竜の神様、大盤振る舞い。
竜になったオミさんと空高く飛んで、周囲の風景を楽しんだ。
こうして空を飛んでみると、いかに広い神域だったかが本当によく分かる。風の中を、まるで水の中をゆったりと泳ぐような気持ちよさに私はもうずっと笑顔だ。
こんな最高な誕生日、もうきっとずっとないだろうな。
最初で最後のプレゼント。
嬉しくてたまらないのに、そう考えるとちょっと胸がずきっと痛む。
ずっと一緒にいられたらなぁ。
オミさんのほかほかする竜の手の平を見て、それからまた風景を見る。
ずっと覚えておこう。
何かあっても、思い出せるようにしっかり覚えておこう。キラキラ光る湖の水面も、綺麗な林の緑色も、そうしたらきっと辛くない‥かも。
「青葉」
オミさんの声に、顔を上げる。
竜のオミさんの顔は、なんか口を開けたら炎を出しそうだ。
「‥オミさん、必殺技とか出せそう」
思わずそういうと、オミさんが小さく笑った。
「‥げえむと違うぞ」
「ですよねー、口から炎出せそうだなって思ったんですけど」
「それはできるぞ」
「「え、すごい!!!!」」
そういうと、オミさんはすうっと息を吸ったかと思うと、口からものすごい勢いで炎が出てきた!!!わ、わわ、こっちまで燃えそうだ!!!慌てたけど、目の前に薄い膜みたいなのが出ている。もしかして、守りつつ炎を出して見せてくれた??!
目を丸くして、炎を出し終えたオミさんを見上げた。
「どうだ?」
「完全に必殺技じゃないですか!!!すごい!!ええ、格好いい!!!」
あ、スマホ!!
スマホで撮っておこう!!
ゴソゴソとポケットからスマホを取り出そうとすると、オミさんは面白そうに笑って、急に体を傾けて地面スレスレを飛ぶから、慌ててオミさんの竜の指に掴まった。
「遊園地のジェットコースターよりもすごいのやるぞ」
「「嘘、嘘、ちょっと待って!!あれ、シートベルトがあるから!!オミさんの指を掴んでるだけじゃ、お、落ちちゃうから〜〜〜!!!!」」
私の叫びは虚しく、オミさんの笑い声と私の叫び声が重なった‥。
ちゃんと指で体を抑えててくれたけど、宙返りされた時は完全に死んだ‥そう思った。ある意味、最高に忘れられない飛行になった‥。
空の旅を終え、オミさんはゆっくり私を地面に下ろしてくれた。
くれたけど!!足がガクガクするんですけど〜〜〜!!!!
一瞬で、いつものオミさんの姿に変わると、オミさんはニヤニヤしながら私を見てる。
「‥りんごは子鹿になったのか?」
「〜〜〜もうオミさんの意地悪!!根性悪!!!宙返りなんて、いきなりしないで下さいよ!!私は初心者なんですよ!!」
「そうかそうか」
「うう〜〜、も、ちょっと待ってください!う、動けない」
私はヨロヨロしながら足を動かそうとすると、オミさんはひょいっと私を抱きかかえる。
ぎゃああああ!!!!
い、いきなり何をするんだ!!
縦抱きされて、慌ててオミさんを見下ろすとニヤッと笑って、
「赤りんご」
「お昼、野菜しか出さない!!!」
「嘘、青葉様お肉くれ」
「全然敬われてない‥」
「青葉様、青葉大明神様」
「もう一声!」
「‥‥か、可愛い青葉‥?」
なんでそこ疑問形なんだよ。
でも、オミさんからそんな言葉がまさか出てくると思わず、一瞬で真っ赤になったのが分かった。くそ、本当に赤りんごじゃないか‥。
これ以上、好きになりたくないのに‥。
オミさんの肩に額を乗せて、誤魔化すようにグリグリと押し付けると、オミさんの体が大きく揺れた。‥ちょっとは照れてくれた?少しは私の動揺が伝わるがいい。
「‥オミさん」
「おう」
「もう一回今の言って下さい」
「赤りんご?」
「違う!!!」
蛇神様が見てたら、すかさず「は〜〜、これだから竜の子は!」って鼻でバカにされる所だからな?そう思ったら、なんか可笑しくなってクスクス笑うと、オミさんは小さな声で
「‥か、可愛い、あ、青葉」
っていうので、私の心はスリーストライク連続3本入って死んだ。




