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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第一章 魔の森

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11. 特訓

 隊長さんに対して使えた治癒魔法は、本当に奇跡だった。

 それと言うのも、もう一度何もないところで『ヒール』と唱えても、手は光らず魔法は使えなかったからだ。念のため試しに怪我を負った隊員さんに向けて唱えてもみたが、全く反応せず。


 ……まるでデジャヴね。


 最初に光の魔法を教わったときと同じ状況なのだ。


 あのときも、一度だけ強く光を放って成功したと思ったのに、その後は一度も発動できなかった。

 きっと何か魔法を発動させる条件みたいなものがあると思うのだが、それが分からないでいる。


 それでも、自分の怪我を治してくれたと隊長さんからは感謝されっぱなしなのだけれど。まだ怪我が治せていない隊員さんたちをみると、きちんと魔法を発動できない自分が情けない。



「……聖女様? 聞いてましたか?」

「あ、はい! えっと、矢はここに装填するんですよね?」


 ……危ない危ない。今は隊長さんからクロスボウの使い方を教わっているんだった。


 いつまでも魔法が使えないことに落ち込んでいる暇はない。今はそれよりも、次の討伐で瘴気を消すという大役をこなせるようにならなければいけないのだ。


 どうやら、先日瘴気の中に見えた光は私にだけ見えていたらしい。

 そして、私が聖女だと仮定して、聖女にしか見えない光ならば、それを討てば瘴気が消えるのではないかという推測が立てられた。

 そのため私は、このクロスボウでその光を撃ち抜く練習をすることになった。


 だがしかし、私はこのクロスボウというものを触ったことがない。それどころか、射撃そのものも生まれてこの方やったことがない。

 三日後の再討伐の日には、このクロスボウで何メートルも離れた小さな光を撃ち抜かないといけないなんて、今からプレッシャーで吐きそうである。



「はい、その通りです。弦をここに固定し、矢を装填し、引き金を引く。すると遠くに矢が放てます。これだけ覚えてください」

「はい」


 使い方はシンプル。

 普通の弓矢と違い、引き金を引くだけで矢を放てるのは、非力な私には助かる。


「後はひたすら、的を射抜く練習をしましょう。あそこに用意した的を狙ってみてください」

「……はい」


 まずは十メートルほど離れた距離から。

 そこに設置された木でできた的に、両手でクロスボウを持ち矢先を向ける。


 的の中心に一点集中。

 ふうっと小さく息を吐いて、引き金に指をかける。

 そして指にグッと力を込めて引き金を引く。


 押し出された矢は弧を描きながら的に向かっていったが矢が到達したのは的の右斜め上。


「惜しかったですね」

「すみません」

「初めてなのですから当然ですよ。練習を積みましょう」

「はい……」


 隊長さんが優しい先生で良かった。


 最初は、このクロスボウを貸してくれたナディアさんが教えてくれる予定だったらしいが、隊長さんの怪我が治ったからと、急遽変更で隊長さんが教えてくれることになった。


 その後も隊長さんに言われるがまま何本か撃ってみるも、なかなか真ん中に撃てずにいる。


「んー。難しいな」


 自分の射撃センスの無さに落胆しつつ、めげずに次の弓を装填すると、隊長さんがスッと私の後ろに立ち、手を伸ばしてきた。


「ここですよ」


 隊長さんの広い肩幅を背中越しに感じる。

 突然後ろから抱き締められているかのような体勢になり、私は思わず肩をすくめる。しかし、当の隊長さんは至って真剣に、私に手取り足取り狙いの定め方を教えてくれようとしているだけだった。


 彼の真剣な声が、耳元で響く。


「的に対して真っ直ぐに構えて……」


 そこで話されると、彼の吐息も感じられてしまう。


 耳にかかる声と息が色っぽい。


 ……感じるなという方が無理なのでは!?



