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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第二章 王都

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32. 褒美の条件

「なっ……なんですの!?」


「レヴィさん! どうしてここに?」

「一応この国の魔法士長ですからね。こう言う場は苦手なのでいつもなら来ないのですが、さすがに聖女様お披露目会には出るべきだと部下に無理やり連れてこられまして。しかしまさか、こんなところで禁忌魔法を見られるとは思っていませんでした」


 禁忌魔法を見れたことが嬉しいのか、レヴィさんは恍惚な表情を浮かべている。


「ま、魔法士長……?」


 一方で、現行犯だの逮捕だの言われた彼女は、その可愛らしい顔から一気に血の気が引いている。


 この国で一番魔法に長けている人の前で禁忌魔法を使ったのであれば、これほどまでに言い逃れできない状況はないだろう。当然である。


 ……あ。もしかしてさっき見えた赤いのって、彼女のその禁忌魔法が見えてたとか?




「『アレスト』」


 私が先ほど見えた赤いオーラのようなものについて考えていたところ、レヴィさんが一瞬で魔法を発動して、エリーさんは彼女の胸の高さに出現した光の輪で一瞬にして縛り上げられた。


「きゃっ」

「おい、一体何を!」

「禁忌魔法を使った不届き者を捕縛したのですよ。さ、ウッド嬢。あなたが使った魔法を解除していただけますか?」

「……そんなもの知りませんわ」


 この期に及んで彼女はプイッと知らないふりをする。顔色は悪いままだが、それでもまだ自身の口で罪を自白することはしないらしい。


「そうですか。ではまあ、魔法の解除は追々ということで、とりあえずあなたには牢屋に入ってもらいましょうか」

「な、お、お待ちを! 何か……誤解が……」

「この目で見たことに間違いはありません。今更、どんなに取り繕おうとしても無駄ですよ。あなたはその赤い目で、相手の好意を何倍にも膨れ上がらせる魔法を発動しているのでしょう?」

「え…………」


 レヴィさんは目を大きく見開いた怖い笑顔を浮かべながら、彼女の特徴とも言える赤い目を指差している。もう既に、彼女が使った魔法が分かったようだ。



『相手の好意を倍増させる魔法』



 あんなに可愛い子に見つめられたら誰しもが多少なりとも好意を持つ。少しでも好意を持ってくれたら、その瞬間にそれを倍増させておけば、皆が自分の味方になってくれるというわけか。


 ……可愛いからだけで何をしても皆が味方してると思ったら、そういうことだったのね。


「先ほど少しだけ見させてもらいましたが特に呪文はないんですかね? その目で見つめれば魔法にかけられる? ふむ、興味深い。この後、私が直接ウッド家に出向き、受け継がれているであろうその禁忌魔法の書物を探しましょう。きっとそこには魔法の解除方法も書いてあると思うので、あなたが自身で魔法を解除する気がないなら、後で私が試すまでです。さ、では牢屋に行きましょうか。……ああそうそう。そこで逃げようとしているウッド男爵とそのご夫人もご一緒に」


 彼女が吐かないのであれば家探しをすれば良い。

 そう言ってレヴィさんは、捕縛した彼女にまた禁忌魔法をかけないよう目隠しをしつつ、コソコソと身を隠そうとしていたエリーさんの両親に声を掛けた。


「わ、私どもは別に……!」

「ここから抜け出て証拠を処分するつもりなのでしょうが、そうはいきませんからね。皆さん一緒に牢屋に行きましょう」

「違います、そんなつもりでは!」

「そんなつもりじゃないなら逮捕の場面で娘さんを庇いに出てくるべきでしたね。先ほど姿を現さず、むしろコソコソとこの会場から出て行こうとするなんて、証拠隠滅以外にどんな理由があるのですか?」


 レヴィさんに問い詰められて、エリーさんのご両親は何も言えなくなっていた。そうしてご両親にもしっかりと目隠しを施して、レヴィさんはウッド家の三名を牢屋へと連行したのだった。

 



 この騒動により、エリーさんの言い分ばかりが通り、誠実な隊長さんのことを信じる人がいなかった理由が判明し、私は腑に落ちた。しかし一つだけ引っかかる。


「私たちには魔法が効いてなかったですよね? どうしてでしょうか?」


 それとなく隊長さんに尋ねてみると、隊長さんに代わりランドールさんが答えてくれた。


「我々には好意が微塵も無かったからだと思いますよ。ゼロにはどんな数字をかけてもゼロですから。ゼロ、またはマイナスの好意を持つ相手にはかかられない類のものなのでしょう」

「ああ、なるほど」


 掛け算の話だったか、と納得すると、一人残されてその場に立ち尽くしている王様が目の前にいたことに気付く。


 魔法が解除されていない彼はまだ、事態の理解が追いついてないだろう。

 自分の好きな人が、まさか自分に魔法をかけていただなんて信じられなくて当然だ。


 傲慢でプライドの高い王様なら尚のこと。

 この事実はそう簡単に受け止められない気がする。


「王様、彼女のことは……」

「よい。何も言うな」


 同情心から恐る恐る声をかけるも、それは即座に断られてしまった。


 それから誰も彼に話しかけられないでいると、彼は突然ふーっと息を吐き出して拳を握り、隊長さんに向かって話し始めた。


「……エリーのことは追って真実を明らかにするとして、今この場では、先ほどそなたが言い出した討伐の褒美について話したい」

「……はい」


 討伐の褒美と言えば、隊長さんが言い出した電撃発言のこと。


「聖女と結婚する権利、だったな?」

「はい」

「いつも褒美として欲するのは、討伐部隊の予算アップや上等な武器だったと思うが、今回はいらないのか?」

「はい。今回の権利はかなり価値あるものだと思いますので、それ以外は望みません」


 ……え!?


