色が変わった
「そうか、そういう事か、そうだよな、おい、ハヤト、また偉い事を教えてくれたな、これで魔物に襲われても大丈夫な船が造れるぞ、そうか、鉄は水に浮かばないという先入観があって誰も鉄で船を造らなかったが、そうだよな、馬鹿みたいだな、これは忙しくなるぞ」
錬金術師と言うのは鉄を粘土のように自在に加工出来る、薄く延ばし張り合わすくらいお手の物だろう。造船技術など無くても形さえ分れば作ってしまうのがルイスのような錬金術師達だ、試行錯誤してものになるのにそう時間はかからないだろう、またまた新しい事業を立ち上げるに決まっている、ケイン商会は何処まで大きくなるのか俺には予想が出来ない
「ハヤト、ありがとう、商会はお前のお陰でどんどん大きくなる」
大きくなるたびにそのアイデアの特許料は俺に入るようにしてしまうから、前世で言う銀行の役目を果たす商業ギルドの俺の口座は、見るのが恐ろしい事になっていると思う、下手をするとこの国の予算より多い金額ではないかと思っている、時々冒険者として依頼受け稼いでいるので、口座の金を降ろす必要もなく残高は分からない、分かりたくないと言った方が良いかも知れない