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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第二章 王都

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26. 噂の第四妃

 隊長さんだけでなく、隊員さん達のとこも悪く言うこの可愛らしいお嬢様に、私は反撃を始める。


「……神様とかはどうでも良いですけど、とりあえずあなたが残念な性格で良かったです」

「……はい?」

「あなたが残念な性格をしているおかげで、隊長さんはあなたのような方と結婚せずに済んだんですから。むしろ感謝ですね」


 立て続けに「残念な性格」と言ってみた。

 言われた彼女は、笑顔のまま、しかしその小さな顔のこめかみにはピシピシと筋が入っているように見える。


「こんなにカッコよくて優しくて最高に素敵な隊長さんには、たとえ可愛くても性格が残念なお嬢様では相応しくありませんからね」


 ふふ、と笑みを浮かべながら、私は彼女に圧をかけていく。

 すると、再びお涙頂戴の演技が始まった。


「ひ、ひどい……! 聖女様ともあろう方に、こんなに大勢いる前でそのようなことを言われるなんて……!」


 彼女が周りに聞こえるくらいの声量で言うので、それが聞こえた観衆はコソコソと意見を言い始める。



「ウッド嬢ほど愛らしく優しい人はいないのに、彼女を泣かせるなんて……」

「あれが本当に聖女様なの? あれではウッド嬢の方が聖女に見えるわ」

「まさかウッド嬢が可愛いから嫉妬を?」

「あり得るな」

「ウッド嬢の元婚約者をエスコートに任命するくらいですから、可愛らしいウッド嬢に対抗心があるのかもしれませんね」



 ……へえ。そう思われるのね。


 彼女は思いの外人望があるらしい。

 まるで社交界の華。あるいは妖精。あるいは天使?

 さしづめそんな風に見られているのだろう。


 そんな彼女が嘘をつくはずがないと。

 そんな彼女だからこそ、隊長さんが襲ってしまったとしても頷けると?


 ……だからって、ここまで皆彼女の味方をするなんて変だけど。


 少しくらい、隊長さんの味方になってくれる人がいても良いのに。私は周りから聞こえてくる発言に耳を傾けつつ、意見の偏り具合に疑問を持った。


 当然、討伐部隊の人達は隊長さんの味方だが、貴族ではない彼らはこういった社交界のパーティには通常出席しないとナディアさんが言っていた。

 だから、隊長さんがこのお嬢様の婚約者としてパーティに出席していた当時は、突然彼女に嘘の噂を流された隊長さんは、皆が敵に回ってしまい一人孤立させられたのではないか。

 そう考えると、隊長さんが可哀想すぎる。



「エリー・ウッドさん。あなたは今までその演技力で周りを騙していたようですが、私は騙されませんよ。あなたは被害者の皮を被った加害者ですよね?」

「そんなまさか! 私は被害者ですわ! 何を根拠に、」

「だってさっき、あなたから声を掛けてきたじゃないですか。……私だったら、自分を襲ってきた相手に話しかけるなんてできません」

「!」


 淡々とそう告げると、彼女は大きな瞳を見開いている。


「不思議ですよね。私なら、自分を襲った相手には近づきたくもありません。私のエスコートをする彼がカッコよくて、つい声をかけてしまいましたか? ……今更、逃がした魚は大きかったと気付きましたか?」

「……っ」


 図星をつけたようで、彼女はすぐには反論してこなかった。私は、彼女が答えられないことをいいことに、その隙に質問を重ねていく。


「つくならもっとマシな嘘をつくべきでしたね。隊長さんを知る人なら、あなたを襲ったなんてあり得ないとすぐ分かりますから」

「……いいえ。いいえ、わたくしは、」


「何をしている!!」



 負けを認めようとしない彼女の前に、声を張り上げながら男が登場した。


 その男とは……


「陛下……!」

「大丈夫かいエリー。こんなに震えて、また怖い思いでもしたのではあるまいな?」

「平気ですわ。陛下が来てくれましたもの」


 そう、あの上から目線のナルシストな王様だった。

 ……いきなり会話に入ってきたことはともかくとして、王様と彼女の距離感おかしくない?


