竜の神様、躾けます。
火竜であるお兄さんのパティアさんがまさかのコインランドリーにいらした‥。
字面だけだとシュールだなぁ。
ひとまず空いている席を勧めると、お兄さんのパティアさんはそこに座る。でっかい体の人がもう一人増えて、しかも赤い髪に褐色肌だ。目立つ、目立つ‥。空いているコインランドリーなのに、めっちゃ注目されてる。
オミさんはジロッと、兄のパティアさんを見る。
そういえば、あまり仲が良好って感じじゃなかったっけとオミさんの顔を見て、思い出す。
「で、なんか用か?」
「‥父上が突然、ルディオミを人間界に送って契約させたというから、契約者が心配で‥」
あ、すごい良い人っぽい。
私はその一言を聞いて、穏やかに微笑むとオミさんがものすごい舌打ちをする。
「だからなんだよ。こっちは問題ねーよ!」
オミさんがちらりと私を見る。
問題ないかといえば問題はあるけど、助けられてはいる。なんと返答したらよいものか‥。オミさんはギリギリと歯噛みするように私を見る。あ、はいお世話になってます。
「えーと、まぁ多少色々ありますけど、しっかり守っては貰っているのでそこは大丈夫です」
私がそういうと、オミさんはちょっと嬉しそうにして、
口を慌てて引き結ぶ。なにそれ可愛いか。
お兄さんのパティアさんはちょっと目を丸くして、私を見て、
「本当に弟は迷惑をかけていないかい?」
「はい。あと、言の葉の神様の使いの人も手伝って助けてくれてますし‥安心して下さい」
私がそういうと、オミさんは腕を組んでドヤ顔をする。
まぁ、嘘は言ってない‥。そんな私とオミさんを見て、ますます目を丸くしてパティアさんはホッと息を吐く。
「‥父上が契約者が女性の方だというのに、配慮もなく契約させてしまって心配していたのですが‥、そうですか、そう言って頂けて安心しました」
あ、それはそれで問題なんですけど。
あえて黙っていると、パティアさんは私を見て、
「ですが、もし問題があれば契約を破棄するのは可能ですから、すぐ言って下さい」
「「えっ!!??」」
契約を破棄できるの!??
私が今度は目を丸くする番だ。
だって、課題をクリアしなければ契約を破棄できないと思ってたから‥。オミさんはパティアさんを見て、ギロッと睨む。
「‥余計なお世話だ」
「だが、彼女に迷惑をかけるわけにはいかないだろう?」
「「勝手に決めんじゃねーよ!」」
オミさんが声を荒げると、周囲にいた人達の視線が一斉に集まる。
ひぃいいい!!!ここで喧嘩しないでくれ!!場所を移した方がいいかな?って思ってオミさんを見ると、悔しそうな、苦しそうな顔をしている。
‥私は、てっきり契約破棄できるなら喜んで破棄して自由の身になりたいのかなって思ってたのに‥、意外な表情に目が丸くなる。
お兄さんとの確執もあるのかもしれないけど‥。ちょっとは私との生活も楽しんでくれていたのかな?って思えて、それはそれで嬉しいというか、確かに大変なんだけど、この契約関係をもうちょっと続けたいなぁって思った。
私はパティアさんを見て、
「あの、契約は続行したらダメ‥ですか?」
「「え?」」
オミさんとパティアさんは私を同時に見る。
「もし違う方と契約しても、オミさんが肉しか食べてないんじゃないかとか、髪をちゃんと拭いてるかな?とか、どこかで暴れてないかなとか、気になって仕方ないんで‥」
「「そこかよ!!!」」
「え、ちゃんと野菜食べます?」
オミさんのツッコミに、私も聞くと、オミさんがうっと言葉に詰まる。
ほらー、食べないんじゃん!!
「‥あと、私の身の安全が保証されるまで、ちゃんと守るって約束してくれたし、帰りにドーナツ買って帰るって約束もしちゃったんで」
私がそういうと、オミさんはちょっと口を開けて私を見て、
それからプイッと横を向く。
「‥ドーナツ3つ買え」
「自腹で買って下さい」
すかさずそう言うと、パティアさんは小さく笑って私を見ると、
「‥では、弟をお願い‥してもいいかな?」
「はい、責任を持って躾けます」
「「おい!!なんだそれ!!??」」
うるさいな〜〜。
だったら今後自分で髪を乾かして、なおかつ野菜を食べてくれ。私がジッとオミさんを見ると、オミさんはちょっと俯いて「ワケわかんねぇ」って言うけど、自分の事を自分でして欲しいって帰ったら説明しようと思う。




