竜の神様、マイペース。
ピピッとスマホのアラームの音が聞こえる。
ああ、朝だ‥。
そう思うものの、眠たくて目が開けられない‥。目を閉じたままスマホを探して、手をウロウロと動かしていると、
「これか?」
低い声がして、スマホを渡される。
半分寝ぼけてスマホをタップしてから、ふと気づく。
あれ??今、男の人の声がした?
なんで、男の人の声?
バチっと目を開けると、目の前いっぱいに長い赤い髪がサラッと流れている。
赤い髪‥。
そうだ!!オミさん!!
顔を上げると、顔と顔が30センチ離れてるか、離れてないかの距離にオミさんの顔がある。
な ん で ?
目をパチパチと瞬きしてよく状況を見ると、私はオミさんに抱えられるようにベッドに一緒に寝てる。‥寝てる???
「「なんで一緒に寝てるんですか!!??」」
「朝っぱらからうるせぇ‥。あんな袋に入って寝るより、こっちのがいいだろ」
「「だ、だからって、私が寝入ってからこっちに移さなくても!!!」」
「起きてる時に言ったら、断固拒否したろ」
「「しますよ!!私は若い乙女ですよ!!?」」
私が赤い顔でそういうと、オミさんがからかうように「乙女って」って笑うので、本当にどうしてくれてやろうか。
「‥とにかく離して下さい。今日はバイトがあるんです!」
「バイト?」
「短時間ですが働いて、お金を稼ぐんです。洋服とか、外食とか、遊ぶお金も欲しいですし‥」
そう話すけど、あのですね‥
いい加減、腕を退かして欲しいんですよね?
オミさんの大きな腕の中はビクともしない。‥くそ、体格の差が恨めしい。
「‥なんの仕事をしてるんだ?」
「教えてあげますから、腕を離して下さい」
「‥教えたら離す」
「「ええい!!埒が明かない!!!」」
グイグイと両腕でオミさんの胸元を押すと、ようやく笑いながら腕を離してくれた。‥‥この神様、本当にマイペースだな!その上馴れ馴れしすぎない?ジロッと睨みつつ、私は顔を洗いにいった。
一人だけならパンとコーヒーだけど、オミさんはなんか食べそうなイメージなので、目玉焼きとハムも出して上げると、オミさんは面白そうな顔をして朝食を見る。
「こんなの初めて見た」
「‥神様って普段、何を食べるんですか?」
「ご飯は同じだな。野菜とか魚が多いな」
「へ〜〜、神様もご飯食べるんですね‥」
「ま、食べなくても生きてはいけるがな。俺の世界は食べてる」
え、じゃあ食べなくてもいいんじゃ‥と、思ったけど、嬉しそうにパンにハムを乗せて食べているのを見ると、なんか言いづらくなってしまう‥。
お皿を洗おうとすると、「俺、やってやる」というので遠慮なくお願いした。
こっちがお湯‥と言いながら、大きな体を縮こませてお皿を洗う姿がちょっと可愛かった。
「そういえばオミさん、距離ってどれくらい離れるとマズイんですか?」
「ああ、お前の世界で言えば10キロくらいだな」
「‥全然広いですね。じゃあ、お留守番してて下さい」
「時間は3時間が限界だな」
「「時間制限もあるんかい!!!」」
神様、私は花の乙女!!!
距離はまぁいいとして、時間がエグくない?!
私、大学の講義もあるし、実習もあるんだよ!??
悲嘆に暮れている私を尻目に、オミさんは明るくなった私の部屋の中を面白そうに見ている‥。今日もマイペースだな。
「バイト、どうしよう‥。今日は結構長く働く予定だったのに」
「だから一緒に行くって」
「服も靴もないのに、何言って‥」
そう言って、オミさんを見ると、
黒いパーカーに、ダメージっぽいジーンズに黒いシューズを履いてる。
え!??なんで???
私がびっくりして目を丸くしていると、私の雑誌を指差す。
「これ、男が着てたけど、こういうの着ておけばいいんだろ?」
「そうですけど‥、ええええ、す、すごい!!」
私が雑誌とオミさんを交互に見ると、オミさんはちょっと得意顔になる。
「‥いや、確かにすごいですけど、連れて行きませんよ?」
「あぁ!?なんも聞こえねぇな」
いや聞けよ。
思わずツッコミたかったけど、もうバイトの時間である‥。
手伝うならついてくるのを許可します!そういうと、
「労働した事ないけど、付き合ってやるよ」
「「……そろそろはっ倒したい」」
ボソッと呟いた私は悪くないと思う。
そういうと、オミさんがニヤッと面白そうに私を笑って見た‥。くそ、このマイペースな神めっ!!




