竜の神様、盾になる。
葉月さんのお店でバイトをするけれど、どうなるかと思ったけど、
オミさんは力仕事も難なくこなし、私が持つのに苦労する鉢も、ヒョイっと軽々持ってしまう。
「‥力持ちなんですね〜」
「神が非力でどうする」
「そういう神も、この世界にはいるんですよ」
貧乏神っていうんだけどね。
オミさんみたいな火竜もいるって事は、貧乏神もいそうだな〜なんて思った。オミさんは、私の話を聞いて「この国は大丈夫なのか?」って心配そうに呟いたけど、多分大丈夫?
葉月さんがお茶を淹れてくれて、一旦休憩だ。
「それにしても、急にこの世界に来たのに随分と落ち着いてますね〜」
お茶のカップを、私とオミさんに渡しつつしみじみと話す葉月さん。
そういえばそうだな‥。
私なら大パニックだ。オミさんを見上げると、静かにお茶を飲みつつ「別に。特に困ってねえし」って話すけど‥。そうだろうね、むしろ私が困ってる。
「オミさん、私明日大学だからお留守番して下さい」
「何時間だ」
「えーと、六時間くらい?」
「三時間つったろ」
「でも、その姿は非常に目立つんですが!?」
「‥そこは考えておく」
考えておくとは!!??
私はオミさんをジトッと見ていると、葉月さんがニコニコして見ている。
「葉月さん、なんでそんな笑ってるんですか‥」
「いや、最近青葉ちゃんお隣さんに困ってて、顔が暗かったから‥、今日は久々に明るい顔が見られて良かったよ。うちに住んだらって言おうと思ってたんだけど、オミさんがいるなら安心だね」
う‥。
それは、まぁ、確かに?
オミさんは意外そうな顔をして私を見るけど、はい、そうなんです‥。お隣さんの神経質すぎやしないかい?っていうあの壁を叩く音にちょっと参ってました。
「‥オミさんの防音の力のおかげで、昨日は久々にゆっくりできました。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、オミさんはちょっと目を丸くしたかと思うと、
ふんぞり返って、ニヤニヤと私を笑って見る。
「まぁ、いいけどな。タレのやつまた作れ」
「自分で今度はやって下さい。簡単だから」
「態度でも示せ」
「謙虚でいて、神様」
私とオミさんの会話に、葉月さんがにっこり笑って「すっかり仲良しなんだね」って言うけど、葉月さんそろそろ眼鏡を新調した方がいいと思うよ?
なんとかバイトを終えて、夕方の道を歩いて行く。
夕飯のおかず、何にしようかな‥。
スーパーに寄って行こうと思って、オミさんを見上げる。
「オミさん、お店に買い物に行きたいんですけど‥」
「タレはあるか?」
「わんさかありますよ」
私がそう言うと、「わんさか‥」と呟いてワクワクした顔をしている。うん、大丈夫だな。
近くのスーパーに入って、オミさんと籠を持って野菜やら肉を買っておく。‥食べなくても平気らしいけど、なんか食べたそうにしてるし。タレのコーナーに連れて行ったら、
「こんなにあるのか!??」
「こんなにあるんですよ。こっちはさっぱり味で、こっちはコッテリで‥」
説明するけど、サッパリもコッテリも大変擬音語だな?
種類の違うのを3つほど買って会計した。お財布が地味に痛かった。
食材がいっぱいに入った袋を持つと、オミさんが私の手からそれを取って持ってくれた。
「‥おお、神よ!」
「お前、そんな時だけ言うのな」
「だって普段、神様っぽくないし‥」
「いつだって俺は神々しい」
自分で言っちゃう?
そう思いつつも、さり気なく持ってくれた事が嬉しくて、ついニコニコしてしまう。
家が近くに見えて、今日のご飯を新たに炊こうなんて思っていると、お隣さんが向こうの道からやってくる姿が見えて、思わず体が強張る。
だ、大丈夫。
昨日は静かだったはずだし‥、そう思うのにドキドキしていると、オミさんが私の空いた手を握る。
「オミさん?」
「‥一緒にいりゃ大丈夫だろ」
「‥ありがとうございます」
ちょっと汗ばんだオミさんの手を握り返して、ホッと息を吐く。
自分の体を盾のようにして、お隣さんの視界に入らないようにして階段を上がってくれて、部屋へ入って今度は大きく息を吐いた。
オミさんは私をまじまじと見て、
「‥俺にはあんなに威勢がいいのに」
「余計な一言が多い!」
助けてくれてありがとうって言おうとしたのに、言葉が引っ込んだではないか!!




