竜の神様、触れる。
撮影が無事に終わって、着物も無事に返せた私は一安心だ。
お化粧は家に戻ったら落とせばいいかな?
衣装部屋から出てくると、オミさんがホッとした顔をして私を見る。
「もう終わったんなら帰ろうぜ」
「そうですね〜。せっかくだから撮影現場見たかったけど‥」
「嫌だ、帰りたい」
「「駄々っ子か!!!まったくもう〜〜」」
しかしここで急に姿を現されても困るので、私は帰り支度をしてスタッフさんに声を掛けてから、現場を出ていく。ハァ〜、なんか本当に別世界だったなぁ。
オミさんと撮影現場を出て、ちょっと後ろを振り返る。
時計塔はいつものように静かに立っていて、すごい勢いで針を動かしていたようにはとても思えない‥。スタッフさん、また盗み出さないといいけど‥そう思っていると、オミさんが私の側へ来て、
「あの盗んだ奴、もう取れないぞ」
「え?そうなんですか?」
「なんか油断してたらしいけど、今度来たら追い返すって言ってた」
「‥時計塔が?」
「当たり前だろ?」
そ、そうなのか〜〜。
でもそれなら安心だな。
ちょっと心配だったので、大変安心した。オミさんは歩き出す私をじっと見て、
「化粧、」
「え?」
「なんか、変わるんだな」
「あ、そうですね〜。やっぱりプロにして貰うと違いますね」
「りんごが化けた」
「「はっ倒しますよ?」」
ジロッと睨む私にオミさんがニヤニヤ笑って、でっかい手をずしっと私の頭の上に乗せると、顔を覗き込む。ちょ、ちょっと何をするんだ!!??ギョッとして目を丸くすると、
「へー、こんな風にキラキラすんの塗るだけで違うんだな」
「あ、ああ、そういう‥」
「唇って、こんなん塗って意味あるのか?って思ったけど、変わるな」
「は、はぁ‥、あの、オミさん?近いんですけど‥」
目をウロウロさせていると、オミさんがジトッと私を見る。
「あんだよ、ハセに覗き込まれてたろ」
「まさかのそこに対抗??」
は、恥ずかしいんだよ!!
視線だけ横を向いていると、オミさんの親指の腹が私の唇にそっと触れる。
な、何をするんだ!!
「‥‥花の色みてぇ」
「そ、そうですね?」
頼む〜〜〜!!!
その手をどかしてくれ!!
思わずぎゅっと目を瞑ると、頭の上に乗せていたオミさんの手が、ピクリと動いた。な、なに??
一瞬の無言の後、突然鼻を指で摘まれた!!
「「ふがっ!!」」
「ぶはっ!!!りんご面白ぇ!!」
「「っこんのガキンチョ〜〜〜!!!!」」
ドカドカと脇腹にパンチしてやった!!
は、恥ずかしかった!!!ものすごく恥ずかしかったんだけど!!!
照れ臭さを誤魔化す為に、脇腹にパンチするけどオミさんはゲラゲラ笑ってる‥。クッソ〜〜ノーダメージかよ。
「もうオミさんの夕飯、全部野菜です!!」
「嫌だ、肉がいい」
「じゃあ自分で作りなさい!!タレ、まだ試してないのあるから」
「あー、そういえばあったな」
本当にマイペースだよな。
私はものすごく恥ずかしかったのに。
夕陽の中、真っ直ぐ前を向いて歩いていたので、オミさんが赤い顔をしてたとは気付かなかった‥。
夕飯は本当にオミさんに作らせた。
だって一向にしないし!!
「ほら、ここでお肉を入れてかき回す!!」
「え、ちょ、おい、なんか跳ねてきた!!」
「油ですよ、怖いんですか?」
「怖くねぇ!」
そう言いつつ、バチバチいうと「おわっ!?」って言う姿がおかしくて笑ってしまった。こうやっていつも作っている私をもっと褒め称えていいんだぞ?
なんとかできたタレを絡めた肉丼をオミさんは誇らしげに私に出してみせ‥、
「「どうだ!!俺にも出来たぞ!!」」
「わー、オミさんすごーい、いただきます」
「待て!!心が込もってないぞ!!」
「それはいつもの私のセリフですねー。あ、美味しい」
もぐもぐと食べて、そう言うとオミさんがパッと顔を輝かせる。
「美味しいか?」
「美味しいですよ」
「ふーん‥‥」
そんなまぁ、別にどうでもいいですけど?みたいな顔をしつつも、嬉しいのをなんとかバレないようにしているのか、口がちょっと複雑な動きをしているオミさんを小さく笑って、私は肉丼を食べた。うん、美味しい。




