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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第一章 魔の森

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16. 聖女のヒールは効果絶大

 奇跡が起きることを願って『ヒール』と唱えたところ、光り輝いたこの現状。

 何が起きたのか理解できず、私は呆然としてしまう。


「……聖女様」


 それは、低くて優しい隊長さんの声。

 でも、毒に侵されて呼吸も苦しそうだった先ほどまでの声とは違い、いつもの落ち着いた声だ。



「ありがとうございます。……また、聖女様に助けられたようですね」

「!」


 そう言われてバッと隊長さんの顔を見ると、隊長さんは笑っていた。顔色も良くなったように見える。


「隊長さん……? あの、毒は」

「聖女様の『ヒール』が解毒してくれたようです」

「え!」


 驚きのあまり目を見開いてしまった。


「じゃあさっきの光はやっぱり私が治癒魔法を使えたってことですか?」

「はい。お陰様で、痛みも何も感じなくなりました」


「本当ですか隊長。また痩せ我慢している訳じゃないでしょうね?」

 会話に割って入って来たのはランドールさんだ。


 その言葉には棘があるが、そう言いながら隊長さんの体を隈なくチェックしているのだから、内心すごく心配しているんだな、とその光景は微笑ましく感じられた。


「痩せ我慢なんてしていない。本当に、体内から毒が抜けたみたいだ。なんともないんだ」


 隊長さんはランドールさんを少し離して、彼に腕を動かして見せた。力強く動かす様子を見せて、安心させようと思ったらしい。


 ……良かった。本当に元気になったみたい。


 そのやり取りを見て、私も安心できた。

 そうしてホッとしていると、今度はランドールさんの矛先が私に向いた。


「……にしても、なぜ突然『ヒール』が使えるようになったのですか?」


 ……さあ?


「それは私が聞きたいです」


 私は正直に返事をした。

 だって本当に分からないのだ。


 しかしランドールさんはまだ納得がいかないようで、さらに質問してきた。


「この前の討伐後、一度だけ隊長に『ヒール』を使えたことは知っています。しかしその後は、いくら試しても再現できなかったと言っていたはずです。それがどうしてこのタイミングで使えたのでしょう? 何か、前回と今回の共通点はありますか?」

「共通点……」


 神様が私の願いを叶えてくれた、なんて理由はきっと却下されるだろう。ランドールさんは真面目でなかなか冗談も通じない人だから、そんなことは言わないでおいた方が良い。

 実際のところ、真面目に考えればどこかにしっかりとした理由はあるはずだ。ただ、今は全く分からないけれど。


「特には思い当たらないですね……。せいぜい、どちらも対象が隊長さんだった、ということくらいかと」

「ふむ、なるほど」


「なんだそりゃ。そりゃつまり聖女様が隊長に惚れてるとかか?」


 ガハハと笑いながら言い放ったのはフランキーさんだ。


「聖女様の愛が魔法発動の条件だったりしてな」


 降って湧いた発想にぽかんと口が開く。


 ……私が隊長さんに惚れてる?


 フランキーさんの言葉を反芻しながら、言葉の意味を理解するまで数秒かかった。


「ちょ、そんなまさか! わわ、私は別にそんな……!」


 私は反射的に否定した。

 隊長さんのことをそんなふうに見たことはない。

 ……たしかに彼はかっこよくて、良い人だけれども。


「そうだぞフランキー。聖女様に失礼なことを言うな」


 すると隊長さんも一緒に否定してくれた。それから彼はこちらに向かって歩いてきて、今まで地面にへたったままだった私に手を差し伸べてくれた。


「立てますか、聖女様?」

「あ、はい……」


 差し伸べられた手にスッと自分の手を乗せて立ち上がったものの、先ほどのフランキーさんの言葉が尾を引いて、隊長さんの顔が恥ずかしくて見られない。


 ……なんとなく! なんとなくね! こういうのって、周りから言われると意識しちゃうじゃない!?


 私は頭の中で必死に自分に言い訳をしていた。

 男性に優しくされるとか、周りに揶揄われるとか、恋愛における諸々のことが久しぶりすぎて、反応に困ってしょうがない。


「フランキーの言ったことは気にしないでください。魔法の発動条件は、王都に帰ってから魔法士長にきちんと確認してもらいましょう」

「魔法士長?」

「この国で最も魔法に長けた方です。実力も知識もずば抜けているので、彼に聞けば何か分かるかもしれません」

「そんな方がいるんですね」

「はい。なのでまずはここを片付けて、」


「隊長。残りの魔獣は全部討伐完了しました」


 キョロ、と辺りを見渡して状況把握しようとした隊長さんに、すかさずナディアさんが報告してきた。


「そうか。では怪我人に手を貸して、」

「あ、それが……」


 怪我人に手を貸して帰ろう。

 多分隊長さんはそう言おうとしたのだろうが、何やらナディアさんの反応がおかしい。


「どうした? 手が足りないくらい怪我人が出てるか?」

「ああいえ。……その逆です」

「?」


 ……その逆とは?


 隊長さんと私は、不思議に思いながら隊員さんたちがいるであろう方向を見た。

 すると目に入ってきたのは、皆元気な様子でこちらに歩いてくる隊員さんたちだった。


「怪我人はどこだ?」

「それが……」


 ナディアさんは言いづらそうにしながら、ちらりと私を見てきた。


「どうしたナディア?」

「……怪我人はおりません」

「いない? 少なくとも五人くらいはいたはずだが」

「さっきまではいたんですが……いなくなったと言いますか」

「? どういうことだ?」


 隊長さんとナディアさんの会話を横で聞いていて、隊長さんが分からないように私もよく分からなかった。


 怪我人がいなくなったとはどういう意味だろうか。するとようやく、ナディアさんが教えてくれた。



「……全員、先ほどの聖女様の『ヒール』で治癒されたみたいです」


「……え、私?」



 先ほど隊長さんを救った『ヒール』は、どうやら私が考えていたよりもすごい効果を発揮していたらしい。

 目の前にいた隊長さんだけではなく、少し離れた場所にいた隊員さんたちの怪我までまるごと治癒してしまっていたというのだ。



────ということで、瘴気を消して大規模な『ヒール』も発動させてしまった私は、この日否応なしに、自分が聖女であることを認めることになったのだった。

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