 か弱い彼女の肩を抱き、優しい言葉をかけてあげるその様は、まるで恋人の距離感に見える。しかしその答えは、すぐに観衆の中から聞こえてきた。


「ウッド嬢が第四妃に内定されたという噂は本当のようですね」

「ええ。あの様子を見るに、すでにかなり寵愛を受けてそうですわ」

「美男美女でお似合いだな」



 ヒソヒソと話していても、私の耳にはばっちり聞こえた。


 “第四妃”…………?


 先日私は、あの王様から第五妃の座を打診された。

 討伐に行く前は第四妃だったから、この短期間に一人増えたことに驚いたことは記憶に新しい。


 しかしまさか、増えた妃というのが隊長さんの元婚約者だなんて、さすがにその考えは浮かばなかった。


 でも良かった。

 元々引き受けるつもりは微塵もなかったとは言え、この性格が残念なお嬢様の次点につくという屈辱的な状況は、知らず知らずのうちに避けられていたのだから。


 王様の求婚を断った過去の私、グッジョブである。



「シュナイツ隊長、なぜエリーに近づいているのだ。エリーが怖がっているではないか。即刻この会場から出て行ってくれ」


 相変わらず、自分本位な意見をかましてくる王様。


 ……そろそろ本当に殴りたいわね。どうしてこの王様は一つの面しか見れないのかしら。


「すみませんが、隊長さんは私のエスコート役としてこの会場にいます。もし隊長さんを追い出すなら、私も一緒に出て行きますがよろしいですか?」


 良いわけがないだろう。

 このパーティは『聖女様お披露目会』。数多くの招待客もいるのだから、主役が出て行ってしまっては困るはずだ。

 私は分かってて、王様に是非を問いたのだった。

 満面の笑みで。


「……なにっ」


 すると彼は、苦渋の決断を強いられたような顔をしながら答えた。


「……分かった。聖女が望むなら、隊長もここにいて構わん。だが、これ以上エリーには近づくな。これは命令だぞ」

「かしこまりました」


 そう言って王様は、隊長さんが会場に残ることを許したものの、彼女には近づくなと命令して去って行った。



「…………もっと何か、隊長さんから言わなくて良かったんですか?」


 言い返したのが私だけだったことが気になって、隊長さんに聞いてみた。隊長さんには立場的なものがあるから、この場で何か言うのは難しかったのかもしれないが、あれでは隊長さんは言われっぱなしだったから。


「……彼女が幸せそうで良かったです」


 なのに、隊長さんから出てきたのはそんな予想外の言葉で、私は目を丸くした。

 嘘の悪評を吹聴した元婚約者が王様と結婚すると聞いて、『幸せそうで良かった』なんてセリフは普通出てこないだろう。


「隊長さんってほんと、人が好すぎですね」

「そうですか?」


 私がくすくすっと笑いながら隊長さんに向かって言うと、隊長さんにはその自覚がなかった。


「そうですよ。……あーあ。こんなに素敵な男性は他にいないんじゃないですかね。あのお嬢様は本当に勿体無いことを」

「まさか」


 やれやれ、といった仕草で冗談っぽく伝えると、隊長さんもフッと優しく微笑んでくれた。


 ……本当なのになあ。


 多分隊長さんは、私が冗談で褒めたと思って笑ってくれた。

 でも本当に、元婚約者にひどいことをされてもそれを咎めず、彼女が幸せで良かったと言える優しい人は多くはなくて。隊長さんのようにカッコよくて、強くて、自分を犠牲にしても誰かを守ろうとする人はきっと他にいない。


 でも私はそれを、面と向かっては恥ずかしくて、真面目なトーンでは言えなかったのだった。

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