竜の神様、同居決定。
とにもかくにも私とオミさんがあまり距離を取れないのは分かった。
あとなんか力があるのも分かった。
オミさんは水のペットボトルをぐっと飲み干すと、
「で、俺、腹減ったんだけど‥」
「超マイペースなのも分かった‥」
全然知らない世界に来ちゃってもマイペースなのは、力が使えるからだろうか‥。
まぁ確かにお腹は減った。
っていうか、そもそも試験勉強をしようと思ってたんだけど‥、この状態だ。今日は一旦諦めよう‥。
「えーと、何か食べられない物ってあります?」
「なんでも食べるけど、なんでだ?」
「神様ってお肉とか食べるイメージなかったんで」
私がそう話すと、オミさんはなるほどと頷いて、
「こっちの神はそうなのかもな。俺の世界は違う」
「そうですか‥、じゃあとりあえず今日は私が作りますけど、自分でも作って下さいよ」
「は?俺が?」
「ここに住むんでしょう?修行の一環です!!」
なに図々しく毎日作って貰おうと思ってるんだ!
神様の息子だろうが何だろうが、料理は分担だ!私が鼻息荒くフライパンを持ってオミさんを見ると、ちょっと驚いた顔をしている。
「‥‥本当に住んでいいのか?」
「ご飯を食べつつ、色々決めていかないとですけど‥そうせざるを得ないんでしょう?」
オミさんは私をまじまじと見て、
「‥お前、よく騙されないか?」
「「どういう意味ですか!?」」
勝手に神様を送られて来たわ契約されてるわ、騙されるというより送りつけられてきたけどね‥。はぁっとため息をついて、手早くご飯をレンジで温めて、冷凍しておいた野菜と肉を焼肉のタレで炒めた。
‥神様って、どのくらい食べるんだろ。
ご飯をいつもより多めに盛ったお皿に肉野菜炒めと、カップスープを付けてオミさんの前に出すと、目がキラキラしてる。なんか可愛いな。
「箸‥じゃなくて、スプーンの方がいいですか?」
「ああ、箸でも食える」
「へ〜、神様の国ってお箸の国だったんですか?」
「‥‥どんだけ秘境って思ってるんだよ」
それもそうか。
お客さん用のお箸を渡して、ご飯を食べる。
最初は恐々とご飯に箸をつけていたオミさんが、私がバクバク食べると、自分も口に入れる。
と、目を見開く。
「お前、上手いな」
「神様を唸らせる焼肉のタレを作った会社に感謝して下さい」
「タレ?会社?」
「このタレをお肉に掛けるだけで、味が完成されるんですよ」
「すげぇな‥。人間界‥」
ボソッと呟く一言に思わず頬が緩む。
オミさんの長い髪が、不意にサラリと前に流れてくる。ご飯に髪が触れそうだなぁ。
「オミさん、髪縛ります?髪ゴムがあるんで‥」
「髪ゴム?」
「ああ、これです」
ちょうど手首に付けていたんで、その髪ゴムを渡すが‥、それをじっと見つめて、
「出来ない」
「ですよねー‥。やり方、自分で覚えて下さいよ」
私は立って、オミさんの後ろにちょっと膝立ちする。
「髪、触りますよ」
「お、おう‥」
サッと髪を手の中に集めるけど、すっごいサラサラだ!
赤い髪も初めて現物を見るけど綺麗な色合いに、髪を縛りつつ思わず感心してしまう。サラッと流れる赤い髪を見て、
「綺麗な色ですね」
「お、おう‥まぁな」
ふむ。どうやら褒められなれてないのは間違いないな。
なんか口数少なくなってるし。
オミさんの髪をしばると、私はまた自分の食べている方に座り直してご飯を食べ始める。うん、焼肉のタレよ有難う。最高です。そんな事を思いつつ、自分のベッドがチラリと見える。
「オミさんの寝る場所どうしよう‥」
「一緒に寝ればいいだろ?」
「「はぁああああぁあああ!!??」」
「‥俺は神だぞ?お前をどうこうする気ねぇぞ」
「「当たり前です。叩き出しますよ!??」」
ギロッと睨むとオミさんが「こえー」って言いつつ、面白そうに笑った。
‥なんとまぁ屈託なく笑うこと。
思わず肩の力が抜けるけど、ベッド問題は急務だ。
一緒に住んでいいって言っちゃったけど、これ、ものすごくまずったな‥、遠い目をしてカップスープを飲みつつ、ネットで「怒られない断り方」って検索したくなった‥。