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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第二章 王都

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18. 王妃の座はお断り

 翌朝、太陽の光を浴びながらすっきりと目覚めた私は、訪ねてきたドレスのデザイナーさんと予定通り打ち合わせをした。

 色々なデザイン案が出されて、その中でも派手すぎないものを選んだ。その後は下着姿にさせられて細かいところまで採寸までされた。部屋にはハンナさんやデザイナーさんが連れてきたお弟子さんたちもいたのですごく恥ずかしい思いをした。


 採寸まで終えたデザイナーさんは、一週間で私に似合う最高のドレスを仕上げると宣言して意気揚々と帰って行った。 

 王様の無茶振りに対して萎えたり、嫌々ながらやってくるかと思いきや、むしろやる気をみなぎらせている姿を見せられて、無理言ってドレスを仕立ててもらう側としては少しホッとしたものだ。


「ハンナさん。この後の予定は何ですか?」

「ダンスレッスンです」

「ダンス? ……それはえーっと、お披露目会で私がダンスをするということですか?」

「はい。お披露目会では聖女様も踊ることになるかと思います」

「踊るんですか私!?」


 衝撃的な事実を聞いて、私は目を見開いた。


「決まりではありませんが、聖女様は陛下や他の殿方からたくさんお誘いを受けると思いますので、念のため踊れるようにしておいた方がよろしいかと存じます」


 ……異世界でのダンスって、社交ダンスとかそういう類のあれよね。


 私の認識が正しければ、男女が密着してくるくる回るような踊りのはずだ。

 もちろん私はそんな踊りはしたことがない。

 事前にレッスンの時間を設けてくれるのは嬉しいが、踊らないといけないということ自体は嬉しくない。


「どうにかして踊らないって選択肢は……」

「ありませんね」


 ハンナさんはにっこりと笑顔を見せてくれているが、その笑顔からは「有無は言わせない」という強い意思が感じ取れて寧ろ怖い。


 逃げ道はないと悟った私は、あはははは、と調子を合わせて笑っておいた。



──そうして私は、ダンスレッスンをみっちり受けた。


 しかし勿論今日一回のレッスンだけでは足りず、講師の人はまた明日も来てレッスンするらしい。そもそも普通の会社員だった私がそんなすぐに踊れるようになるわけがないのだから仕方ない。仕方はないのだけれど、いつも使わない筋肉を使ったので明日は筋肉痛間違いなしだろう。


 ……明日もレッスンなんて、気が重い。


 そんな憂鬱な気持ちをさらに憂鬱にしたのは、会いたくない人との再会だった。



「久しぶりだな聖女よ」



 ……ああ。この上から口調も久しぶり。


「どうも」


 レッスンでヘトヘトになり部屋へ戻る途中、目の前に現れたのはこの国の王様だった。今は疲れているし特に話すこともないので、私は適当に挨拶だけしてそのまま彼の横を通り過ぎようとした。


「では失礼します」

「あ、おい待つのだ!」


 すると、なぜか王様は慌てた様子で私を引き止めてきた。


「? 何か用ですか?」

「用もないのにここで待ってたと思うのか!? 余はそんな暇人ではないぞ!」


 偶然出くわしたのかと思いきや、どうやら王様はこんな廊下の真ん中で私を待ち伏せしていたらしい。

 私はそちらの事情など知らないのだから通り過ぎて当然なのに、そんな勝手に咎められても困る。……とは言え、彼は一応この国の王様なので、私はきちんと彼に向き直り話を聞こうとした。


「……失礼しました。では何の用でしょうか」


 すると王様はこんなことを言い出した。


「討伐ご苦労であった。シュナイツ隊長から報告を受けたが、そなたは魔の森で聖女の力を発揮したそうだな。聖女は王の妃となる運命だ。したがって、そなたを余の第五妃にしてやると言いに来た」

「…………は?」


 ……はぁあああ!?


