竜の神様、ドライヤーに挑戦する。
隣の人も帰って来ただろうけど、物音を立てたりするだけで壁を叩かれないって本当に安心するわ。
冷蔵庫に食材を仕舞って、手を洗ってから
ローテーブルの近くにあるクッションに座ってようやく一息つく。
「オミさん、お菓子でも食べます?」
「食べる」
お菓子を出すと、昨日あげたチョコを気に入ったのか嬉しそうに頬張る。神様の国にお菓子はないのだろうか‥。
もぐもぐとチョコを食べつつ、明日の大学の課題なんかをまとめてカバンに仕舞っておく。
オミさんを見ると、私の買ってきた雑誌を興味深そうに見ている。明日どうにかするって言ってたけど、本当に大丈夫なんだろうか‥。いや、もうこの際、考えるのはやめておこう。
音楽をかけて、私も本でも読もうとすると、
オミさんがスピーカーを見る。
「なんだこれ!!音楽がいきなり鳴ったぞ!?」
「え、ああ、これスマホに入れておいた音楽とかを流してくれるんです」
「‥なぜだ?どうやって???」
「ええええ、その説明を求める??」
スマホで検索しながら説明したけど、オミさんは興味深そうにスピーカーを見て、
「‥人間は力がないけど、工夫はすげぇな」
大変感心していた。
ありがとう、先人の積み上げてきた知恵。神様に驚かれてます。
と、オミさんが隣の部屋の壁をじっと見る。
「オミさん?何か音しました?」
「いや、腹が減っただけだ」
「そっちかい!!!」
私が突っ込むと、オミさんが笑って‥、
「コッテリもサッパリも食べてみたい!」
「‥それなら手伝って下さい。今日はご飯の炊き方を教えておきますから」
「神づかいの荒いやつだな」
「人間づかいの荒い神様に言われたくありません」
オミさんに「ああ言えばこう言うな」と言われつつ、お米の研ぎ方とセットの仕方を教えておく。これでご飯を炊いておいて欲しい時は大丈夫そうだ。
本日は、お肉をさっと茹でてタレを楽しむメニューにしておいた。
私としてはヘルシーだし、楽だ。
味噌汁まで作って、それだけで充実した食卓のように思う。
オミさんはサッパリ味のポン酢が気に入ったらしい。
2合炊いたのに、お米が魔法のようにお肉を食べるオミさんの胃袋へと消えてしまった‥。神様、食べなくても大丈夫じゃないの??
お皿を一緒に洗って、お風呂に先に入って貰うとまた髪を滴らせながら出てきた。拭いてくれ!!髪を!!あと上半身に何か着てくれ!!!目のやり場に困る!!
「もう!!髪をちゃんと拭いて下さい!!」
「どらいやーってヤツをやってくれ」
「「自分で!!!!」」
私がドライヤーをセットして渡すと、一方しか風を当てない‥。
ああもう〜〜!手を差し出すと、オミさんはニヤリと笑って私にドライヤーを渡す。‥なんつー手の掛かる神様だ。
ドライヤーをかけてあげると、帰ってきてから流していた音楽を口ずさんでいた。もう覚えたの??長い赤い髪で褐色肌でイケメンが日本のポップスを口ずさんでいる姿がちょっと面白くて、頬が緩む。
「オミさん、歌もう覚えちゃったんですね」
「ああ、神だからな」
「それ本当に関係あるんですか???」
絶対関係ないと思うな〜〜。
オミさんの髪を乾かしてから、私もお風呂に入って出てくると、オミさんが私を手招きする。
「俺もどらいやーをしてやる」
「え?!私の???」
「雑誌とやらで読んだのを実践する!ほら、やってやる」
「‥さっき熱心に読んでたのはそれか。それなら、自分でして下さいよ」
そういうけど、オミさんは引き下がらない。
自分の足の間に座れと指差す。
え、ええ〜〜〜、相当恥ずかしいんだけどなぁ‥。ちょっと照れくさいけど、張り切るオミさんを断るのもどうかと思って、足の間に座ると、髪に慎重にドライヤーの風を当ててくれる。
時々オミさんの長い指が時々首に当たると、ドキドキしてしまって、うっかり座ってしまった自分に後悔した。こ、これは結構照れ臭いな。
一方のオミさんは、完璧に乾かせた!!と、誇らしげだ。
「また明日もやってやる!!」
「え〜〜〜、もういいですよ〜〜」
「お前、神自らやってやるんだぞ?もうちょっと喜べ」
「わーい」
「心がこもってない!!」
じゃあ、明日は自分で髪を乾かしてくれよ〜〜。
そう思うけど、オミさんは引く気配が一切ない。わかったとばかりに頷くと、私の髪をそっと撫でるのでまたも心臓が大きく跳ねる。
「明日は、もっと完璧に乾かす」
「‥神よ、頑張る方向が違うような気がします」
竜の神様のお父さん、あなたの息子の修行はこんなんでいいんですか?




