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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第一章 魔の森

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12. 婚約解消の過去

「……じゃあ、隊長には私から聞いたってことは内緒にしてくださいね?」

「勿論です」


 私がぐいっと迫ったため、ナディアさんは止む無しと観念してくれたようだ。


「この世界では親同士が結婚相手を決めるのが一般的で、隊長にもそうしてできた婚約者がいました。その方はとても可憐で、清楚で可愛らしい……まさにお人形のようなご令嬢でした」


 ふんふん、と私はただ頷く。


「隊長はその方を大事にしていました。討伐に忙しかったことは否めませんが、討伐がないときは劇場や夜会など、その方が望むところへ一緒に行ったりしていましたね」

「……お二人は仲が良かったんですね」

「どうでしょう?」

「え……?」


 仕事がないときは彼女の行きたいところへデートに行っていたという話とは違うのだろうか。

 そういう話で合っているなら“仲の良い間柄”と言えると思うのに、ナディアさんは肯定してくれなかった。


「……隊長はきっと仲良くなろうとしていたと思います。親が決めたとは言え将来結婚する相手に、きちんと誠意を示そうとしていたのです。それなのに……」


 ナディアさんの眉間にぐっと皺が寄った。


「何が……あったんですか?」


 この先はきっと核心だ。

 ここまで来たら、核心まで触れたい。


「ある日その方は、隊長の体にある大きな傷を見て、醜い体の夫など嫌だと親に泣きついたそうです」

「…………え? き、傷……? 醜いって……隊長さんが?」


 ここまで丁寧に説明してくれていたのに、なぜか最後だけ理解が追いつかなかった。


 ……大きな傷は……あった、かも?


 先日見てしまった隊長さんの上半身裸姿を思い返してみるが、私は傷なんて気にならなかった。言われてみればたしかに傷痕は少なからずあったし、そのうちの一つを『大きな傷』と言ってるのだろうなという見当がつかなくはないけれど。

 しかしそれによって『醜い体』だなんて思いはしない。だってあの傷は、隊長さんがそれだけ命をかけて魔獣討伐を頑張ってきた証だと思うから。


「隊長はいつも、もし怪我をしても隊員に先に治癒魔法を受けさせて、自分の治癒は後回しにするんです。危険な討伐では先頭に立ち、命をかけて討伐してきたんです。あれはいわば……名誉の勲章です」


 名誉の勲章。

 たしかにその通りだ。


「それを言うに事欠いてあの女は『醜い』と表現し、たったそれだけのことで、婚約解消を願い出たのです。しかも、女の父親がすぐには頷かなかったようで、どうしても婚約解消したい女は、社交の場であることないこと好き勝手に言いふらし始め、最終的には婚約解消に至ったというわけです」

「あること、ないこと?」

「例えば、隊長がその女に婚前交渉を迫って、そのときに体の傷を見せられて恐怖を覚えたとか」

「え!」

「その他にも、それまで女が望んで行っていたはずの劇場なんかも、全て隊長の希望で、女は無理矢理連れて行かされていたとか。隊長といるときは常に笑顔でいるよう強制されていて辛かったとか。他にも色々です」

「うわあ……」


 その女性に会ったことはないが、とりあえず仲良くはなれなさそうな人だと思った。

 いくら可愛い女性だとしても、自分本位が過ぎてはいけない。隊長さんの優しさにつけ込んで婚約者を悪者に仕立てるなんて、その手法にはドン引きである。


「それで結局、女側の親が娘が流した嘘の噂を信じて怒り狂い、後味の悪い婚約解消をされたようです」

「……なるほど」


 隊長さんにも壮絶な婚約事情があったようで、こちらも婚約破棄を経験したことのある身として、きっと辛かっただろうなと同情する。


「隊長は元々女性と話すのも苦手だったのに、それ以降は更に女性不信と言いますか……女性を遠ざけるようになりましたね。その上、その女が流した噂のせいで新たに婚約してくれる方もおらず、結果、隊長は未だ独身なのです」


 ……隊長さんはあんなに良い人なのに。


「変な人に引っかかっちゃったんですね、隊長さんは」

「変どころか、最低な人間ですよ。自分が結婚したくないからと相手を貶める嘘の噂を流すなんて。……ま、それを鵜呑みにする貴族たちもどうかと思いますけど」

「でも、ここにいる隊員さんたちは隊長さんのこと慕ってますよね?」

「そりゃあ、隊長ほど強くて、勇敢で、部下思いの人はいませんからね。毎日のようにパーティだのお茶会だのに行っている貴族たちも一回討伐に来れば良いんですよ。討伐の過酷さと、隊長の人となりを間近で見れば、変なことを言う人なんていなくなるはずですから」


 隊長さんが慕われているというのは、討伐について来れば嫌というほど分かる。

 それに実際ずっと同じ馬車で移動してきたが、彼はつくづく良い人だと思う。

 この世界のことを何も知らない私に、あんなに丁寧に説明してくれて、私が魔法を使えなくても何が原因なのかと一生懸命考えてくれて。


「私……この部隊の方々とご一緒できて良かったです。最初は『魔の森』という恐ろしいところになんて行きたくなかったし、何の説明もなしに同行させたあの王様にも腹を立ててましたけど……。結果的には、隊長さんやナディアさん、皆さんと仲良くなれて良かったと思っています。王都にいたらきっとパーティに呼ばれて、隊長さんの嘘の噂を聞かされたら信じてしまっていたかもしれません」

「それは良かった。私も、聖女様とこうしてお話ができて嬉しいです。……あ、ところで本題なのですが」


 ナディアさんは思い出したように本題に話を切り替えた。


「クロスボウの練習はどうですか? 使いこなせそうでしょうか?」

「あ、はい! 使い方は大丈夫です! あとは私が、的の中心を撃ち抜けるように練習するだけです」


 ナディアさんはそれが聞きたくて話しかけにきたらしい。私は現状を素直に答えた。


「そうですか。実はもう一つ、隊長には秘密にしておいてほしいんですが」

「はい」


 彼女は私の耳元でこっそり囁いた。


「実は、隊長に頼まれたんですよ。自分の代わりに聖女様の練習に付き合ってあげてほしい、って」

「え!?」


 その事実を聞き、私は驚きの声をあげる。


 なぜナディアさんに?

 しかも隊長の代わりとは? 


 意味が分からず首を傾げてしまう。


「さっき、隊長のこと追いやりました? 隊長、なーんか暗い顔してテントに来て、やっぱり聖女様の練習には女性の私が付き合うのが良いだろうって言い出しまして」

「追いや……ってはないです。一人にしてほしいとは言いましたけど」


 隊長さんとの最後のやり取りを思い出して回答する。

 私としては隊長さんがいるとドキドキして集中できないと思ったから「一人にしてほしい」と言ったつもりが、隊長さんはそれを、追いやられたという意味で受け取っていたらしい。


 なんという認識の齟齬。

 隊長さんから教わりたくないわけじゃない。

 ただ彼と一緒だと距離感とかがあれで私が集中できなくて……。


「なるほど。じゃあ隊長は何か勘違いしているみたいですね。まあでもせっかく来たので、このまま私が練習を見てもよろしいですか?」

「それは全然! ナディアさんが忙しくないのであれば助かります!」

「今は討伐に向けた準備期間で忙しくないので、大丈夫ですよ」


 そう言ってナディアさんはその後の練習に親身に付き合ってくれた。そのおかげもあり、矢の命中率はしっかりと向上していったのだった。

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