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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第二章 王都

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22. エスコート役

 隊長さんに差し出したのは、ふわりと香り立つ紅茶だ。良いお茶の葉を使ったので多分まずくはないと思うけれど、果たして隊長さんの口に合うだろうか。


「おいしいです」


 緊張しながら隊長さんの言葉を待っていたところ、彼が顔を綻ばせながらそう言ってくれて、内心とても嬉しかった。


「良かったです」


 お互いに笑顔を送り合うこの時間は、さらに嬉しく感じる。


「昨日はよく休めましたか?」

「はい。荷下ろしと、それから陛下への報告もあったのですぐにとはいきませんでしたが、それでも夜はしっかり休めましたよ」

「それはお疲れ様でした」


 うっかりすると忘れそうになるが、隊長さんは討伐部隊の隊長さんなのだ。上への報告も彼が実施する。しかも今回は、私というイレギュラーな存在もいたわけで、いつもの討伐後の報告よりも大変だったと思う。……そうでなくても、あの、上から物を言う王様を相手するのは疲れるだろうし。


 当たり前だけど、ただ美味しい料理を食べて温かいお風呂に入って贅沢を味わっていた私とは違う。自分だけ贅沢していたかと思うと何だか申し訳ない気持ちになる。


「隊員さんたちも休めたでしょうか?」

「問題ありませんよ。今日から皆、早速訓練も再開していますし」

「え! もう訓練してるんですか? お休みは?」

「あまり間をあけると体が鈍ってしまいますので、いつも討伐から帰って次の日には訓練を再開しているんです」

「すごいですね。私なんて、今日のダンスレッスンだけでヘトヘトなのに。皆さんの体力を分けて欲しいです」

「ああ。ダンスレッスンのためでしたか。そのドレス、聖女様によく似合っています。すごく綺麗です」


 隊長さんの口から流れるように出てきた褒め言葉は、ここで聞かされるとは思っていなかった言葉だ。褒められることに、私は弱い。


「え……と」


 かかか、と顔が真っ赤に染まっていく。褒められ慣れてないから上手く返す言葉も見つからない。


「あ、ありがとう……ございます」


 目線は逸らしたまま、一気に早くなった鼓動を落ち着かせようとお茶を飲みつつ、ただお礼を言った。


 そんな私の反応がおかしかったのか、隊長さんはくすりと笑いながら「いえ」と短く答えていた。


 そこで会話が途切れてしまったので、私は話題を変えた。……だが、内心の動揺が収まりきっていなかったせいか、話題選びに失敗したなと、この後私は激しく後悔することになる。



「そうだ隊長さん。隊長さんは今度のお披露目会に来られますか?」

「はい、そのつもりです。一応そこで、今回討伐に成功した褒美もいただけるようで、班長たちとその他隊員も複数名参加させていただく予定です」

「じゃあそこでまた皆さんに会えるんですね! 嬉しいです。あ、そうだ。お披露目会に来られるならお願いがあるんですが……」

「何でしょうか?」

「当日、私のエスコート役をしていただけませんか?」

「……え?」







 …………?


 そんなに変なことを言っただろうか?


 さらりとエスコート役をお願いしただけなのだが、隊長さんが硬直してしまった。

 隊長さんもお披露目会に参加する予定だと聞いたから、そのついでにお願いできないかと思っただけなのに。


「……一応確認ですが、聖女様は、エスコートは一般的にどういう間柄の方がするものかご存知ですか?」


 さらには、なぜか知識問題を問われ、私は目を瞬かせた。

 はっきり言ってしまえば、『エスコート』という単語自体馴染みがなくて、先ほどハンナさんからこの言葉が出てきて即座には理解ができなかったくらいだ。

 お披露目会に行くのにエスコート役が必要らしいからここで隊長さんにお願いしてみたら良いのでは?、とふと閃いて、そのまま聞いてしまったに過ぎない。


 エスコート役の詳細については何も……。


 だがそう言えば、ハンナさんはこんなことを言っていたかもしれない。


「親兄弟か…………恋人?」

「はい」

「……あ!?」


 自身の発言が衝撃的過ぎて、私は思わず立ち上がった。


 隊長さんは家族じゃない。

 それにもちろん恋人でもない。

 そんな人に私は、一体何を!?

