竜の神様、不思議な夜。
夕飯を食べ終えた私は早速修行の一環でオミさんにお皿洗いを教えた。
働かざる者食うべからずである。神様だってこの際使ってしまう。
「ここを上げればお湯が、こっちを上げると水が出ますからね」
「へ〜、便利だな」
「‥防音ができる力のが便利だとは思いますけどね‥」
自分の食器を洗い終えた私は、向かいに座るオミさんをローテーブル越しに見て、
「‥お金はないですよね。服とかは‥」
「金は出せないが、服は力でどうにでもなる」
「あ、よ、良かった‥。じゃあ、お風呂の入り方教えておきますね」
「風呂があるのか?!この小さい家に??」
「‥小さいは余計です!それなりの広さです‥」
ジトッとオミさんを見て、話すと「へ〜」と気の無い返事だ。
全くこの神様って奴は、本当に口の悪い!
お風呂場にあるシャンプーの説明をして、バスタオルを渡してお風呂に入って貰う。お風呂をまじまじと見て「小さい」って言ってたけど無視した。
「問題はベッドか‥」
オミさんが風呂に入っている間に、パジャマに着替えてクローゼットから寝袋を出す。お客さんが来た時に、これで寝て貰うんだけど、オミさんは体が相当大きいし、これ‥入れないだろうなぁ。
さっきお風呂に入る時に、横に立ったけど‥あれは絶対180は余裕であるだろう。
くそ、こちとら毎日牛乳飲んでも、160にも届かなかったのに‥。
それにしても5月で良かった。今度寝具も買い足しておこう‥。
そんな事を思いつつ寝袋を広げて、自分の手の甲のトカゲのような模様を見る。
‥これ、大学でタトゥー入れてる!?って思われたらどうしよう!って思ったけど、私とオミさんしか見えないらしい‥。なら安心かって思ったけど、全然安心じゃない!!!神様に文句を言いたいのに、全く言えない状況、超理不尽!!
大きくため息をつくと、お風呂場の扉が開いたので振り返ると、オミさんが上半身裸で、長い髪を水を滴らせながらこちらへ来る。
な ぜ 服 を 着 て な い !?
「「バスタオル渡した意味ーーー!!!?」」
「面倒くせぇ」
「いくら暖かくなってきたとはいえ、まだ5月に入ったばっかりです!!ああ床ぁ!!」
床がビショビショじゃないか!
あと服を着てくれ!!目のやり場に困る!!
床を雑巾で拭いてから、バスタオルを持ってきてオミさんの頭に被せてガシガシと拭いた。
「おい!いてぇ!!」
「ええい!!だまらっしゃい!文句があるならちゃんと乾かして下さい!」
バスタオルで、毛先を軽くポンポンと叩いてからドライヤーを持ってきて、スイッチを入れるとオミさんが驚いて私をみる。
「お前、力を持ってるのか?」
「ドライヤーの事ですか?これは電気を通して、熱を出すんで私の力ではないですね」
主に電力会社と、ドライヤーを作ってくれた会社の力です。
そんなことを思いつつ、オミさんの長い髪を乾かしていく。うう、なんでこんな事に‥。そう思うけど、この綺麗な髪がボサボサになるのも嫌だしだな。
大分乾いてきたので、スイッチを切ってオミさんを見ると、ドライヤーをまじまじと見て「すごいな」って呟くので笑ってしまう。なんかこういう所は憎めないな。
「‥私は試験勉強したいんで、オミさんはそのベッド使って下さい」
「お前はどうするんだ」
「私は寝袋で寝ますよ。オミさんじゃあ体が入りきらないだろうし‥」
私が寝袋を指差すと、オミさんは「袋?」って不思議そうにいうけど、れっきとした寝具です。
歯ブラシも予備をあげて、歯磨きの仕方を教えると「人間って不便だな」って話しつつ面白そうに歯を磨いていた。まぁ、素直に磨いてくれて良かった。
部屋の明かりを落として、私はローテーブルにライトを持ってきて点ける。
オミさんは私のベッドにゴロッと横になって私をじっと見てる。
「‥えーと、オミさん?気にせず寝て下さい」
「‥おう」
そう返事したけど、オミさんは寝転がりつつ私をじっと見てて、なんとも落ち着かない。ひとまず課題だけこなしてから、私は諦めて早々に寝袋に入る。
「オミさん、お休みなさい」
「おう」
短く返事をしたオミさんの瞳を見る。カーテンを閉めても、隙間から入り込む街灯の明るい光に、オミさんの黄色のような、緑のような、不思議な色彩の瞳が見えて、
‥やっぱり綺麗だなぁ。
そう思って、私はそっと瞳を閉じる。
遠くでどこか救急車の音と、電車の音が聞こえる。
いつもの生活音が聞こえるのに、非現実的な出来事が起きて、ちぐはぐな夜を不思議な気持ちを抱えつつ、ゆっくりと眠りの世界へ落ちていった。