竜の神様、髪のお手入れをする。
肉丼を食べてから食器を片付けて、オミさんはウキウキした顔でお風呂に入ってすぐまたびしょびしょで出てきた。
‥お願いだから髪を拭いて。
あと上着を着て。
これ、何回言えば言いんだろう‥。
私が遠い目でオミさんを見ると、
「今日我慢してやったんだから、髪も乾かせ!」
「「はぁ〜〜〜、意味が分からん!!」」
‥・全くもって意味が分からないけど、ウキウキしながらお風呂に入ったのは、ここぞとばかりに乾かして貰おうと思ったんだな。呆れたようにオミさんを見上げるけど、そんな私を構う事なく、ドライヤーを問答無用で渡された。いや、やるとは一言も言ってないんですけど‥。
「‥本当にこの神様はどうしてくれよう‥」
「早く乾かせ!」
「そんな要求の仕方がありますか!!」
ため息をつきつつ、ドライヤーをコンセントに繋げるとローテーブルの前にいそいそとオミさんが座る。‥このガキンチョ神様は本当に手が掛かるな。
バスタオルで髪の水分を取ってから、ドライヤーのスイッチを入れる。
「‥お前、こういうの他の奴にもした事あるのか?」
「ないですよ。大体相手もいないのにどうやってするんですか」
なんだ新手の嫌味か?
私はオミさんの綺麗な後頭部をじっと見ながらドライヤーをかけていく。オミさんは「ふ〜ん」と言って、黙ってしまった。もう飽きたの?髪にそっと指を差し込んで、温風を当てる。
私と同じシャンプーを使ってるはずなのに、なんでこんなに綺麗な髪なんだ。ずるい。
サラサラと流れていく髪を見て、羨ましい。
こちとら色々やって、なんとかストレートヘアにしているのに。
「はい、終わりましたよ」
「‥‥ありがと」
お、
おお!!!!
オミさんがお礼を言った!!!
自主的に初めて言った!!
私は感動して、オミさんの頭をそっと撫でた。うん、ツヤツヤ、サラサラな髪だ。ついでに後頭部綺麗な形だ。
「お礼が言えて偉いですね〜〜」
「「おい、バカにしてるだろ」」
「いえ、感動してます」
「「どう考えてもバカにしてるだろ!」」
そんな事ないのに。
手を離すと、オミさんが膝立ちしている私を見上げてちょっとジトッと睨んでくる。疑り深いなぁ。
「‥お前も入ってこいよ。今度、俺がやる」
「いえ、自分の事は自分でします」
「「神、自らやってやるって言ってるのに?!」」
「自分の事は自分でって言っている以上、自分でします」
あと普通に恥ずかしい。
私はすくっと立ってパジャマを出すとそそくさとお風呂場に行った。
‥オミさんの考えてる事、本当に分からない‥。
ただ守るだけの契約者になんでそんな事をしようとするのだ。
あ、もしかして契約内容が分からないから、色々試そうとしてる??そう思ったけど、戻りたい?に対し「分からない」って言ったオミさんだ。そんな殊勝な事しないだろう。
お風呂から出ると、オミさんはベッドの上で寝そべりながら雑誌を見ていて、私を見るなり体を起こす。
「おら、乾かすからこっち来い!」
「いえ結構です」
「「やるって言ってるだろ!!」」
‥‥ドライヤーの押し売りとはこれいかに。
「‥照れ臭いから、嫌です」
「俺は恥ずかしくない」
「「んがぁあああ!!!言葉と感情のキャッチボールぅううう!!」」
思わず持ってたバスタオルを床に投げ捨てたさ!!
オミさんはそんな私を見て、ニヤニヤ笑ってる。
笑ってる場合じゃないってば。
「青葉」
オミさんが低い声で、笑いを堪えつつ私を手招きする。
‥なんか力でも使った?
胸が不意にぎゅっと掴まれたように苦しくなって、目を逸らしつつオミさんを背にして床に座ると、オミさんがドライヤーのスイッチを入れて、私の髪を乾かし始める。
「‥神様、強引では?」
「すげー謙虚な俺に何を言う」
「謙虚を辞書で調べて下さい」
「嫌だ。神に何てことを言うんだ」
「こんな神がいるなんて想定外です‥」
私の髪を、鼻歌を歌いつつ乾かす神様なんているの?
どう見てもおかしくない?
そう思ったけど、機嫌良く私の髪を乾かすオミさんの指が髪の間をすり抜けていく度にドキドキしてしまって、動けないし、喋れなくなってしまった‥。本当にこの神様は困る‥。