 予算アップや上等な武器の代わりに私と結婚する権利?

 それを聞いては余計黙っていられない。


「待ってください隊長さん! いつも通りの、もっと実用的なものをもらうべきです! 私との結婚なんてそんな……」

「聖女様。あなたはもう少し自分の魅力に自信を持ってください」


 魅力なんて生まれてこの方感じたことがない私に、自信を持てだなんて無理な話だ。

 昔から、『地味』や『可愛げがない』なんて言葉をたくさん浴びてきたのだから。


「でも……」

「先ほど私がバルコニーで言った言葉を覚えていますか? あれが私の本心です」




────聖女様は可愛い女の子にしか見えませんから。




 そんな恥ずかしい台詞を言われたことを思い出し、私の顔がまたぶわっと熱くなった。


 ……そ、そうだった。


 隊長さんは私を可愛いって言ってくれていた。

 お人形のように可愛い元婚約者のあの子と比べたら天と地の差もあるのに。でも隊長さんが嘘を言ってるようには思えないのも本当だ。


 ……私、本当に隊長さんに好かれているって思っても良いのかな?



「ったく。お前がそんなに物好きだったとはな」


 私に向かって言われたわけではないが、私と結婚したいと言う隊長さんを物好き呼ばわりするということは、そういうことである。王様に言われるとムッとしてしまうが、しかしまあ、その意見には同意である。


「まあ良い。……そうだな。お前が望むものを褒美としてやっても良いが、条件がある」

「何でしょう」


 王様は顎に手を当てて少しの間考えていた。

 それから結論に至ったのか、隊長さんに条件を提示してきた。



「今後も聖女が魔獣討伐に同行し、この国で発生している瘴気全てを浄化すること。それができた暁には、聖女との結婚を認めてやってもいい」


 ……瘴気を……全て?


 それは、その場にいた誰もが唖然とするような過酷な条件。

 その条件について気になる点を、スッと挙手して質問してみた。


「あの……瘴気って、あといくつくらいあるんですか?」

「知らん」


 しかし王様からは、たった三文字で突き返されてしまった。


「魔の森は奥が深いし、瘴気の発生条件すら未だ解明できていないのだ。あとどのくらいあるかなんて余が知るわけないだろう」


 当然のようにそう答えてきたが、そんな不確定なものを条件にしないでほしいと考える私が間違っているのだろうか。


「残りも分からないのにどうやって全て消せたかを判断するんですか?」

「とにかく全部だ! 全部消せ!」


 ……横暴過ぎて話にならないわね。


 よくこんな王様で国が回っているなとただただ呆れてしまう。彼の周りに優秀な人が揃っているのだろうか。それこそたくさんいる妃の方々は、皆さん気品あふれつつ仕事ができそうな人たちばっかりだった。……妃の皆さんに話を聞いてみたいところだ。


 なんてことを今考えても仕方ない。

 この状況ではいつまで経っても話が決着できない気がして、私は隊長さんに助けを求めた。


「どうしましょう隊長さん。さすがにあの条件は……」

「大丈夫ですよ」


 あの、曖昧で不可能に近い条件は飲めないと思ったのに、隊長さんはやけにあっさりそう言ってくれた。まさかそう来るとは思わず、私は目をぱちくりと瞬かせる。


 すると、隊長さんはこっそり教えてくれた。



「私たちの結婚の当初の目的は、聖女様が陛下との結婚を回避することでした。条件を達成できるまで私との結婚ができないことは少し残念ではありますが、その間は陛下も聖女様に手出しはできないことになるので目的は果たせます」

「あ、なるほど」


 隊長さんにそう言われて納得したが、隊長さんは最後に一言だけ付け加えてきた。


「ああでも。私としては一日でも早く聖女様と結婚したいので、討伐は頑張りますよ」


 ……う。それは反則。


 目的を考えれば条件は受け入れられるけど、それでも私と早く結婚するために頑張ってくれるなんて。

 どこまでこの人はかっこいいんだろう。


 私が隊長さんの言葉につい惚けてしまっていると、隊長さんが王様にキリッと返答した。


「分かりました。陛下の仰る条件を飲みます。その代わり、聖女様が瘴気を浄化しきるまでは彼女を他の誰とも結婚させないとお約束ください」

「……そなたとの婚約は認めろということだな? まあそれは良いだろう」

「ありがとうございます」


 隊長さんが頭を下げてお礼を言ったので、隣にいた私も一応合わせて頭を下げた。



「ではとっとと頼むぞ、聖女よ」



 ……ほんっと一言余計ね。


 言われなくてもそのつもり。


「……善処します」


 下手に約束はしないけど、早く終わらせたいのはこちらも同じ気持ちなのだ。

 魔獣だらけで危険な魔の森になんて何度も行きたくはないし、それに隊長さんがああ言ってくれたのだから。

 一度の討伐で魔獣や瘴気をたくさん消して、早く聖女という役職から解放されよう。


 私はこの日、そう決めたのだった────。

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