竜の神様、モノの神様修行をする。11
金髪の髪に誘われるように、巨大迷路の奥に、奥にと歩いていくと、電気の付いていない教室の薄暗い教室の奥に小さな桐箱が机の上にあるのが見えた。
そして、桐箱の手前には長谷君や、さっき壁の中へと引き込まれた女の子も、委員長も倒れている。
「みんな!!」
『ほうら、食べなかったぞ?さ、約束だ。この封印を解け』
長谷君の側へ行くと、静かに呼吸している様子を見てようやくホッと胸を撫で下ろした。そうして桐箱を見ると、蓋がガタガタと震えている。
『さぁ、さぁ、封印を解け。この護符を剥がせ』
これを剥がしたら、もっとまずいんだろう。
でも、長谷君達を人質にされている以上、剥がさないと不味いのだろう。
ドクドクと心臓が鳴る。
オミさん、早く来て!ここへ来て!!!何度も願うけれど、辺りはまだ静かなままだ。た、頼む〜〜〜!!!神様!!そんな私を見て、金髪の髪が苛立たしげに動いて、長谷君の首に巻きつく。
「ちょっと!!約束はちゃんと守って!!」
『ならば早くしろ!!!』
うう〜〜!!!
こんな事なら、やっぱりオミさんの言う通り結婚しておけば良かったかも。
そうすれば、私も祓える力を身につけて、一人でどうにか出来たかもしれない。‥なんで自分はこんなに無力なんだ‥こんなに何も出来ないなんて‥。当たり前の事なのに、オミさんのあの絶対的な大きな力を見ていただけに、ひしひしと自分の小ささを痛感する。
じわっと涙が浮かんで‥。でも悔しくて、涙を誤魔化すように乱暴に手の甲で拭いてから、桐箱に触れる。
護符には文字が書いてある。
薄暗くて見えにくいけれど、遮光カーテンの隙間から漏れるお日様の光で何とか読めた。明治の始まりに届いた物‥って書いてあるから、きっと魂が入ったんだろうな。そして、悪食に食われたか、変わってしまったか‥。
爪の先でそっと護符を端っこから、ゆっくり摘んでみる。
ペリッと軽い音がして、護符の紙がゆっくりと剥がれていくたびに、桐箱の中の黒いモノが『早く、早く!!!早く!!!』と叫ぶので、怖くて心臓がもうずっとドクドクと鳴っている。
震える指先で、できるだけゆっくりと護符の紙を剥がし終えたその瞬間、
桐箱の中から勢いよく大きな黒い塊が飛び出して、興奮したように自分の体を確認するように見回す。それを見て、ぶわりと背筋に寒気が一気に走る。
間違いない、悪食だ。
それもかなり強力な力を持っている。
霊感なんて全然ないはずなのに、ものすごい禍々しさを感じて、足がガクガク震える。
『やっと!!やっと出られた!!!俺のこの力を漏れ出しても、人間は気が付かないから苦労したぞ!!!!さぁああああ、まずはお前を食って、力をつけねば!!!』
やっぱり!!約束なんて守る気ありませんでしたね!?
黒い塊が長谷君の方へ近付いた瞬間、衝動的に駆け寄って、手に持っていた黒い塊の背中に剥がした護符を叩きつけるように貼り付けた。
途端、ビリビリと電流が黒い塊に流れ、ものすごい叫び声と共に黒い塊がゴロゴロと床を這った。
『貴様、何をした!!何をした!!これを剥がせ!!』
そう言われて剥がすか〜〜!!
まさか貼れるなんて思ってなくて‥、衝動的に貼ったけど、封印の効果はまだあるようだ。黒い塊がこちらへ襲いかかろうと、大きな指先から鋭い爪を出したのを見て、即座に出口の方へと走って行く。
『くそ!!人間のくせに!!』
ギャアギャアと叫びながら、迷路の壁を大きな爪で切り裂きながらこっちへ走ってくるので、こっちももう必死だ!多分、私が龍の力があったから貼れたのか?!っていうか、今はそんな事考えてる場合じゃないけどね!!!
と、足元に何か置いてあった物に躓いて転んだその時、
黒い塊の悪食が私の足を掴む。
「あ」
その途端、オミさんの指輪がバチバチと音を立てたかと思うと、炎が私の体の周りを包んだかと思うと、黒い塊の悪食は急いで私の足から手を離した。
オミさんの力‥!!
悪食も驚いて、私の周りを見る。
『貴様‥半端者か!!』
半端者??
私は驚いて悪食を見ると、ニタリと口だけ悪食が笑う。
な、何??半端者って‥、不意に狐の女の子が言っていた「半端者」の言葉を思い出す。なんだか嫌な予感がして、思わず悪食をじっと見た。




