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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第二章 王都

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31. 彼女の秘密

「……私は誰にも騙されていませんけど」


 仕方がないので、今度は私が応じる。


 隊長さんほど人の良い人を捕まえて私を騙しているだなんて、よく言えたものだ。


「隊長さんはすごく優しい人なんですよ。あなたがどんなに根も葉もない噂を広めようとも、それを真正面から否定せず、あなたの名声を守ったくらいに、心も広い人」


 元婚約者はハッとした表情を見せているが、言い返す機会も与えないようそのまま続ける。


「あなたは、その可愛らしい見た目でお人形のように可愛がられて、今まで周りの人にどんな我儘も受け入れてもらえたんでしょうね。でも残念。私はあなたみたいな人、大っっっ嫌いよ」


 ……また、聖女らしくないと言われるかしら。でもここまできたら、もうどうでも良いわね。


「王様。話が進まないので、二択にしましょう」


 私は手でピースサインを作り、王様に向けた。


「二択……?」

「一つ目は、私と隊長さんとの結婚を認めて王様は大人しく引き下がること。そうしてくれたら私は聖女として最善を尽くすとお約束します。二つ目は、私が聖女だという発表を撤回し、他をあたること。私が聖女じゃなくなれば無理して結婚する必要はなくなりますよね?」


 二択と言いつつ、答えは一つしかなかった。


 後者の撤回は、このお披露目会で鼻高々に発表しているから難しいはずだ。そうでなくても、事実として私が瘴気を浄化していて、その時点で聖女であると証明されてしまったから、聖女である私を野放しにすることを容認出来るわけがない。


 だから答えは、一つ。


「さあ。どうします?」


 私はニッと口角を上げて回答を催促した。

 聖女らしくないニヒルな笑みだが、自然と出てしまったものは仕方ない。


「ひ、卑怯だぞ!」

「何がでしょう? 回答しやすいよう話を整理して選択肢を二つに絞って提示してあげたのに、卑怯だなんてとんでもない」

「そんなもの二択とは言えん! 二つ目は選べないじゃないか!」

「そうでしょうか。だって皆さん、私が聖女らしくないとあちこちで言っているじゃないですか。どなたかからは、私よりそちらのエリーさんの方が聖女に見えるとまで言われましたよ? であれば、少なくともここにいる皆さんには受け入れられる提案だと思ったのですが」


 建前上、後者の提案も聞き得るに足るのだと説明をする。

 実際周りから陰口が聞こえているのは本当で、恐らく王様の耳にも届いているはずだ。


 ……というか、この王様自体も私に散々な言葉を浴びせてきたから、人のことも言えないでしょうし。


「……くっ」


 困窮する王様の姿を見て、エリーさんが前に出てきた。


「あなたには慈悲がないのですか? 陛下をこのように追い詰めるなんてどうかしています。……そう思いませんか皆さん?」


 なんと彼女は、聴衆に訴えかける作戦に出てきた。ここにいる人のほとんどが自分の味方だと思っているからだろう。


 そしてその想定はその通りになる。



「ああ。聖女様なら慈悲深い姿を見せてほしいよな」

「そうですわね」

「陛下を困らせるなんて、無礼すぎるわ」

「自分が聖女と言われて威張ってるんだろ?」



 まただ。

 会場に入って彼女が隊長さんに話しかけてきたときも、聴衆は皆彼女を擁護していた。彼女が嘘をついてるわけがないと、彼女の発言を疑う人すらいなかった。

 そもそも私が聖女らしい振る舞いをしていないのはそうなのだが、それでも皆が一様に彼女の言い分を信じるのは不思議でならない。


 一体なぜ?

 それだけ彼女の人望や信頼が厚いのか、あるいは……。



「まるで魔法にでもかかってるみたい」


 私が聴衆に目を向けながら無意識にぽろりとこぼしたセリフはエリーさんにも聞こえていたようで、彼女は一瞬ギクッとした表情をして肩をすくませた。


 それを見逃さなかった私は、確認も込めてもう一度言う。


「? ……『魔法』?」

「!!」


 引っかかりそうなところはそこしかない。

 念のため「魔法」という単語だけもう一度彼女に向かって言ってみると彼女はギクギクッとして、あからさまに目を逸らし始めた。


 ……まさか本当に?


