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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第二章 王都

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23. 討伐の事後処理 ※リアム視点

隊長さん(リアム)視点です。

「どうかしましたか隊長。そんなに深いため息を吐いて」


 聖女様の部屋から討伐部隊の隊舎に戻り、執務室で仕事に戻っていた俺は、無意識にため息を漏らしていたらしい。

 押印をもらいに来ていた第三班班長のナディアから指摘されて、自身がため息を吐いていたことに気づいたくらいだ。

 それだけ俺は今、仕事に集中できていないということになる。


「なんでもない。気にしないでくれ」


 ナディアにそう言いつつ、目の前の書類に意識を戻す。

 だが、残念なことにそう簡単には流させてもらえなかった。


「おいおい気になるじゃねえか。悩みがあるなら俺らが聞くぜ」

「あなたは悩み相談を聞くような性格じゃないでしょう。無駄口叩く暇があったら一つでも報告書を仕上げてください」


 第一班班長のフランキーに、第二班班長のランドールまで。今この部屋には三人の班長が揃い踏みなのだ。

 しかもフランキーはどうしても事務仕事が嫌いな性格なので、目の前にある報告書は真っ白なまま。そこに俺のため息が出て話題をそらせるのではと思い、すかさず食いついてきてしまった。


「悩みというほどではない」

「ほんとかぁ? 隊長は痩せ我慢が趣味みてぇな男だからなあ」

「そんな趣味はないが」


 痩せ我慢……そんなにしていただろうか。

 少なくとも自分では、自覚はない。


 しかし、歯に衣着せぬ物言いのフランキーだからこそ言えた本音だろう。だからきっと、本当に痩せ我慢をしていると思わせてしまっていたのだろうし、それは隊長として不甲斐ない。


「まあ何でもいいけど、そういうのって誰かに聞いてもらうと解決するらしいぞ?」

「おや珍しい。あなたがまともなことを言うなんて」

「ぁあ? 喧嘩売ってんのかランドール」


「二人とも。ここで喧嘩は無しだ」


 今にも喧嘩に発展しそうな空気を察知したので、俺は即刻止めに入る。


「男の人ってどうしてこう喧嘩っ早いのかしらね」


 そんなやりとりを見ていたナディアは、やれやれ、といった様子で呆れている。


「すまないナディア。それで、あと私の確認が必要なのはどの書類だ?」

「その山です」

「これ全部か?」

「はい」


 ナディアが指したのは、ゆうに何百枚という紙が積み上がった山。それを見て、俺は絶望したくなった。

 隊長という立場柄仕方なくやっているが、実は俺もフランキーと一緒で事務仕事はあまり好きではないのだ。


 ……これは、徹夜か?


「やはり聖女様の力について知りたいという方が多いみたいですね。各所から今回の討伐の詳細情報を載せた報告書がほしいと来ています」

「それでこの量なのか」

「はい」


 討伐から帰れば毎度報告書を書くが、さすがにこんなに膨大な量を求められたことはなかった。

 さっきは別の考え事をしてため息を漏らしてしまったが、目の前の書類の山を見て再びため息を吐きたくなる。しかしそこは部下の手前、ぐっと堪えて受け入れた。


「分かった。……そうだランドール」

「はい」

「今度の聖女様のお披露目会だが、俺は聖女様と入場することになった。だから、お前たちは別行動で頼む」

「は…………え? 今何と?」


 ランドールはギギギと動きが悪くなった機械のように首を回し、目を丸くして聞き返してきた。


 聖女様のエスコートをするとなれば、当日部下たちとは別行動を取ることになる。それを事前に伝えておこうと思っただけなのだが。

 おそらく聞こえなかったわけではなく、ただ俺が言ったことが聞き捨てならなかったのだろう。

 俺もさっき聖女様から頼まれたときはとてつもなく気が動転したから、気持ちは分かる。


「聖女様から、お披露目会のエスコート役を頼まれたんだ。だから当日は、」


「エスコート役!?」

「マジかオイ!!」

「本当ですか隊長!?」


 もう一度改めて伝えようと思ったが、言い終える前に三人から総ツッコミを食らい、気圧される。


「ん、あ、ああ……。だが別に深い意味はないぞ? 聖女様はこの世界でまだ知り合いが少ないから、それで頼まれただけだ」

「エスコートは陛下がされると思っていました。慣例に則り、聖女様は陛下と結婚するのだと皆が噂もしていますし」


 ランドールが言うことももっともだ。

 俺も最初はそう思っていたから、そう言いたい気持ちも分かる。


「どうやら聖女様本人は陛下と結婚する意思がないらしい。結婚に対する価値観の相違なんだと思うが、何人も妻がいて、何番目というのは嫌だと言っていた」


「ほう。そりゃまた、隊長が好かれるわけだな。未だ独身がここに来て役立つことがあるとは、よかったな隊長!」

「フランキーさん! 隊長に失礼ですよ! ……でも、本当に良かったです。聖女様のエスコートができたら、社交界での隊長の立場も回復するかもしれませんし」


 ナディアはそう言ってくれたが、本当に立場を回復できるかは五分五分といったところだろう。

 俺の悪い噂を流した張本人もお披露目会に来るはずで、たとえ聖女様のエスコートをしたとしても、彼女がまた何かしようものなら俺の立場はそのままか……さらに下がることになる。

 聖女様という存在が抑止力となるか、はたまた相手を暴走させることになるかは賭けである。


 しかし、ここで馬鹿正直にそれを伝える必要はない。ナディアがそこに希望を持っているのなら、とりあえず相槌だけ打っておこう。


「……ああ、そうだな」

「あ、もしかしてそれが先ほどのため息の理由ですか?」

「え?」


 ……いや、さっきのは。


 ただ聖女様の笑顔が可愛かったなと思い出して。

 それから聖女様が陛下から求婚されたことを聞いて何とも言えない感情を抱いて。

 そして俺は、この国の人間として、聖女様が陛下と結婚されることを望むべきなのに、そうは言えなくて。


 この感情が何なのか、どう処理すればいいのかが分からなくて、ついて出たため息だった。


 ……エスコート役を受けてしまったことも本当に良かったのかと悩ましかったから、ナディアが言うことも間違いではないか?


「隊長はダンスが下手でしたもんね」


 ……それは間違いだ。


「そんなことはない。人並みには踊れる」

「いやいや。元婚約者さんと踊ってた時の隊長を見ましたがあれはなかなか……ですよねランドールさん」

「こっちに話を振らないでください。まあ確かに、人並みと言えばそうなんでしょうが、動きも顔も固いなという印象はありましたね」

「な……!?」


 部下たちにそんな風に思われていたなんて心外である。しかしそれが事実なら、何かしら対処が必要だ。


「まああと数日ありますし! 練習すれば大丈夫ですよ!」

「……っ、分かった」


 ある意味、ここで発覚したことを良かったと思おう。お披露目会までの残りの日にちで、練習する時間を作れるのだから。


 ダンスが下手という自覚はなかったが、それが周りの総意なら甘んじて受け入れるしかない。

 エスコート役として聖女様に恥ずかしくないよう、練習に励もうと俺は気合を入れた。

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