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唯一の愛じゃなきゃお断り! 〜異世界召喚された私、聖女となって幸せになります〜  作者: 香月深亜
第一章 魔の森

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9. 班長会議 ※リアム視点

隊長さん(リアム)視点です。

「聖女様は瘴気の中に光を見たそうだ」


「光ですか?」

「そんなものあったか??」


 俺は、三人いる班長を自分のテントに集めて会議をしていた。班長たちに聖女様が瘴気の中に光を見たことを伝え、この後の対応を検討していたのだ。


 第一班の班長は、四十代の年上の部下。熊のような見た目をした大雑把な性格のフランキー。年上の部下という微妙な関係性ではあるものの、彼がざっくばらんと気さくに話しかけてくれるおかげで特別やりにくいということはなく助かっている。


 第二班の班長は、頭脳明晰で丁寧な口調のランドール。本能で魔獣討伐をするフランキーとは真逆で、常に作戦を立てて討伐に挑む性格。うちの部隊のブレーンである。


 第三班の班長は、班長陣の中では紅一点のナディア。この世界の男女比は女性優位でありながら、どうしても危険と隣り合わせの討伐部隊は男性が多い。そんな中で、女性ながら班長まで上り詰めた実力者である。彼女の戦い方は、主に遠隔からの狙撃に魔法を組み合わせるという方法だ。


 三人は皆、三者三様の戦い方をして、その秀でた実力により班長の座に就いている。


「うちの班員たちも誰も見たことないと思います。それに、文献で読んだこともないですね」

「そうか……。俺も初めて聞く話だからな。どの隊員も見たことないだろう」


 班長陣が誰も見たことないという意見を聞き、俺も同意した。


「誰も見たことのない光……。もし聖女様にだけ見える光だとすれば、それは瘴気を消す鍵かもしれないと思っている」


 憶測だが、自分の考えを班長たちに伝えてみる。


「光を討ったら瘴気が消えるってか」

「つまり……瘴気の核ということでしょうか」


「可能性はあると思う」


 班長たちの言葉に対して、俺はこくりと頷く。


「可能性がある以上、その光を討つ作戦を考えたいんだが、問題はその光をどうやって討つかだ」


「そうですね。『瘴気の中』に聖女様を入れるわけにはいきませんから」

「ですよね。でも、聖女様に危険なことはさせられないと考えると、聖女様を瘴気に近づけることすら難しいのでは?」

「ですが、聖女様にしか光が見えないとなると、聖女様ご自身で討ってもらうしかないと思います。そのためにはやはり、多少危険を伴ってでも、聖女様に瘴気に近づいてもらうしか……」


 ランドールとナディアは一緒に頭を悩ませる。

 そこに、いつもはあまり頭を使わないフランキーが一つの案を投下した。


「近づけないなら遠隔攻撃しかないだろ。ナディア、お前んとこのあの武器を聖女様に使わせたらどうだ?」

「うちの武器、ですか?」

「ああそうだ。あの、矢をガーッと飛ばすやつ!」

「ガーッて、もしかしてクロスボウのことでしょうか?」

「そうそうそれそれ!」


 それはフランキーらしくなんともガサツな言い回しだったが、ナディアはそんな言い回しでも答えが導けたらしい。

 フランキーの提案はクロスボウを使わせればいいというものだった。確かにそれは、良い案である。


「弓とか槍もあるだろうけど、あの聖女様にはその『クロスボウ』とかいう武器が一番扱いやすそうだからな。適当に使い方を指導してやって、あとは聖女様が遠隔から矢で光で撃ち抜けば解決、だろ?」


「なるほど。どうだナディア。今日くらいの距離から、クロスボウで瘴気の中の光に届くと思うか?」

「そうですね。瘴気の中というのがどれだけ奥になるのか分かりませんが、恐らくあれくらいの距離なら問題ないと思います。それにフランキーさんの言う通り、クロスボウなら引き金を引くだけで矢を放てるので、聖女様でも扱いやすいかと」