 さすがにくすぐったすぎて、私は隊長さんから離れながら振り返り、抗議する。



「あ、あの! ちょっと……一人で練習、しても良いですか?」


 ……隊長さんがいると集中できないので。


 せっかく丁寧に教えようとしてくれている隊長さんには申し訳ないが、隊長さんがいると色々と気になってしまい練習にならない気がする。


「……分かりました。では私は、隊員たちの様子を見てきます。矢の取り扱いには気を付けてください。くれぐれも怪我はなされませんように」


 まるで母親が子供に言うような心配をされるも、私はコクコクと頷いて返事をした。

 そして隊長さんは、後ろ髪を引かれる様子を見せながら、私を一人にしてくれた。



 私は隊長さんの背中を見送ってから、深呼吸をして呼吸を整えた。


 すーっと全身に酸素を行き渡らせて、足の指でしっかりと地面を踏み、クロスボウを構える。


 ……よし!



 しっかりと狙いを定めて引き金を引いた矢は、トスッと的に刺さった。


 真ん中とまではいかないけれど、さっきまで的の外側に逸れていた矢が、ようやく的の内側に刺さったのだ。


「ふぅ。やった」


 隊長さんがいなくなった途端に、というのは我ながら。隊長さんに気を取られていたからなのかと考えると恥ずかしいけれど、一人で集中すれば的に当てられそうで、ホッとした。

 これならあと何回か練習すれば、次の討伐までには真ん中に撃てるようになるかもしれない。

 そうすればきっと、当日は瘴気の中の光も問題なく撃ち抜けるはずだ。



「うん。この感じをもう一回……」

「聖女様」

「!?」


 もう一度矢を装填しようとしたその時、背後から声をかけられた。突然のことに驚いて振り向くと、そこにはナディアさんがいた。


「あ……ナディアさん」

「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが」

「いえそんな。それよりどうかしましたか? 私に何か用でしょうか?」

「えっと……」


 ナディアさんは何か言いにくそうな様子だ。

 ふと思い出せば、この前隊長さんの服を脱がそうとしていたところを見られたっきりだった。


 ……まさかあの話を!?


「こ、この前はすみませんでした!」


 相手に恥ずかしい話をされる前に、先手必勝。

 こちらから先に謝りを入れる。


「でもあれには事情がありまして、本当に私、隊長さんを襲っていたわけではなくてですね」


「え? ……ああ、大丈夫ですよ。隊長に『ヒール』をしてくれていたんですよね? 分かってますから」

「本当ですか? それなら良かった」


 あの時はまだ隊長さんの怪我の状態を見ようとしていただけで『ヒール』までは考えていなかったが、どちらにせよ私が痴女に思われていないだけでも誤解は解けていたようで安心した。


「本当は、『やっと隊長にも春が!?』と内心嬉しかったので、真相を聞いたときは少し残念ではありましたけど」


 くすっとナディアさんが笑って言う。


「本当に隊長さんって……人気ないんですか? 本人は、自分はつまらなくて、討伐にも忙しくて恋愛する暇もなかったって言ってたんですが」


 隊長さん自身は自分はモテないと言っていたが、私はまだ、彼の自己評価が低いだけの可能性を捨てきれていなかった。しかし班長のナディアさんが言うことならば間違いないはず。そのため、話の流れで聞いてみた。


「隊長とそんな話までしたんですか?」

「この前そんな話題になりまして。なんとなく聞いてみたら教えてくれました」


 それは隊長さんが滅多に話さない内容だったらしく、ナディアさんは目をぱちくりと瞬かせた。

 たしかに、職場の上司の恋愛事情なんて、部下からすれば普通聞かない話題だろう。それも、相手が異性となれば殊更に。


「聖女様はすごいですね。うーん、でもそうですね。大きな声では言えませんが、隊長はたしかに人気はないみたいですよ。あの体格であんまり笑わないので、女性からは恐れられているみたいです。それにまあやっぱり、あの婚約解消騒ぎがまだ尾を引いてるみたいで……」

「婚約解消騒ぎ?」


 それは隊長さんから聞いていない話だ。


「隊長さん、前に婚約していたことがあるんですか? 騒ぎって?」


 私が知っていると思ってついうっかり話してしまったようで、ナディアさんはしまった、という表情をしている。


「教えてください、ナディアさん」

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