27. 褒美の席……とは?
「それではここに、聖女お披露目会の開始を宣言いたします」
金管楽器のファンファーレと共に唐突に始まりを告げた聖女お披露目会。
わあ、と大勢集まった招待客が歓声を上げて、誰からともなく拍手が起こった。そんな拍手喝采の中、王様やお妃様と思われる人たちが会場の真ん中を歩いて行き前方の壇上に上がっていく。
壇上には、五席椅子が用意されていた。
真ん中が王様の席で、その左右に二席ずつ用意された椅子には美しいお妃様たちがそれぞれ座っていくが、向かって一番右は空席のまま。
……元婚約者の彼女は座らないのかしら?
先ほど聞き及んだ、彼女が第四妃に内定したという話が本当ならば、きっとあの席は彼女のために用意されたものだ。
しかし、彼女は壇上には上がる気配がなく、王様やお妃様もその空席には触れないようだ。
ひと席だけ空席のままお披露目会は進行されていき、途中で王様がその場に立ち上がると簡単な挨拶を述べ始めた。それからすぐ本題に入るようで、彼の自慢げな声が会場内に響き渡る。
「では、本日お集まりの皆様に、今回我が国が召喚に成功した聖女様をご紹介いたします!」
聖女を紹介すると言われて、私は、周りからの鋭い視線で集団から押し出されるように前進した。仕方なくそのまま王様の前まで進み、この一週間で叩き込まれたお辞儀の仕方を思い出しながら、粗相のないように頭を下げる。
「この世界に来てくれたことに心から感謝しているぞ、偉大なる聖女よ」
……来てくれたもなにも、私に拒否権などありませんでしたけど。勝手に召喚して、しかも元の世界には戻せないというはた迷惑なことをしでかしたのはそちらでは?
と、恨み言を言いたくなる気持ちは一旦心の奥底にしまい、私はただ「とんでもない」とだけ返事をした。いわゆる営業スマイルを添えて。
私が笑顔を見せたからか、王様は満足げだ。
「うむ。聖女は早速討伐に出向き、魔獣討伐のみならず瘴気まで消してくれた。ここにいる皆を代表して礼を言おう。そして、褒美をやる」
……褒美?
満足げの次はニヤリと口角を上げた笑いに切り替わり、嫌な予感がした。
「あそこの席が見えるか?」
そう言いながら王様が指したのは、一番右の空席。先ほどから空席なことがずっと気になっていたあの席だ。
目の前にあるのだから見えないわけがない。
「……ええまあ」
「あれはそなたの席だ。喜ぶが良い!」
「そ」
……なたの席?
私は何か聞き間違いをしただろうか。
これまでこの世界の人の言葉は確かに聞き取れて会話も問題なくできていたと思うが、いきなり言葉がわからなくなったとか?
いやいやまさかそんなこと。
あの空席は並び的に明らかにお妃様が座るところで、その席が私の席だなんてそんなそんな。
認めたくない気持ちでいっぱいな中で、一応、念のため、再度確認する。
「……すみません、聞き間違いでしょうか。今、なんて言いましたか?」
「そなたの席だと言ったのだ。余はそなたに第四妃の座を用意した」
どうしよう。
この王様は本当に話が通じない。
先日王様からの求婚はきっぱりと断ったはずだ。
それにその時は「第五妃にしてやる」と言われた。つまりあの時点では第四妃までは既に存在していたということ──しかもついさっき、元婚約者の彼女が第四妃に内定したというヒソヒソ話も聞こえたが、なぜ今彼は第四妃の座を私にと話してきているのか?
王様の言葉を聞いた招待客も次第に理解し始めると、徐々に会場全体がざわめき立ってきた。
今日は聖女のお披露目会。
そこでまさか、王様と聖女の婚約まで発表されるとは思っていなかっただろう。
……当事者の私ですら寝耳に水なことなのだから、当然だろうけれど。
「……一応確認ですが、第四妃で間違いないですか? 第五妃ではなく?」
一つ一つ情報を整理しようと思い、私は冷静に王様に尋ねた。
「うんうんそうだろう。きっと今そなたは余の優しさに感激して嬉しさでいっぱいだろうな」
うんうん、と言いながら大きくこくこく頷く王様。
私は一ミリも感激はしていないのだけど、ここでツッコむことはせず王様の答えを待った。
「本当はあそこにいるエリーに第四妃の座をあげる予定だったのだが、そなたが第五妃は嫌だと言うのでな。相談したところエリーは快く四番目は譲り自分は五番目で良いと言ってくれたのだ」
「……」
……そんな話でしたっけ?
私は何番目ではなく唯一になりたいと言ったのに、それがどうして四番目じゃないと嫌だと我儘を言った風に捉えられている?
しかも今の言い方ではまた……。
「まあ。聖女様がそんな我儘を仰るなんて」
「第四妃に内定されていたウッド嬢を押しのけてまで四番目になろうとしたのか……」
「本当に聖女なのか?」
ほらやっぱり。
背後からは私を非難するヒソヒソ話が聞こえてきてしまう。
覚えのない事で非難されるのはあんまりではないか。
でも……ここでどう言い返すべきなのか分からない。
「すみません。少し気分が悪いので、夜風に当たってきてもよろしいですか?」
この前求婚を断ったときのように思いっきり言い返して断ることもできなくはないけど、それをここでしてしまうのはきっと悪手だ。
この国の王様に、多くの人の前で恥をかかせることになってしまうから。それにもしかすると、どんなに言い返してもここにいる人達は全員王様の味方で、ただ私の立場が悪くなるだけの可能性もある。
だから、すぐには良い手が思いつきそうになかったので、とりあえずこの場から逃げて時間を稼ごうと思ったのだ。
「なに。それなら医者を呼んで、」
「結構です。人が多く、緊張してしまっただけですので」
「そうか? ならば良い。落ち着いたらまた戻ってまいれ」
「……はい」
なんでも大事にしたがる王様に危うく医者を呼ばれそうになったが、もっともらしい理由をつけてそれは遠慮した。私はくるっと踵を返し、隊長さんにエスコートされながら外の空気を吸えるバルコニーへと向かったのだった。




