森の番人
目が覚めると、そこは温室だった。正しくは空調が管理されたコンクリート製の建物で、室内は永遠に続くかと思うほど広かった。
長方形の長辺の中央に入口があり、そこから奥に向かって真っ直ぐ通路が伸びている。
通路の左右は2mごとにポリ塩化ビニルの透明な壁で仕切られ、それぞれがまた長方形の空間を成していた。
この区画は、どれも植物の蔦が絡まってできた緑のカーテンで覆われていた。ウクライナの「愛のトンネル」を思い浮かべてもらえれば、なんとなく想像がつくだろう。
私はこれを「森」と呼んでいた。
森には二種類あり、生きている森は太陽光を浴びてすくすくと成長し、区画全体が黄緑色に輝いている。
死んでしまった森は上部から切れた蔦が何本もぶら下がり、荒れ果てて雑草が生い茂っていて昼間でもほの暗い。
そして完全に太陽の光を通さなくなると、その森は半日ほどで消滅してしまう。
生きている森の中でも、特に生命力が強い区画には不思議な力があった。所定の場所にカートと呼ばれる機械を移動させると、ロックが外れ別世界へ続く扉が現れるのだ。
私はなぜかその位置を知っていた。そして、いつでも出ていけるという安心感から、扉を出現させてはただ眺めることを繰り返していた。
ある日、扉が消えた。
何度カートを動かしても、何も起こらない。
この温室から逃げ出すための扉は現れず、私は一人、この美しく残酷な世界に閉じ込められてしまったのだ。
次の日も。私は温室に足を運んだ。
日が変われば扉が復活するかもしれないと、そう期待したからだ。
しかし、そんなことはなかった。
次の日も、またその次の日も。私は温室に行くたび、淡い期待を胸に同じことを試し続けた。繰り返せば繰り返すほど、絶望が濃く深くなることを知りながら――。
あれから何年経っただろう。
今日も私は、森を育てている。
頭の片隅でもうここから出られることはないと解っていながら、それでもいつか、またあの扉が現れて私を外の世界に連れ出してくれると自分に言い聞かせて。
END
本作品は、実際に見た夢をベースに書き起こしたものです。
是非、この「森」の情景を具体的に想像しながらお読みください。




