竜の神様、モノの神様修行をする。10
長谷君に中で友達が倒れているから、助けるのを手伝ってくれって言われて、一緒に大学の中へ入って行ったけど、黒いもやどころではない、霧のようなものが大学の中に充満している‥。
こ、これは、かつてないほどヤバイのでは?
私は長谷君と一緒にドキドキしつつも、構内の中へと歩いて行く。
長谷君は半妖だから大丈夫なのか?っていうか、この光景何も視えてないの??私はあちこちから、こちらを覗き込むように見ている黒い影にヒヤヒヤしっぱなしだ。
「長谷君、どこで友達が倒れてるの?」
「ああ、巨大迷路作ったろ?その一番奥だ」
よりによって一番奥〜〜〜!!!!
私は真っ青になりつつ、長谷君の後ろから迷路の部屋へと入って行く。
「な、なんで一番奥にいるの知ってたの?」
「ああ、古い屋敷が近くにあるだろ?あそこ、委員長の実家らしくてそこから人形を持ってきたんだよ。桐箱に入ってて、古めかしい金髪の人形なんだけど、なんか護符みたいなものが貼ってあってさ〜。それを一番奥に置いて「ちょっと驚かそう」なんて言ってたんだ」
護符!?
それって絶対ヤバイやつでは?!!
でもって、古い屋敷‥って、もしかして、あの悪食が暴れていたという手鏡のあった屋敷?
ここら辺では、屋敷なんて言われる場所はあそこしかない‥。
ゾクリとして、すぐにでもここから離れないとまずい!そう思った瞬間、どこからかすすり泣く声がする。長谷君も聞こえたのか、周囲を見回す。
「誰かいるのか?大丈夫か?」
すると、カサカサと何かが迷路を這うような音が聞こえる。
瞬間ゾクゾクしたものが背筋を這って、頭の中で逃げろと警報が鳴り始める。ダメ!!これは絶対危険な奴だ!!
「長谷君、逃げるよ!!」
「え?!」
長谷君の腕をグイッと引っ張って、元来た道を戻ろうと駆け出したその瞬間、金色の長い髪が迷路の壁の上から、そして床からものすごい勢いでこちらに襲いかかってきた。
「え?ええええ????」
「長谷君!!走って!!!」
驚いて髪を見る長谷君の腕を構わず引っ張って、必死に駆け出す。髪はまるで生き物のように私と長谷君を捕まえようとする。怖い!!怖すぎる〜〜!!!
と、目の前に今まさに迷路へ入って来た女の子が、驚いた顔をしてこちらを見て、
「え?どうしたの?」
「に、逃げて〜〜!!!!!」
「へ?」
そう叫んだ瞬間、女の子の真横から金髪が出てきたかと思うと、腰にグルリとものすごい勢いで巻きついたかと思うと、壁の中へ引っ張り込んでしまった。
私と長谷君は目の前で起きた一瞬の出来事に、体が固まってしまった。
「壁に‥!」
「青葉、危ない!!」
ドンと長谷君に突き飛ばされて、倒れた拍子に金髪が長谷君の体に巻きついて、またも壁の中へと引っ張り込んでしまった!は、長谷君まで!!と、金髪がこちらへまたも向かってきたのを、なんとか起き上がって避けた。
教室から出ると、金髪はそこで動きを止めた。
「教室からは出られないんだ‥」
ドクドクと、心臓が鳴る。
早くオミさんに知らせないと、危険だ。
震える手でスマホを取り出そうとして、不意にブレスレットの花を擦った。
その途端、
『出せ!!!ここから出せ!!!出さねば、人間を全部食う!!!』
大きな叫び声が聞こえて、体がビクッと跳ねた。
だ、誰の声???
シャラっとブレスレットが揺れて、物の声だと気付いたけど‥、ものすごい憎悪に満ちた声に私は足がガクガク震える。
『お前!!人間を全部食うぞ!!今すぐここから出せ!!!出せ!!!』
「ま、待って!!」
私が叫ぶと、声はピタリと止んだ。
そうして、今度はあれほど叫んでいた声が猫なで声になる。
『ああ、やはり聞こえたのか。お前、力があるな?ならば奥へと来い。ただの人間では来られないしな‥。そしてここから出せ。出なければ捉えた人間を今すぐ全部食うぞ?』
もう心臓がものすごい勢いで鳴っている。
オミさんを待つべき?
でも、少しでも早く行かないと間に合わないかもしれない。
ああ、せめて仲直りをちゃんとしてから学校へ来るべきだったな‥。そう思いつつ、迷路の奥を見る。
「出すから、友達を食べないと約束して」
『約束しよう‥』
ゴクリと唾を飲み込んで、教室へ一歩、足を踏み入れようとすると、教室の入り口にまるで埋め尽くすかのようにあった金髪の束は、すっと波が引くように奥へ、奥へと戻っていく。
まるで、「こっちへ来い」とばかりに金髪が私を誘うようだ。
オミさん早く来てね‥。
そう願いながら、私は巨大迷路の奥へと足を進めた。




