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2. 討伐への道中

 異世界召喚されてから一週間が経過して、私は今、とても乗り心地の悪い馬車で身体の痛みに耐えている。



 ガタンッ


「…………っ」


 クッションもない堅い木の椅子に座って長時間移動すれば、お尻と腰はすぐに悲鳴をあげる。たまに車輪が道端の石ころを踏むとガタンゴトンと振動するので、その度に声にならない叫びが出てしまう。



「大丈夫ですか?」

「ああはい。なんとか……」


 苦痛に悶える私に優しい声をかけてくれたのは、今回私が同行させられている討伐部隊の隊長さん。

 名前はリアム・シュナイツさん。

 あの失礼極まりない王様と違って、初めましてのときにしっかり自己紹介をしてくれた礼儀正しい人だ。

 年齢は恐らく私より少し年上で、討伐隊員らしく体つきも良い黒髪の青年。


 ……しかもイケメン。


 王様だけでなく隊長さんまでイケメンとは、異世界のイケメン率の高さはさすがである。



 隊長さんは私と同じ馬車に乗り、私の目の前に座っている。目的地に着くまでは一番近くで私の護衛をしつつ、この国に関しての講師もするために。


「では話を続けます」

「はい」


 誰も知り合いがいないこの世界。後々、もしも一人で生活することになったらなどと考えると、少しでもこの世界の知識を入れておかなければ後が怖い。勉強は別に好きではないが背に腹は変えられないので、私は真剣に隊長さんの話を聞き、内容を頭に入れていた。


「今聞いていただいたのがこのベルトランの建国の歴史です。そして今我々が向かっているのは、ベルトランの中でも国境近くの森で、今は魔の森と呼ばれている場所です」

「魔の森……?」


 名前からして絶対近づいちゃいけなさそうな場所について、淡々と話す隊長さんの話をまとめるとこうだ。



 ……数ヶ月前、その森で謎の瘴気が発生し、その瘴気に触れた動物は凶暴な魔獣へと変貌し人を襲い始めた。

 その後も瘴気は複数の地点で発見されたが消す方法が分からず、魔獣の数は増加の一途を辿っていた。

 その結果、人々はいつしかその一帯を『魔の森』と呼び始めたのだという。


 しかし、どれだけ調査しても瘴気の発生条件も分からない状況なので、国としては魔獣出没の連絡を受けてから、討伐部隊を派遣して魔獣を都度討伐するしか対処方法がない。


 だが実は、ベルトランの歴史書には過去に瘴気が発生していた時期があるという記録が残っており、当時は異世界から召喚した聖女が瘴気を消してくれたらしい。しかもその聖女を当代の王妃に迎えることで、その代の国民は平穏な生活を送ることができていた。


 だから今回も、瘴気に蝕まれ始めたこの国を救ってもらうべく聖女召喚の儀を行い、召喚された聖女である私に瘴気を消す作業を半ば強引にお願いして、尚且つ当代の王であるあの青年の妃にしてやるなどと訳の分からないことを言われていたらしい。



「ここまではよろしいですか?」

「……はい、なんとなく」


 私が聖女だとか、聖女の力で瘴気を消すとかは未知だしそんなことはできる気がしないけれど。

 とりあえずこの国──ベルトランで、大変なことが起きていることは理解できた。


「……瘴気を浴びて魔獣となった動物は、見境なく人を襲います。実は、隊員の大半は、魔獣に家族を奪われた者でもあるのです」

「奪われたって……ま、待ってください! 魔獣は人を、その……」

「はい。人を殺します」


 その言葉は、衝撃的だった。


 異世界だし、瘴気も魔獣も討伐部隊も、ふんふんなるほど、と適当に頷くことはできたけれど。

 今私が向かっている場所にいる魔獣が人を殺すほどヤバいやつだなんて聞いてない。そんなところに無理矢理行かされるなんて、あんまりだ。


「無理です! 私、そんな危険なところには行きたくない……っ!」

「聖女様」

「すぐに引き返してください! それかここで下ろしてください! どうせ私に聖女の力なんてないんだから、」

「いいえ聖女様。異世界から来たあなたは、間違いなく聖女です」


 私は取り乱して馬車の中で声を上げてしまったのだが、隊長さんはそれでも冷静沈着だ。隊長さんの、深海のように濃いブルーの凛々しい瞳が、真っ直ぐに私を見つめながら言った。


「何も教えずに危険な場所に連れて行ってしまっていることは、陛下に代わって私が謝罪します。申し訳ございません。……ですがどうか、我々を助けてください。聖女様は我々の希望なのです」


 深々と頭を下げる隊長さんから出てきたのは、私に助けを求める切実な願いだった。


「それに、危険だからこそ隊長である私があなたの護衛についているのです。私が常にそばにいて、あなたのことは命に変えても守りますから、ご安心ください」


 命に変えても守るだなんて、日本でただ暮らしていたら聞かないセリフだ。命を張らなければいけないほどの危険な場所に飛び込みたくはないけれど、見るからに強そうな隊長さんが直々に守ってくれるのならば、多少は安心できなくもない。


「わ……分かりました」

「ありがとうございます。では話を戻しますが、まだ魔の森までは数日かかります。到着するまでに、聖女様には魔法も学んでいただきます。今はまだご自身が聖女だという実感が持てていないようですが、魔法を使ってみたら自覚いただけるかもしれません」


 ……魔法なんてファンタジーの中の話でしょ? 私に使えるわけがないじゃない。……あ。実際に魔法が使えなかったら、私は聖女じゃなかったってことになったりするかな?


 隊長さんには悪いけど、私には魔法なんてどうせ使えないだろうし、魔法が使えないところをとっとと見せて、聖女じゃない女は用無しだと思って貰えばいいのか。と、私は内心そんなことを思った。


 用無しのレッテルを貼られるのは癪ではあるが、聖女の任から逃れるためにはそれしかない。


 そうして私は、自分が魔法を使えない可能性に希望を託したのだった。

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