 私は心の中で叫んだ。

 思いっきり叫びたいところをグッと堪えたので、一言だけ「は?」と口から飛び出してしまったのは許して欲しい。


 そう言えば、この国に来てすぐの時も似たようなことを言われたなと頭の片隅で思い出す。私の記憶が正しければ、あの時は「第四妃にしてやる」と言っていた気がするが。

 当時は「第四」だった枠が「第五」になった理由は簡単。


 ……つまりこの短期間で一人奥さんが増えたと。そしてその次点に、私を置くと。


 この王様はそう言っているのだ。

 そうであれば答えは一つ。



「お断りします」


 私は丁重にお断りする。


「何故だ!?」

「前にもお断りしたはずです」

「しかしあの時は、召喚されたばかりで気が動転していただけなのだろう!? 討伐に行ってこの世界を知り、元の世界に帰る術が無いのだと理解したとき改めて求婚すれば、聖女は首を縦に振るはずだと……!」

「……振るはずだ、とどなたが言ったのでしょう?」

「そ、それは……」


 誰がこの王様にそんな阿呆な話を吹き込んだかは知らないが、呆れて物も言えない。

 なんだその自己中心的な考え方は。


 そしてなぜ、この王様もそんな馬鹿馬鹿しい話を信じられたのか。

 王様が余程自分の魅力に自信があるからに違いない。


「はっきり言わせていただきますが、私は五番目にはなりたくありません」

「なに!? それはつまり、正妃の座が欲しいと言うのか!? 聖女といえどそれはさすがに欲しがりすぎではないか?」

「そうではありません」


 正妃とは多分一番目の妃のことだろう。

 私が言いたいのはそういうことではない。


「私は、『一番目』ではなく、その人の『唯一』になりたいんです」


 自分が好きな人を他の誰かと共有するなんて絶対に嫌だ。

 お互いにお互いだけを見る関係が良い。


「それに……言いにくいんですが、あなたは私の好みではありません」

「なっ……!?」

「あくまで私の好みの話ではありますが、好みじゃない相手からいくら結婚を申し込まれても答えは変わりませんよ。好みじゃない相手の五番目になるなんて、死んでもお断りです」


 どうにか諦めてほしくて、私は王様が好みのタイプではないということまで告げて、再度きっぱりと断った。


 ……だって本当に、好みじゃないのよね。残念ながら。


「こ、ここ、この国の女性は皆、余の妻になりたがるのだぞ!?」

「違う世界から来た私に、その価値観を押し付けないでください」

「では、そなたの好みはどうゆう男なのだ! 余よりいい男など、この国にはいないはずだ!」


 気持ち良いほどの自画自賛。

 王様は国の最も上に立つ人だから人気があるのも分からなくはないが、それでもこの発言はどうかと思う。

 周りには真実を教える人がいなかったのだろうか。何をどうしたらこんな王様が生まれるのか……。


 しかし、好みの異性か。

 そう言われてパッと私の頭に浮かんだ人が一人だけいる。


「私の好みは…………隊長さんですね」


 言うかどうか一瞬迷ったが、私は王様に、自分の好みはあなたとは真逆なのだと伝えたくて正直に隊長さんだと答えた。

 だが、それを聞いた王様は烈火の如く反論してきた。


「しゅ、シュナイツ隊長か!? あれのどこが良いんだ! そなたは知らないかもしれないが、女性に酷いことをするような最低男だぞ!? それにあの歳でまだ一人も妻を持てていない半端者だ!」


 ……ああ、めんどくさいなあ。


 さっきまでは体の疲れだけだったのに、この王様と喋っていると精神的にも疲れてきてしまう。

 荒ぶりたい気持ちをなんとか平静を保ちつつ、私は王様に答える。


「隊長さんは素敵な人ですよ。女性に酷いことをしたなんてデタラメですし、相手の『唯一』になりたい私にとっては、未婚であることは良いことです。それに彼は、カッコよくて、気遣いもできて、部下にも慕われて、それでいて本人は謙虚で……挙げ出したらキリがないくらい、良いところがたくさんあるんです」


 女性の話は、恐らく以前ナディアさんから聞いた、隊長さんの元婚約者さんとの話だろう。王様までその噂を信じてこんな評価をされているだなんて、ますます隊長さんが可哀想に思える。


「な、なにを……」

「すみません。今日はもう疲れたので、他に用がないのなら失礼します」


 王様は私の答えに全く納得いかない様子だった。 しかし私は、そんな王様とこれ以上話すことはないと思ったので、彼を置き去りにしてとっとと部屋に戻ったのだった。

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