 私は嫌な予感がして、隊長さんの腕を下に引っ張って、彼の耳元で、念のため自分の口元も手で隠しながら小声で聞いてみた。



「この世界に、相手の感情を操る魔法ってありますか?」

「え?」

「それか……相手に好意を持ってもらうとか、自分の言うことを絶対信じるようにさせるとか」


 突然何を言い出したのかと言いたげな隊長さんは、戸惑いながらも私に合わせて小声で答えてくれた。


「あるにはありますが……人間の感情を操る魔法はこの国では禁忌とされています」

「禁忌……。それってバレたらどうなりますか?」

「程度にもよりますが、まず確実に牢屋行きです。禁忌魔法を使っただけで違法ですから。その上で、使った魔法の種類や対象、その使用頻度によって死刑になる可能性もありますね」

「なるほど……」



「先程からコソコソと一体何を話しているのだ!」


 せっかちな王様は私たちが小声で話していることが気に食わなかったようで、すぐに怒鳴ってきた。

 しかし私はそれぐらいのことでは怯まず、淡々と返事をする。


「すみません、ただ少し気になったことがありまして隊長さんに確認させていただいたのです。……エリーさん、あなたは禁忌魔法をご存知ですか?」


 私はエリーさんに直球ストレートに尋ねてみた。


「な、なな、何を……!」


 ……分かりやすい動揺をありがとう。


「これはあくまで私の推測なんですが……。もしかして、あなたは禁忌魔法を使ってここにいる皆さんの感情を操作しているんじゃないかなー、と思ったりしまして」


 私は確信を持って、推測を突き付けた。

 具体的にどんな効果のある魔法を使っているかは分からないが、禁忌魔法に手を出していることは先ほどの反応だけで一目瞭然だったから。


「そ、そんなまさか……。ありえませんわ。どこにそんな証拠があるのです?」

「いえただ、どんなにあなたがか弱い女性を演じたとしても、中にはあなたを嫌う人や、あなたの言動に矛盾があることを指摘する人がいてもおかしくないのに、どうして皆さんあなたの味方なのかなと不思議に思いまして」

「それは! わたくしの話が事実で、皆さんがわたくしを好いてくれているだけですわ! 自分の意見が通らないからとそんな戯言を、」

「ウッド家は昔から、その美貌をもって貴族たちから慕われていた印象です。ウッド家にだけ受け継がれている禁忌魔法があってもおかしくはないですね」


 そう言って会話に入ってきたのは、先ほどまで遠目から私たちを見守っていたランドールだった。

 さすが討伐部隊の頭脳派だ。良いところで助けに入ってきてくれたと思う。


「失礼。興味深いお話でしたのでつい口を挟んでしまいました。私はシュナイツ隊長の部下で、討伐部隊の第二班班長のランドールと申します」


 咄嗟に入ってきつつ、ランドールは頭を下げて丁寧に挨拶をした。

 それを受けてから、エリーさんは反論してきた。


「デタラメです! 禁忌魔法なんて受け継がれてませんわ! それに、ウッド家は魔法に疎い家門ですもの。禁忌魔法なんて使えるわけがありません」

「ああ。ウッド家が魔法に疎いというのは表向きの話だったんですね。裏で日常的に禁忌魔法を使っていたのだとすれば、その分魔力がそちらに割かれると思いますので、他の魔法を使うことが難しくなってしまっていたというのも分かります。なるほど、それでウッド家は魔法が疎いとされていたんですね」

「ちち、違います……。そんな……そんなことは……」


 彼女の顔が一気に青ざめ、言葉もしどろもどろになり始めた。


「エ、エリー?」


 ここでようやく王様も、彼女の様子がおかしいと思い始めてくれたようだ。

 たらりと冷や汗を流しながら、王様は彼女に問う。


「違うよな……? 今の話は、聖女たちの作り話だろう?」

「陛下。わたくしを疑うのですか? どうかわたくしの目を見て。わたくしを信じてください」

「……っ」


 彼女は上目遣いをして涙ながらに、疑うなんてひどいと王様に言い返していた。

 そんなやり取りをじっと見ていたところ、私の目には変なものが見えてきた。


 ……? 何あれ?


 目を見てと言って見開かれた彼女の赤い目がキィンと輝きを放つと、その目に見つめられた王様の背中からぶわっと赤いオーラのようなものが出現し、王様に全身に纏わりついていた。


 それが何なのか分からず首を傾げて見ていると、王様と彼女の向こう側から、ある人物が現れた。



「ストップ」



 優雅で気品あふれるその人は、彼女の赤い目の前に手を伸ばすことで、彼女から王様に向けられていた視線を遮って、告げた。



「王族へ禁忌魔法を使うなんて命知らずですね。現行犯で、逮捕です」



────魔法士長のレヴィさんは微笑みながらそう言ったのだった。

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