竜の神様、警戒する。
なんとか学校に間に合って、息を切らせつつ私は空いている席に座った。
あ、朝から疲れた‥。
隣に座るオミさんは皆に姿を見えないようにしていて、まぁ涼しい顔で座っている。この野郎。
これはオミさんの修行というより、私の修行になっているのでは?
なぜ私がこんなにオミさんに振り回される羽目になっているのだろう‥。若干、遠い目をしつつ始まった講義を聞く。
それにしても、昨日は大変だったな。
契約者の私が死ねば、元のオミさんの世界に帰れるとか‥。そういえば契約内容も、修行期間も、何もかもあやふやなままだ。
ちゃんとオミさんに確認しておかないとだなぁ。
そう思って、オミさんをチラリと視線だけで見ると、意外に講義を真剣な顔で聞いている。‥私より真面目に聞いてて、時々ノートをとってると、「ここ、こうだって言ってたぞ」って言うんだよね。
さっきのシャボン玉の時と、全然違う反応だからなんか面白いな。
ノートをまたとりつつ、そんな事を考えていると、
どこからか視線を感じる。
顔を上げて、周囲を見るとオミさんも感じたらしい。
小さく舌打ちしてる。おいおい、神様なのに顔が凶悪になってるぞ‥。ちょっとオミさんの方へ体を寄せて小声で聞いてみる。
「‥なんか、悪い感じのものですか?」
「‥‥それは大丈夫だ。面倒クセェけど」
「ええええ‥どっち?」
「俺がいるんだから、大丈夫だ。お前は勉強しとけ」
「‥は〜〜い‥」
悪いのじゃないけど、面倒臭いってなんなんだ。
でも、まぁオミさんが大丈夫って言うなら、大丈夫か?私は先生の方へ目を向けると、オミさんが私の近くに椅子をそっと寄せる。
え。
オミさんの大きな肩と腕が私の体にくっ付いて、じんわり暖かい。
な、なんでそんな近くに???
私がオミさんを見上げると、オミさんは先生の方を見ながら、
「どーせ誰も見えない。面倒なのから守ってるだけだ」
「あ、そ、そういう?じゃあ、お願いします?」
「‥‥おぅ」
‥って、
って、待て待て待てぃ!!!!
いや、このゼロ距離は流石に恥ずかしいんだけど!!!
でも、昨日みたいなのじゃないとはいえ、やっぱり怖いのは嫌だし‥。あああ、顔が赤いのがバレませんように!!口をぎゅっと引き結んで、私は授業に一生懸命に耳を傾けた。
こんなぴったりするのは一限だけ‥と思ったのに、二限も、三限もオミさんは私にピッタリくっつくので、本当に恥ずかしくて堪らなかった。
お昼ご飯の時間になった時には、グッタリだ‥。
そんな私をよそにオミさんはお弁当の入ったカバンを持って、ウキウキしてる。
「おい!青葉、外で飯食おーぜ!!」
「‥はいはい」
「屋上、屋上行こう!」
「‥オミさん、すっかり大学を知り尽くしてますね‥」
長い脚で、ズンズン校内を突き進んでいくので私は追いかけるのに必死だ。足が早いんだよ!!
「あ、青葉〜!」
「ん?」
声がした方を振り向くと、長谷君がこちらへやって来る。
「ごめん、昨日の授業俺出てなくてさ、ノート取ってる?」
「あるけど、ちゃんと授業出なよ?」
私がカバンからノートを取り出すと、長谷君は嬉しそうに笑ってノートを受け取る。
「悪い!!助かります」
「はいはい、じゃ、それ明日返してね」
「おう!!ありがとな!あとさ、今週末とか空いてる?」
「週末?」
「いつもノート貸して貰って、悪いから‥、その、」
今週末、何かあったかな?
そんなことを思っていると、私の肩にぶっとい腕がいきなり回された。
「え、重っ‥!!?」
顔を上げると、オミさんが私の首に腕を巻きつけつつ長谷君を睨んでいる。あ、あれ??これは姿が見えてる?見えてない??
「え、青葉、その人‥」
見えてるーーーー!!!!!
「「りゅ、留学生!!!留学生だよね??オミさん???」」
「あぁ?!」
「ごめんね、長谷君。お昼だからまたね!!!」
オミさんの手を引っ張って、慌てて屋上まで走っていく。
な、なんでいきなり姿を現わすかなぁ?!!
屋上の人気のない所まで走っていくと、クルッと向きを変えてオミさんを見上げる。
「「なんで、いきなり現れるんですか!!!」」
「‥飯、食いたかったから」
「「じゃあ、言ってくださいよ!!もっと、こう、普通に???」」
いや、そもそもオミさんも、そして私の置かれている状況も普通とかいう範疇ではないな?一瞬で冷静になった私は、屋上のベンチに座ってオミさんを見る。
「‥‥とりあえず、お昼食べましょう。話はそれからで」
そういうと、オミさんはニヤッと笑って私の隣にどっかり座るのだった。‥今日も大変な1日になりそうだな。




