33. 敵なしの魔法士長 ※レヴィ視点
「さーて。どこかな〜?」
魔法士長である僕自らこのウッド男爵家の邸宅に出向いてきて、探し物を始めた。
玄関の鍵を魔法で開けて勝手に入りはしたものの、いかんせんこの邸宅は部屋数が多い。とりあえず帯同させてきた他の魔法士たちには散り散りになって各部屋を探すよう指示し、自分はどの部屋を探しに行こうか探検感覚で明るく声を出してみたところだ。
すると二階から、ダンディな六十代くらいの男性が姿を表して声を出してきた。
「あなたは……魔法士ですか? こんな時間に何の用でしょうか? 一体何をしているのですか?」
その男性は、見たところウッド家の執事長のようだ。家長であるウッド男爵やその娘が牢屋に入ったなんて、まだ知らないだろう。
執事長は、上に上がっていく魔法士たちとすれ違いながら階段を降りてくる。僕は階段の下で彼を待ち、彼が階段を降りきったところで質問に答えた。
「すみません。遅れを取ると肝心な物を隠されてしまうかもと思いまして」
ウッド一家を逮捕した後すぐに、移動魔法を使える魔法士たちだけ引き連れてここに来た。
もし逮捕した三名以外にも禁忌魔法の存在を知る者がいた場合、我々がここに来るより先に一家の逮捕を耳にしてしまったら、間違いなくこの家にあるはずの禁忌魔法についての情報が消されてしまうと思ったからだ。
だから仕方なく、非常識なんてことは考えず、こんな夜中に訪問してきて勝手に家探しを始めたというわけだ。
「肝心な物……?」
「まああなたは少しの間そこにいてください。変な真似はされませんよう」
「何の話ですか? こんな時間に来るなんて、まさか旦那様方に何かあったのですか?」
さすがにこんな簡単な説明だけでは怪訝な顔をされて当然だ。
しかも彼が仕えるこの家の主人も奥さんもその娘も、誰も帰ってきていないのだから仕方ない。
執事長に同情しつつ彼をチラリと見るが、何やら様子がおかしい。
どこか落ち着きがないように見える。
ただ魔法士長が突然訪問してきて家探ししていることに驚いているからなら良いが、もし違うなら?
長年この家に仕えている執事長なら、一族が使っていた禁忌魔法について聞かされていてもおかしくないか?
……まあでも、叩けば埃ばかり出てくるだろうしなあ。禁忌魔法に限らず、家探しされては困るものがたくさんありそうだ。さて、この執事長は何を気にしているのかな?
「……ウッド家の方々が今どこにいるか教えましょうか?」
「お披露目会の会場ではないのですか?」
「いいえ。彼らは今、王宮の牢屋にいます」
「それは本当ですか!?」
執事長の反応を見つつ、現状を教えてあげた。
すると彼は大層驚いている。
「一体何があったのですか? 陛下は一緒ではなかったのでしょうか?」
「陛下ですか?」
「あ……いえ、その……」
この驚きっぷりからして、男爵たちが牢屋に入ったことは初耳のようだ。であれば、もしこの執事長が禁忌魔法について知っていたとしても、その証拠はまだ手付かずのはず。それだけで一旦は一安心だ。
しかし執事長は何故、「陛下」と口にしたのか。
その発言を疑問に思われたことに気づいた執事長は、少し言いにくそうにしたのち、理由を話し始めた。
「その、お嬢様は陛下と親しくされているので、多少のことがあっても陛下がいれば守ってくれるものと……」
執事長の口ぶりから、先日魔法士たちの間でエリー・ウッド嬢が王妃に内定したという噂が広まっていたことを思い出す。
……つまりあの噂は本当で、王妃となるお嬢様が牢屋に入るわけがない、ということか。
であれば彼の言い分は分からなくない。
だが、希望に添える回答はできない。
「……陛下も一緒にいましたよ」
「! ではなぜ……?」
愕然としていた表情は、お嬢様が陛下に見限られたからか。
あるいは……。
「禁忌魔法で好意を倍増させていたのに、その相手から守ってもらえないなんてなぜかって?」
考えついた推測を口に出してみる。
「え……」
執事長の目が泳いだ。
その一瞬で、片が付いた。
「『サイト』」
執事長が禁忌魔法のことを考えた瞬間に、僕は相手の頭の中を覗き見られる魔法を発動させた。ちなみにこれは、僕のように有能な魔法士しか扱えない上級魔法だ。
「書斎の本棚、下から二段目、左から七冊目。植物図鑑の中だ。見てこい」
「はい」
「な、なんで!」
「『アレスト』」
「うっ!!」
