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3. 魔法を試してみたところ

 かくして、移動中の馬車の中で、隊長さんによるとても真面目な魔法講座が始まった。


「まずは簡単なところから始めましょう。初歩的な魔法として、試しに光の魔法をやってみましょうか」


 ……光の魔法?


「両手を出していただき、頭の中で、手のひらから光を発生させるイメージをしてください」


 一口にイメージと言われても難しい。


 光とは何か。

 電気がスパークする感じなのか、あるいは、家の蛍光灯のようなものを思い浮かべればいいのか。

 

 その上で、思い浮かべたらそれを手のひらから発生させる?


 ちんぷんかんぷんなまま、私は漠然と「光」を想像してみる。

 すると、私が想像できたと思った隊長さんは、次の段階に話を進めた。


「では次に、魔力を使ってその想像を具現化します」


 ……おっと。いきなり話が難しくなった。


 難しいことを言うな、という顔をすると、隊長さんは私の気持ちが読めたらしく、くすりと笑った。


「大丈夫ですよ。まずは私が見本を見せますから」


 そう言うと、彼はパンッと両手を合わせて『ライト』と口にした。


 その後ゆっくりと手を離すと、丁度手と手の間にできた直径五センチほどの狭間に小さな光の玉が現れる。その色は、蛍光灯というよりは、夜寝るときとかに使う豆電球のオレンジっぽい色だった。

 隊長さんがそのまま片方の手首を軽く曲げて光の玉を下からポンッと上に向かって押すと、光の玉は馬車の天井めがけてふわりと飛んだ。


「うわぁ……」


 電球もなく仄暗さを感じていた馬車の中で、微かに明かりが灯り、思わず声が漏れてしまった。

 手のひらから光の玉が出るなんて、元の世界では絶対にありえないこと。だからこそ余計に、魔法という不思議な現象を目の当たりにして、気分が高揚してしまう。


 しかし光が灯ったのは一瞬で、隊長さんが片手をぎゅっと握れば天井の光は消滅し、馬車はまたいつもの明るさに戻ってしまった。


 さながら花火が散ってしまったときのようなそんな感覚になり、少し残念である。


「魔法で出した光を出し続けるためには出してる間中魔力も消費されるので、長くは出し続けられないんですよ。私にそこまで魔力がなく……すみません」


 隊長さんはまた私の気持ちを汲み取ってくれたらしい。光が消えて残念に思ってしまった私に、すぐに消してしまった理由を教えてくれた。


 ……そうよね。今は討伐に向かってるわけだし、こんなところで魔力を無駄にはできないか。


「では、今度は聖女様がやってみてください」

「……はい」


 やってみろと言われても、一度魔法を使うところを見ただけでできるものなのか。


 よく分からないまま、とりあえず形だけ隊長さんがやっていたのを真似てみる。


「まずはイメージしてください。手のひらから光を出すイメージです。イメージができたら両手を合わせて、『ライト』と唱えながらその手を離す」


 隊長さんも、さっき教えてくれたことをもう一度最初から話してくれたので、私もそれに従いながら頭と手を動かして『ライト』と唱えた。





「……」

「……」




 しかし、私の手からは光の玉なんて現れなかった。私としては想定通りだったが、その場にしーんとした空気が流れるとなんだか気まずい。


 そろりと隊長さんに向けて目線を上げるも、彼はじーっと私の手を見つめていた。


「えっと……すみません。やっぱり私には魔法なんて使えないんですよ。そもそもこんな、両手パンッてするだけで魔法が使えたら、元いた世界でもバンバン魔法使えていたわけで。これで光が現れなくてもまあ、当たり前と言いますか……」


 無言の空間は居た堪れなくて、私は早口で言い訳をしていた。


「……」

「……あの?」

「ちょっと失礼します」


 隊長さんが何も話してくれないのでもう一度話しかけたところ、突然彼は手を伸ばしてきて、私の両手を掴んだ。


 ……ひぇっ。


 男性に手を触れられるなんて久々で、私は思わず驚いてしまう。

 悲鳴はなんとか心の中だけに留めたものの、大きい手のひらにスラッと長い指で、イケメンは手の先までカッコいいんだななんて変なことを考えてしまうくらいには、動転した。


 ……婚約はしていたけど、それまで恋愛はめっきりだったもんなあ。それにあいつ、外では触って欲しくないって言ってたから手を繋ぐとかしなかったし。今思えばそれって、他の女の子に見られたら困るからだったりして? はは、笑える。


 ただ隊長さんの手が触れているだけで嫌なことまで思い出してしまった。

 そんなところで、隊長さんに呼ばれて現実に戻る。



「……聖女様。分かりますか?」


 分かるって、何を。

 そう聞く前に両手に違和感を覚え、今もなお隊長さんの大きな手に握られている両手に視線を落とす。


「今、私から聖女様に向けて魔力を流しています」


 違和感の正体は彼の魔力らしい。

 たしかに何か、両手から腕にかけて伝ってくる感じはする。


「これが魔力……?」

「はい。今はこちらから流し入れていますが、魔法を使うときにはこの逆の流れで魔力を放出するのです」


 私が感じ取れたのを確認すると、隊長さんはそっと手を離した。

 どうやら彼は、魔法を使うための魔力の流し方を実践してくれていたらしい。手を繋がれただけで勝手に動転して気恥ずかしさまで感じてしまっていた自分が恥ずかしい。


 ……いやうん。隊長さんはずっと魔法のことしか頭になかったからそれ以外の理由なんてあるわけないんだけどさ。でも突然イケメンに手を握られたら誰だって困惑するわよ。うん。



「どうでしょう? これでもう一度先程お伝えした方法を試してみていただけませんか?」

「わ、分かりました……」


 もう一度。

 光を頭の中でイメージして、両手のひらを合わせて、魔力というものの流れを意識して。


『ライト』


 グッと手のひらに力を込めて、それからゆっくりと離す。

 ……ほんの少し、手が離れた瞬間だった。


 手のひらからは真っ白な光が出てきた……が。



 パンッ



 私は思わず、また両手をくっつけた。


 ……今の、何!?


 光は隊長さんのオレンジっぽいのとは違って真っ白だった。多分蛍光灯をイメージしたから。

 そして何より……玉どころのレベルではなかった。

 手のひらから何かが生まれるのかってくらい、ほんのちょっと手を離した隙間から、溢れんばかりの強い発光。そのまま手を離したら眩しくて目も開けられなくなりそうで、反射的に光の道を塞いでしまったのだ。


 きっと今のが光の魔法。

 使えないと思っていた魔法が使えてしまった。

 私にとっては残念な事態。

 だって魔法が使えてしまうと……



「光の魔法ですらこんなに強い力を発揮なさるなんて、さすが聖女様です」



 …………聖女認定に抗えなくなるのだから。

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