 というかあれ、もしかしてこの世界では一種の告白に捉えられたりするとか!?!?


「え……あ……」

「大丈夫ですよ。聖女様は異世界から来られたのですから、先ほどの発言に他意はないと分かっております」


 隊長さんも私を追うように立ち上がり、その優しさで宥めてくれた。

 私は呼吸を落ち着けてから、隊長さんに事情を説明した。


「すみません……。実は、ダンスレッスンを終えて部屋に戻ってくる途中で、王様と会ったんです。そこで、私を第五妃にしてやると言われて……。ですが、それは速攻でお断りしまして」

「陛下の求婚を断られたのですか?」

「そりゃあ勿論、五番目なんてお断りですから。それでその後ハンナさんに、エスコート役を誰に任せるのか聞かれたんです。この世界には知り合いなんていないので、つい、隊長さんに任せられたら良いかなって思って……」


 説明しながら、軽い気持ちで誘ってはいけないものだったと心底後悔の念が押し寄せる。


 ……ああもう、私のバカ! なんで何も考えずに聞いちゃったのよ!!


「聖女様」

「はい!」


 目をぎゅっと瞑って後悔に苛まれていたところ、名前を呼ばれて勢いよく返事をすると、隊長さんは真剣な眼差しをこちらに向けていた。


「聖女様さえ良ければ、エスコート役を喜んでお引き受けいたします」

「……え」

「大抵は家族か恋人が務めるものではありますが、聖女様にはまだそう言ったお相手がいないので、今回は共に魔獣討伐をした同胞として、隊長の私が大役をいただけたということにすれば問題ないと思います」

「本当ですか? それなら是非、」


 お願いします、と言い終わる前に、「ただその前に」と隊長さんが言葉を被せてきた。


「聖女様に知っておいていただきたいことがあります。それを知っても尚、私がエスコートしても問題ないと言っていただけるのであれば、私がエスコートさせていただきます」


 ……私に、知っておいて欲しいこと?


 最初は何のことか分からなかったけど、少し考えれば、なんとなく察しはついてしまった。

 以前ナディアさんから教えてもらった隊長さんの婚約解消の話。多分きっと、それについてだと思う。


「……分かりました。教えてください」


 それを聞いたとしても、私の気持ちは変わらない。どう考えても悪いのは女性側。隊長さんは何も悪くないのだから。

 それでも一応、隊長さんの口から話を聞く。


「実は、私は社交界では貴族たちからあまりよく思われておりません。その理由というのが……」


 隊長さんは一つ一つ丁寧に教えてくれた。

 内容は、以前ナディアさんが話してくれたこととほぼ同じだった。


 隊長さんの元婚約者が、嘘の噂を広めたせいで、社交の場では隊長さんは嫌われ者なのだと言う。


「はっきりと申し上げておきますが、私が彼女を襲ったことはありません。ですが、討伐を優先するあまり彼女を蔑ろにしてしまっていたことは事実です。そのせいで彼女が……私との婚約を解消したくてやったことなので、こうなってしまったことの責任は私にあると思っています」


「……いいえ」

「え?」


 元婚約者に申し訳ないと謝る隊長さんを見て、私は段々と腹立たしくなってきた。


「悪いのはその元婚約者さんで、隊長さんは何も悪くないと思います」

「いえ、元々は私が、」

「討伐を優先するのは当然です。だってそうしないと、魔獣に殺される人が増えますから。それに、隊長さんは隊長だから他の隊員より仕事も責任も大きいはずです。それを理解せずただ蔑ろにされたと言うのは我儘です。そして一番重要なのは、どんな理由があっても相手を貶める嘘をついていい理由にはならないってことです」


 腹の底でモヤモヤしていた気持ちを、私は一気に吐き出した。

 私に強い語調で言われたからか、隊長さんは目を丸くして驚いている。


 ……優しすぎるなあ、隊長さんは。


「エスコートはやっぱり隊長さんにお願いしたいです」


 たとえ周りが隊長さんを誤解して白い目を向けていても、私には関係ない。

 私にとって隊長さんは素敵な人なのだから。


「ありがとうございます、聖女様」



 こうして私は無事、エスコート役を隊長さんにお願いできたのだった。

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