竜の神様と、赤リンゴ。
シャボン玉は私が圧勝した。当然である。
私はこれでもオミさんよりもずっとシャボン玉歴が長いんだからね。
悔しそうに部屋の中を拭き掃除するオミさんをスマホで撮って、蛇神様に送信したら光の速さで返信が来て「www」と草を生やしていた。ネットスラングまでよく知ってるなぁ〜。
今度不便だろうから、オミさんにスマホを送るって言ってくれたけど、ちゃんと使いこなせるのかなぁ‥オミさん。そんな事を思っていると、雑巾を洗ってきたオミさんがダルそうにこちらへやってくる。
「おら、掃除終わったし寝るぞ」
「はいはい、お休みなさい」
「おい、なに寝袋で寝ようとしてんだよ」
「なんでナチュラルに一緒に寝るって思ったんですか?」
「お前、本当に強情だな〜」
いやぁ???だって私、乙女だよ?
それを言うならオミさんだって、相当強情だし、しつこいと思うけど。
「オミさん‥、しつこいと嫌われますよ〜」
「はぁあああ?!」
「お休みなさい」
寝袋に入って、目を閉じるとオミさんが明かりを消してベッドに寝転ぶ音が聞こえる。
シンと静まった部屋に、小さな電車の通り過ぎる音や誰かの話し声がちょっと聞こえる。今日も色々あって疲れたな〜。また寝たら、オミさんにベッドに連れ込まれるんだろうけど、もう仕方ないな‥。
と、私の頭をツンツンとオミさんが突いてくる。
「‥もぉ〜〜〜、なんですか?」
「‥嫌いなのか?」
「?何を?」
「何をって‥、お前、今言ってただろ」
‥シツコイと嫌われるって事?
顔を上げて、オミさんを見上げるとなんかちょっと拗ねたような顔をしている。もしや、今「しつこいと嫌われる」と言った言葉を気にしてたの???
本当にこの神様ってやつは‥。
手が掛かるし、口が悪いし、そのくせ不器用なんだから‥。
「‥嫌いに、なりませんよ」
「‥あ、う、ん‥」
小さく笑ってオミさんに微笑みかけると、オミさんは照れ臭そうに視線を逸らす。
さっきのシャボン玉だって、きっと狐に舐められて怖かった私の気持ちをちょっとでも変えようとしてくれたんだろう。シャボン玉の液を拭き取っていた時、オミさんがいつもならぶうぶうと文句を言う癖に、私が面白そうに笑っている顔をちょっと嬉しそうにしていたのに、後から気付いたくらいだ。
蛇神様の所にいるシキさんが「誤解されやすいけど、優しい」って言ってたの、今なら本当によく分かる。
ずるいよなぁ〜、オミさん。
そんな優しい姿を見せられたら、嫌いになれる訳ないのになぁ。
ちょっと手を伸ばして、ベッドに広がるオミさんの長い赤い髪をちょっと引っ張る。
「‥オミさんに契約続行してて欲しいんだから、そんな訳ないでしょう?」
私がそう言うと、オミさんは私を目を丸くして見てから、
グッと口を引き結ぶ。
「‥俺でよかったな」
「まぁ、そこは確かに助かってます。ありがとうございまーす」
「心がこもってねぇな‥」
「え、すごい込めましたよ?」
私がそう言って笑うと、オミさんの大きな手が私の頭にそっと触れる。
熱の塊みたいな体温の手に触れられて、ドキドキするのに安心する。そっと目を閉じると「‥危機感もて」って言われたけど、持ってるよ?
荒々しい口調とはまるで正反対の優しく髪を撫でる手つきが気持ち良くて、あっという間に寝てしまったけど、髪と同じくらい赤い顔をして私の髪を撫でていたオミさんには気付けなかったし、やっぱりいつの間にかベッドに寝かされていた事にも気付けなかった‥。
翌朝、オミさんにきっちり抱きしめられて起きた私は朝から目眩を覚えたけど、なんとか腕から抜け出そうと、オミさんの額をペチペチ叩いた。
「オミさん、起きて」
「‥眠い」
「えーと、今日は大学です」
「休め」
「無理です」
ええい!!そのぶっとい腕を離さんか!!
こちとら朝からドキドキしてるんじゃい!!オミさんの腕をなんとか離そうと持ち上げようとすると、オミさんはそんな私を近くに抱き寄せて頬をすり寄せる。
ちょ、ちょっと!!!なんつー事をしてるんだ!!
真っ赤になった私は朝一番叫んだ。
「「「離さないと、嫌いになります!!!!!」」」
‥目をぱちっと開けたオミさんが、真っ赤な私を見て「あれ?なんで赤リンゴ??」って言ってるけど、寝ぼけてないで早く起きなさい!!!!