「そうか。ランドールはどう思う?」

「考え得る最善策だと思います」


 ナディアやランドールからも同意を得られた。


「よし、ではこの案で行こう。怪我人が多く出ているから次の討伐は五日後にする。ナディアはそれまでに、聖女様がクロスボウを扱えるように指導してくれるか?」

「承知しました」


「では各々、まずは体を休めてくれ。お疲れ様」


「へーい」

「はい」

「承知しました」


 作戦会議を終え、三人は一礼をしてテントから出て行った。






「……っ」


 するとここに来て、これまで張り詰めていた緊張の糸が切れたようで、突然背中に痛みが走り顔が歪んだ。

 俺は震える手でコップに水を注いで飲み、テントの中に置かれているベッドにゆっくりと腰を下ろす。


 怪我は、聖女様に襲いかかった狼三体の内一体を斬りきれなかった結果だ。魔獣となった狼はその鋭利な爪で、ざっくりと俺の背中を切り裂いた。我ながら不甲斐なさすぎる。


 ふーっと深く呼吸して痛みを逃す。


 治癒魔法は隊員たちに使ってほしくて遠慮した。とりあえず傷口に薬を塗って止血はした。だがやはりそれだけでは、気を抜けばひどい激痛が走る。


 もし俺が怪我をしたと知れば、自分を守ったせいだと聖女様が悲しみそうで、聖女様には言えなかった。


 魔の森を出てすぐ無理矢理馬車の中に押し込めて、馬車から出ないで待っていてほしいとお願いしたが、聖女様は大丈夫だっただろうか。



 ……そんなことを考えていた矢先に、俺の目の前に、いるはずのない彼女が現れた。



「隊長さん!!」

「!」


 テントの入り口がバッと開かれて、勢いよく聖女様が入ってきたのだ。


「聖女様? なぜここに……」

「隊長さんが怪我をしたって聞きました!」


 突然のことに幻覚でも見えているのかときょとんとしていると、現実に現れている聖女様はズカズカと前進してきて、俺の顔をその小さな両手で挟んで心配そうに見つめてきた。


「どこを怪我したんですか? 痛みとかは?」


 まずは顔のあたりを隈なく確認して、それから俺の体を右から左、上から下へとじろじろと見て、怪我の状態を確認しようとしている。


 ……怪我をしたのが背中でよかったな。


 ベッドに座っているので、聖女様の位置からは見えないはずだ。


「……何のことですか? 私は怪我なんて負っていませんよ」

「嘘! さっき隊員さんが話しているのを聞いたんですから」


 怪我なんてしていないと突き通そうかと思ったが、通じなかった。

 箝口令を敷いたはずなのに、誰かが口を滑らせたらしい。


「怪我を負っていたのに私を抱きかかえていたと言ってました! なんでそんな無茶をしたんですか!?」


 さっきまで心配そうな顔をして、次は怒っている顔になって、今は泣きそうな顔をしている。

 本当はいけないことなのに、コロコロと変わる表情が可愛く思えて少しだけ頬が緩む。


「聖女様? 私は本当に、」

「大丈夫じゃないですよね? 今の隊長さん、顔色がすごく悪いです」

「……ただ少し、疲れただけですよ」


 顔色が悪いのはきっと、貧血気味だからだ。

 止血はしたが、それまでに流れた血は少なくない。

 それでも俺は、無理矢理笑って答えた。


 ……笑顔は苦手なんだが、うまく作れているだろうか。


 心の中でそんな心配をしたが、やはりうまくは作れていなかったらしい。

 俺の顔を見て、聖女様の顔は余計泣きそうになってしまった。


 ……しまった。隊員たちから、俺の笑顔は怖いと言われるのを失念していた。まさか怖がらせてしまったのだろうか?


 聖女様は、その大きな瞳から溢れそうな涙を必死に堪え、唇もぎゅっと引き結んでいる。


「あの、聖女様……?」

「……でください」

「はい?」

「脱いでください!」



────リアム・シュナイツ、三十歳、独身。


 俺はこの時生まれて初めて、女性に服を剥がされそうになるという経験をしたのだった。

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