執事長の頭の中に浮かんだ場所に魔法士を即座に向かわせて、その魔法士の行く手を阻もうとした執事長は捕縛魔法で動けなくした。
「テイラー士長! ありました!」
あとはもう、書斎から魔法士が大声で発見を宣言すれば、終わりだ。
魔法士から手渡された書物をパラパラとめくり、念のためそれが偽物じゃないことを確認する。
「うん、これみたいだ。よしじゃあこの家の人間全員アレストしておいて。後で王宮から兵士が来るはずだから、来たら引き渡しよろしく。僕は先に王宮に戻るね」
「承知しました」
お目当ての物を手に入れられたので、この場の後片付けは他の魔法士に任せて、僕は一人で移動魔法を使って王宮に戻った。
***
……ふむふむ、なるほど。
ウッド家から回収してきた書物に書かれた魔法は、初めて見る内容でなかなか興味深かった。
遠い昔、禁忌魔法が禁忌とされた時。
合わせてそれに関連する書物も大方燃やされている。だから、現在禁忌魔法を知る術と言えば、限られた人間だけが入ることを許される王宮図書館の地下室に行くくらいなもので、しかしそれでも、そこに貯蔵されている書物が過去に存在していた禁忌魔法の全てを網羅しているわけではない。
それこそ今回のウッド家のように、各家門にだけ受け継がれている禁忌魔法があった場合。
ウッド家がそれを王宮に差し出さなければ、ウッド家以外の人間は知ることができないというわけだ。
もちろん隠したところで、こうしてバレたら一族郎党投獄あるいは死刑になる未来が待っているわけなので普通であれば隠し立てする家門はいないはずだったのだが。しかし見つかりさえしなければ、魔法で相手の感情を操れるので、栄華を極めることができる。
諸刃の剣ではあるが、ウッド家は禁忌魔法を隠れて使うことにより長年に渡り甘い蜜を吸っていたのだ。
……これなら陛下や貴族たちにかけられている魔法の解除は僕でもできそうだな。となるとまずは。
「……こちらの居心地はどうですか? ウッド嬢」
移動魔法で到着したのはエリー・ウッド嬢が投獄されている牢屋だった。
一旦書物は後ろ手に持ち、ただ様子を見にきたように声をかけた。するとウッド嬢は牢屋の柵にガチャンと音を立てながら飛びついてすごい勢いで懇願してきた。
「魔法士長様! どうか、どうかわたくしの話を聞いてください! わたくしは無実です!」
「無理ですよ。僕はこの目であなたが禁忌魔法を使うところを見たんですから。それで無実というのはちょっと」
僕は笑顔で答えた。
「違うのです! あれは、その……わたくしはあれが禁忌魔法だなんて知らなかったのです! だってこんな、こんなことになるなんて……」
「残念ながら、自分にはあなたを裁く権利はないので、いくら言い訳をされても無意味ですよ。それより意味のある話をしませんか?」
ウッド嬢は、自分は禁忌魔法と知らずに使っていたのだと苦し紛れの言い訳をし始めたが、僕はそれを受け入れるような甘い人間ではない。
だから、彼女の無意味な話を聞かされるよりずっと、有意義な話を持ちかける。
「……なんですの?」
「このままだと、あなた含めウッド一家は一生この牢屋暮らしか……最悪の場合は死刑もあり得ます」
「し、死刑!?」
「ですがもし、あなた方が魔法士である我々に協力してくれるなら、我々が所有する別荘で、ここよりも良い暮らしを約束します」
「別荘? 牢屋じゃなくて?」
「はい。一般には知られていませんが、我々の協力者となる犯罪者に提供するための別荘があるのです。まあ別荘と言いつつ、外出はできないですし、我々の監視下に置かれるという点では牢屋と変わりありませんが、ある程度の生活レベルは保証します。牢屋なんかよりは全然人間らしく生活を送れると思いますよ」
嘘のように良い話だろう。
牢屋に囚われた彼女には、ここよりも良い暮らしができるなんて喉から手が出るほどに欲しいはずだ。
彼女は唾をごくりと飲み込み、その生活を手に入れるための協力内容を聞いてきた。
「……協力って、一体どんなことを?」
「ウッド家の人達には簡単な内容ですよ」
僕はにーっこりと笑って、ウッド嬢に説明をした。
内容を聞いたウッド嬢は少し顔を青ざめさせていたけれど、ここから出られるなら仕方ないと、最後には僕の提案を飲み、魔法士所有の別荘へと移送されることになった。
そしてこのやり取りは、ウッド男爵やそのご夫人などにも持ちかけて、全員別荘送りになったのだった。




