竜の神様、モノの神様修行をする。6
オミさんに大学まで送って貰い、帰りはシキさんだったり、オミさんだったりの生活が数日続き、文化祭への準備も着々と進んでいるけれど‥、このところ大学には黒いもやが多く見られるようになった。
黒いもやは特別何かする訳ではないけど‥、普段はハッキリ視えないのに、こんなに視えるってよくないよね?帰ったらオミさんに相談しよう‥、そんな事を考えていると、
「ねー!この書類提出してないよ?!」
「あのグループ全然手伝ってくれないんだけど!」
「あいつさぁ、すぐに違う事言ってくるんだよね」
あちこちでギスギスした会話が聞こえてくる。
なんか黒いもやが増えるに伴って、そこかしこで負の感情が大きくなっているのが分かる。‥これは、ちょっとよろしくないなぁ。私でも黒いもやが祓えたらなぁ‥そう思いつつ講義を終えて、教室を移動しようとしていると、前の方から結構派手な男の子達のグループがこちらへ歩いてくる。
「お、青葉ちゃんだ〜!今日は一人?」
「へ?」
金髪に染めた男の子にいきなり話しかけられて、驚いて目を丸くすると、そばにいた男の子達が「何いきなり話かけてんの〜?」「超驚いてるじゃん!」と、ドッと笑い出す。え、ええっと、名前もろくに知らないし、そんな呼び合う仲でもないのに、突然どうした?!男の子達は、そんな戸惑っている私を気にも止めず、こちらを見ると、
「一人なら一緒にお茶でも行かない?」
「はぁあああ?」
思ったよりも、何言ってるの?感が出てしまったのか、男の子達は途端に顔を歪める。あ、まずい。なんかまずいぞ??男の子達は怖い雰囲気を纏わせ、私をジロッと見るので、思わず後ずさりすると、黒いもやが金髪の男の子の頭の上にふわりと降りてきたかと思うと、ピタッとくっ付いた。
まずい!!
瞬間、これは危ない!そう思った途端‥、風が後ろから流れてきて、金髪の男の子の頭から吹き飛ばした。
すると金髪の男の子も、そばにいた男の子達も、さっきまでのなんだか怖い顔つきではなくなった。これって、もしかして何かの力なの?私は周囲を見回すけれど、窓はないし、何かの気配もしない。
気のせいだったの?
驚いていると、長谷君がこちらへ駆けてくる。
「青葉ー!悪い!ちょっとこっち手伝ってくれる?」
「はい、喜んで!!!」
ちょっとここにいるのは怖い!!
どこかの飲み屋のような掛け声みたいになっちゃったけど、急いで長谷君の方へ走って行くと、派手な男の子達はあっさり諦めてくれたのか、「長谷邪魔すんな〜」と言いつつ、教室を出ていった。
よ、良かった‥。
まだちょっと囲まれていた事にも、黒いもやが金髪の子の頭にくっ付いた衝撃もあって、私はドキドキしていたけど‥、もう大丈夫そうだ。ほぉっと息を吐くと、長谷君が小さく笑って、
「なんかちょっとまずいかなって思って声を掛けたんだけど、大丈夫か?」
「いや、すごく助かりました‥。ありがとう」
「いつもはルディオミがいるからな〜」
「う、うん‥」
オミさんと私はそんなニコイチな感じなのか?
そう思ったけど、大学入って早々にそういえばオミさんは私とずっと一緒にいたな‥と、思い直した。そうだよなぁ、ずっと一緒にいたのに急に一人で大学だし、寂しいかも‥。いやいや、人はそもそも一人で生きていくものですし!?慌てて思い直して、自分に喝を入れておいた。
「まだルディオミ忙しいのか?」
「あ、うん」
「カウンセリングの仕事って確かに大変そうだもんなー!」
そ、それ覚えてたんだ!?
今やカウンセリングどころか、婚活のような状態になってるけど‥。
昨日の、狐の子と兎の子に「私と結婚して!」って言われていたのを思い出すと、ちょっと胸がチクっとする。‥べ、別に大丈夫だし?!頭を振って、そんな考えを追い払っていると、長谷君が優しく微笑んで、
「早く戻ってくるといいな」
「‥‥う、うん」
「あ、そういえば巨大迷路はもう完成したんだけど、最後にすげー仕掛けするって実行委員長が言ってたぞ」
「ええ??!仕掛け?」
「まだ秘密らしいけどなー」
「結構、奥は怖い仕上がりになってたのに、更に怖くするの?」
「青葉、結構怖がり?」
「‥そうですね」
「その割には夏のお化け屋敷は一人だったよな」
あの時は姿が見えなかったけどオミさんがいたしなぁ。
ははっと笑って誤魔化すけど、本番は絶対オミさんといよう!例え「俺といたいのか?」とか言われて、調子づかれても怖いの嫌だし。そう思っていたら長谷君がニコッと笑って、
「怖かったら、俺もいるぞ!」
「ありがとう。いざとなったらオミさんを前面に立たせるから大丈夫!」
大丈夫だよ!って伝えたかったのに、なぜか長谷君の顔が複雑な表情になってしまった。心配かけまいと思ったんだけど、ダメだったのかな??




