竜の神様、一瞬の隙。
水を浴びまくると言われたジェットコースターは本当にびしょびしょになった‥。アトラクションから出てきた私もオミさんも、蛇神様も全身びしょびしょだ。なんか、通常よりも濡れてません?
「うう、シャツが張り付く‥」
私はシャツをちょっと摘んで、びしょ濡れの服を見ると、オミさんが慌ててパーカーを力で出したのか、私に巻きつける。
「お、オミさん??」
「ちょ、待て!こっち見んな!!乾かすから!!」
「え??えええ??」
横を向いたままオミさんが力を使ったのか、服が一瞬で乾いた。
す、すごい!目を丸くしてオミさんを見上げると、何やら照れ臭そうに私を見ているけど‥、ど、どうした?
蛇神様がニヤニヤ笑って、
「竜の子〜、わしもびしょびしょじゃあ〜」
「お前は自分で出来るだろ!!」
「なんじゃ、青葉には随分と優しいのう」
「「こいつは人間だろうが!!」」
オミさんは赤い顔で蛇神様に怒鳴る。
まぁまぁ、落ち着いてくれ‥。
一旦落ち着く為に、売店でジュースを飲んで一息入れたけど‥、一息入れて思い出した!!
「あ、オミさん!!乾かす力があるって隠してたでしょ!」
「あ?知らねーなぁ」
「‥じゃあ、これから自分の髪は自分でやって下さいね」
「嫌だ、お前がやれ。あれは疲れる」
私とオミさんの会話を聞いていた蛇神様は、ニヤニヤしながら「ほ〜〜ん」なんて言ってるけど、それは一体どんな感情でしょうか。全くもう一瞬で乾かせるんだから疲れないのでは??ジトッとオミさんを見上げるけど、目を横に逸らされた‥。
「もう、一生ずっと一緒にいるわけでないのに‥」
私が思わず呟くと、蛇神様がますますニヤニヤと笑っている。
蛇神様、一体何をどうしたいんだ。
と、目の前の会場でヒーローショーだろうかスーツを着た人達が飛び出て、わっと歓声が上がる。今日は外でショーをやっているようで、赤と緑の全身スーツを着た人が悪者らしき人と戦っていて、蛇神様はそちらに目を向けると、キラキラした顔で見ている。‥蛇神様、特撮お好きなんですか?
スタッフの人達も、さり気なく小道具なんかを動かしているのが見えて、そのうちの一人に何か見覚えがあった。
「あ、あれ??長谷君??」
「はぁ?!」
スタッフお揃いのシャツを着て、 何やら一緒に掛け声を出したり、手拍子をしている。へぇ、こんな所でバイトしてたんだぁ〜。まじまじと見ていると、オミさんが私のジュースを突然飲み始める。
「あ!!ちょっとオミさん!私のジュース!」
「うるせー、もっと寄越せ」
「もう!自分のがあるのに!」
自分のジュースを守るべく、体の向きを変えようとしたその時、
ゾクリと何かが背中を走る。
何か寒気した!!!
慌てて周囲を見ると、オミさんも気配を察したのか私の手を握る。ちょ、ちょっと!??そっちに意識がいくのだが!??
そう思って、視線を逸らそうと長谷君の方を見た時、
舞台袖から、大きな真っ黒い手が長谷君の体を掴んだ。
長谷君は一瞬、目を見開いたかと思うと、その大きな手に舞台袖の真っ暗な闇の中にあっという間に引き込まれてしまった!
「「お、オミさん!!大変、長谷君が大きな手に!た、助けに‥」」
「はぁ?なんで行くんだよ」
「で、でも‥」
私はオミさんと、長谷君の引き込まれた舞台袖を交互に見る。
助けてくれないの?
オミさんはため息をついて蛇神様の方を見て、目配せしている。
‥確かにオミさんはあえて私を守ると選んでいる。選んで貰っているのに、助けてほしいなんて虫がいい話だ。私は手をギュッと握って、
「オミさん、手を離して」
「はぁあ?」
「「離さないと、もう一生髪を乾かさない!!」」
そういうと、オミさんの手が一瞬緩んだ。
その隙に手をサッと引き抜くと、私は舞台袖に一目散に駆けていく。
後ろで、「おい!」って呼ぶ声が聞こえるけど、構うもんか!人が暗い中に引き込まれて放っておける訳ないでしょうに!!他の人に気付かれるかと心配したけど、私は舞台袖の闇の中に真っ直ぐに入っていった。




